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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第十章 妖怪の都は燃えているか
139/236

10-11 動物裁判という名の術となれ

 人類は傲慢だ。

 人類よ、人類はいつから自然を裁く立場に立ったのだ。

 お前達も猿の一種として自然で発生したはずだ。自然物であったのではないか。どうして発祥を忘れて自然を裁く。お前達に羞恥心はないというのか。

 忘れてくれるな。お前達も我々と同じ自然物である事を。大地に足をつけただけの動物の一種でしかないのだと。

 動物の一種でしかないお前達が、お前達を含めた自然すべてをどうして裁けると思う。その傲慢さこそがお前達が裁判で問う罪ではないのか。


 人類は傲慢だ。

 人類よ、自然を裁いてなんとする。

 自然は裁くものではない。自然は受け入れるものだ。

 ほがらかな季節に動き始め、生い茂る季節に繁殖し、葉落ちる季節に縮み、凍える季節に死に絶える。

 自然から資源を搾取しているのだから、自然によって淘汰されても当然である。特に否定する要素はないだろう。

 だというのにどうして、自然ばかりを裁いて罪を問う。

 自然による被害ばかりを罪に問うなど、愚かしい。

 自然の恵みを奪う自らこそがまず裁かれるべきではないのか。


 人類は傲慢だ。

 人類の裁判なる行動は、公平性を問うものではないのか。

 公平性を問うべき手段を用いて物言わぬ自然を一方的におとしめるなど、矛盾ではないのか。

 人類は一方的に自然を貶めたいだけなのか。そうなのか。

 であれば、我等は決して人類のおごりを許しはしないだろう。


 我等が受けし苦痛は罪と炎。冤罪と不名誉をなすりつけて、我等を断罪した炎。

 憎き人類に同じ苦痛を味あわせるまで、我等が炎、決して消えず。


 我等が名は……動物裁判。動物裁判により罪状を言い渡された自然動物の集合体。



「――動物裁判の本質は裁く事にはない。自然の猛威と戦うツールとして、裁判を使ったに過ぎないぞ」



 ――我等の一つ、小さきネズミをまいばっく(・・・・・)より取り上げし人類の言葉に、我等は驚愕する。

 人類よ。お前は今、なんと言った?



「自然と戦うと言った。科学も技術も発展途上の人類が、それでも自分達が持っている道具だけで圧倒的な自然に立ち向かった。その道具が動物裁判だ。別に公平性や正当性を問いたかった訳ではない。裁判以外に立ち向かえそうなツールがなかっただけだ」



 自然と戦う、だと。

 間違っているぞ、人類よ。お前達も自然の一種なれば、大いなる全体と戦うなど間違っている。

 自然と共に生きて、歩む。それが正しく美しい。


「自然の一種? 共に生きる? そんな事はあるか。自然が生き物を育むとよく言われるが、その考え方こそ烏滸おこがましい。生き物が自然の中で勝手に生きているだけじゃないか」


 違うぞ、違う。

 天然自然より生まれし我々は、自然物の一種。自然循環の仕組みに組み込まれているならば自然の一つだ。そんな基礎的な部分をどうして否定する。


「自然循環という言葉は綺麗過ぎるな。互いの尾を喰い合っているウロボロスがたまたま続いているだけ。ミミズもオケラもアメンボも勝手気ままに繁栄しているだけ」


 ち、違う。


「仮にお前達の言う美しい自然循環というものが真実だとしても、地球では過去五回も循環が途切れている。永劫に続くものではない。自然の一種だと甘んじていると容易く絶滅してしまうのが生物だ。自然は尊重しながらも、戦うべき相手なんだ」


 お、おごるな。

 た、戦うな。

 その発想、その生存願望は無謀だ。


「生き残るために戦う事の何が悪い」


 生存は否定しない。

 だが、人類よ。お前達は戦った結果、自然摂理に圧倒されて敗北するつもりか。寒波で凍え死ぬ事。熱波で干からびる事。他生物に捕食される事――。そのすべてに逐一悲観するなど、それは……そんな生存戦略は……ただただ生き地獄だ。

 人類よ。我等は警告する。自然を受け入れよ。

 さすれば、個体がことごとく死に、種の絶滅を迎えたとしても悲しみは存在しない。

 自然摂理の一現象に過ぎない出来事に、心動かされるなかれ。


「それでも、人類は戦う道を選んだ。冬がくるたび家族を失うのが嫌になった。飢饉が来るたび誰かが飢え死にするのが嫌になった。気候変動するたび絶滅しかけるのが嫌になった」


 再度、警告する。人類の戦いは必ず敗北に終わる。

 自然は限りないのだ。水溜まりを越えた先には川がある。川を越えた先には湖がある。湖を越えた先には海がある。一つの領域を超えたとして、より大きな自然が我々を包括している。

 きっと、海の先、空の先にも我々が知りえない未知の自然があるのだろう。

 きっと、そんな未知の自然をどうにか乗り越えた後も、より巨大で途方もない自然が現れて、圧倒的な摂理の前に人類は完敗するのだろう。

 だから、人類よ。自然と戦うなどという約束された敗北は、即刻、諦めよ。

 だから、人類よ。自然に滅ぼされるとしても、自然に甘んじよう。



「不毛と化した黄昏世界に召喚されておいて、まだそんななさけない事を言うつもりか! こんな終わり方が本当にお望みか?!」



 我等は……我等とて、このような終わりを望んではっ!


「敗北が決まっているからと戦わなければ、どの世界だろうと生命の末路はこんなにも不毛だ! 惑星にだって寿命は存在するからな。だったら、俺達は自然相手だろうと戦うしかないだろう」


 それでも人類よ、敗北が恐ろしくないのか。

 それでも人類よ、戦う過程で味わう悲痛や絶望が恐ろしくないのか。

 それでも人類よ、お前達は動物裁判などという誤った手段に頼らなければならない癖に、それでも戦うというのか。間違いなく敗北するというのに、どのように戦うというのか。


「だから、動物裁判の集合霊よ。手を貸せ! 自然の猛威に立ち向かうために力を貸してくれっ」


 傲慢過ぎて、もはや、笑えてくるな。人類よ。

 我等を裁判にかけておいて、我等が人類に手を貸す理由を教えてくれ。



「人類の敗北を信じているなら、人類が自然と戦う手段として最も近くで見学していろっ!!」



 人類の傲慢さ、は我等の理解を遥かに超えている。

 同情も共感も何一つできはしない。

 だが。

 だが。だが。だが。


 だが、志半ばで我等が警告した通りに敗北する姿を傍観できるというのであれば。

 あるいは、本当に何かの間違いで、自然の一種でありながら自然の猛威に打ち勝つというのであれば――悪くはない。


 我等が名は……動物裁判。人類が大自然に挑戦し敗北する様を目撃する、自然と戦うためのすべとなろう。


==========

▼動物裁判の被告動物 → 動物裁判

==========

“●レベル:0”


“ステータス詳細

 ●力:1~10 守:1~5 速:1~20

 ●魔:1~5/1~5

 ●運:0”


 ●人類復讐者固有スキル『人類萎縮権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類断罪権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類平伏権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類搾取権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類報復権』

 ●実績達成スキル『正体不明』(無効)

 ●実績達成スキル『動物裁判』

 ●実績達成スキル『破門判決』”


“職業詳細

 ●人類復讐者(Aランク)”

==========


 さあ、手始めだ。

 まずは惑星に降り注ぐ大火炎という形の自然の猛威に、対処する。


『――Squeak.(チュー)。『動物裁判』発動。判決は流刑――』


 我々をけしかけた男を含め人類だけ(・・)を流刑に処し、まとめて大火炎の被害範囲より遠ざける。

 大自然に人類はいつか破れる宿命とはいえ、この程度の炎ではまだ絶滅するには早い。





「――強制送還が始まったか。まあ、魔王の調伏に成功すれば、脅威と見なされもするだろう」


 背後に現れた炎のゲートに吸い込まれていく優太郎。彼は御影の肩に動物裁判のネズミを預けると、黄昏世界より退去していく。


「戦う術は預けた。俺を詐称する奴、ただの村娘を詐称する奴。嘘つきは多いが、後はどうにかしてみせろ、御影」









 惑星表面を焦がすプロミネンス。

 たかが数人を罰するには馬鹿馬鹿しい、惑星焼却の悲劇を起こしかねない熱量の投射にすべては焼け落ちた。被害規模は不明。州を複数巻き込んだ大災害になっていたとしても決しておかしくはない。

 生きとし生けるものはすべて燃えてしまったかのように見える。

 そんな灼熱地獄の例外は、プロミネンスを発生させた張本人、黒八卦炉・白骨夫人。

 または、動物裁判の裁定により圏外へと逃れた御影一行。

 または――、



『――また、あの子じゃない。あの子の、火じゃないッ』



 ――どのような地球生命、妖怪、神性であろうと燃やしくす紅炎の柱の内部より、いら立った女の声が聞こえてくる。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
まさか人類復讐者を説き伏せるとは やはりとんでもない男よこの親友
[一言] いつかネタで歴代登場人物とか戦わせたりしないかな〜(チラチラ >どのような地球生命、妖怪、神性であろうと燃やし尽つくす ってことはこの女は炎えの完全な耐性があるのかな? 「耐日射(極)とか…
[一言] ユウタロウの強者感がとどまる所を知らない レベル0なのがステータス閲覧対策みたいに勘違いされないかな
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