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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第十章 妖怪の都は燃えているか
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10-6 証人尋問

 黒曜の窮地を目撃した俺は、『暗澹あんたん』を解除して跳び出す。

 刺突ナイフは適さない。代わりに取り出したサバイバルナイフを、混世魔王に向けてではなく、己の顔に沿わせた。

 仮面を取り外そうとすると耐え難い頭痛に襲われる。仮面が張り付いた顔をぐ方がまだ耐えられるレベルの痛みである。大事な黒曜のためならば、一肌、顔肌くらいささげよう。

 刃を、こめかみに食い込ませていく。



「――もうっ! はずすなって、言っているじゃないッ!!」



 けれども、急速降下してきたクゥの声が、俺の凶行を思い留まらせた。


「ほら、撃って。やってしまって、紅孩児こうがいじ

「おい、てめぇ。俺のつのは取っ手じゃねぇんだぞ?! 神罰執行“スピキュール”」


 遅れて上空より落ちてきた赤い熱線。倒れる黒曜の体をなぞり正確に、まるで工業製品のレーザー加工機のごとき精度で照射されて、跳び掛かっていたネズミを掃討した。

 更に伸ばされた如意棒を支えにしながら降りてきたのはクゥ。バランスが良いなどと褒めてはいられない。俺でさえ手を焼いて包囲されてしまっているというのに、戦場のど真ん中に村娘が降りてしまってどうするつもりだ。


『罪あり、罪あり。なんじに罪あり』

『我等に危害を加えたな。罪あり!』


 そうだ。特にこの混世魔王には厄介やっかいなカウンター手段がある。下手に手を出してしまってはお終いだ。ミイラ取りがミイラとなり、黒曜の救援に駆けつけたクゥも餌食となってしまう。

 考えろ。

 今すぐ苦境を乗り切る方法を思い付け。無駄に包囲攻撃され続けていた訳ではないだろう。混世魔王のカウンターの正体について考えるのだ。


「混世魔王固有のスキルなのは間違いない」


 危害を受けると共に罪を問い、裁判のように判決を下すのが一連の流れだ。迂遠うえんであっても必須の工程であり、裁判形式にしなければ発動できない代わりに理不尽な結果を引き起こせるのだろう。

 工程が多いのは欠点だ。単純に発動するまで時間がかかる。

 また、欠点であると同時に、混世魔王の正体を探るヒントにもなる。経験や由来がスキル化した実績達成スキルは、本人を写し出す鏡にもなるからだ。

 だが、ネズミと裁判の関係性が分からない。ネズミだけではなく、モグラや虫にも関係しているというのもさっぱりだ。

 この混世魔王の『正体不明』は知識がなければ突破できない。雑学を問うクイズと同じで、正解を知っていなければ解答ボタンさえ押せないのだ。

 残念ながら俺には分からない。

 ヒマワリと同じく地球産の魔王と思しき混世魔王。人類に深い復讐心を持った混世魔王ならば、地球人の俺が知っていろよと糾弾されても仕方がない。が、分からないものは分からないのだ。

 今すぐに混世魔王の『正体不明』を解除して討伐するなんてウルトラCな解決策は、俺にはない。


「せめてスキルの対抗策だけでも」


 かなりの略式、自己中心的であっても裁判を必要とする。

 つけるとすれば、ここしかない。地球産の魔王なら、地球形式の裁判に従うと期待しよう。


『罪あり。罪状は――』

「さ、裁判長っ! 被告には弁護人がついておりません。弁護人なく裁判は行えません!」

『――弁護士は一分以内に現れよ。さもなくば、被告人が弁護士を兼任するものとする』


 よし、一分だが余裕ができたぞ。混世魔王にとって裁判は攻撃手段であると同時に制約になっている。

 クゥと黒曜の周囲にいるネズミだけでなく、俺に向かっていたネズミも含めて全体が活動を休止させている。弁護士制度の概念をネズミが理解しているというのも不気味だが。

 弁護士は俺が務める。動かないネズミ共も、俺が近づくと道を作る。踏まずに進めそうだ。


「無茶をしたな、クゥ」

「無茶は御影君の方。私はすぐに筋斗雲きんとうんに戻るつもりだった。間に合わなかったけど」

『弁護人。被告の罪について主張はあるか?』


 耳元で語りかけられた。

 虫の不快な羽音が聞こえる。カナブンの親戚の親戚くらいの甲虫が話したらしい。

 筋斗雲が待っている上空付近には同じ虫が飛んでおり、空にも逃げ場がないと主張しているようだ。


「裁判長。被告の無実を主張するため、証人を呼びたいと思います」

『証人尋問を認める。一分以内に召喚せよ』


 証人を呼んで主張したところで、混世魔王が聞き入れるはずがない。

 俺としても、クゥの無実を主張できる証人など知らないのでお互い様である。


「どうするつもりよ」

「許可された通り、召喚する。クゥ、黒八卦炉の宝玉は当然、持っているな」


 助けに降りてきたのが紅孩児ではなくクゥで助かった。クゥは肌身離さず黒八卦炉の宝玉を所持している。実際、クゥは持っていた。

 受け取った真っ黒い球体に念じて願う。


 どうか、『正体不明』の混世魔王の正体を知る者を、この場に召喚してくれ。


 炎のゲートが楕円に生じる。

 世界を繋げる道を通じて、ゆっくりとした歩みでその男は現れる。



「――たく、非戦闘員を呼び出すな」



 どこにでもいそうな大学生男子が、やれやれ、とでも言いたげな表情でゲートの中から現れた。


「レベル0の俺を呼んだところで、役にはたたねぇからな」

「ゆ、優太郎っ! やっぱりお前は俺の親友か!」


==========

▼優太郎

==========

“●レベル:0”

==========


 ラフな私服の格好で優太郎は召喚された。

 手には、まるで夜のコンビニ帰りに呼び出されたみたいにビニール袋を……あれ、どうしてこいつ、自前の袋に商品を詰め込んでいるのだろう。


「お前があっちこっち異世界転移している間に、ビニール袋が有料化されてんだよ」

「嘘だろ?!」

「ユウタロウッ?! って、ブタじゃない??」

「初対面の奴が俺をブタ呼ばわりするな! ひどい風評被害だ」


 優太郎は左を見て、右を見て、ついでに上を見た。最後にクゥを見て「これが新しい女か」とため息を吐いた。いきなり呼び出した俺も悪いが、まったく状況判断できていないな。


「四面楚歌の状況で呼び出しやがって。俺にどうしろと」

「ネズミや虫、モグラもいたか。それと、裁判がキーワードだ。たったこれだけで、周囲のコイツ等の正体を残り五秒で当てろ。五、四、三……」


 優太郎は二秒目くらいまで思考していたが、一秒目を言い終わる前に解答した。



「――ぱっと思いつくのは、動物裁判、だろうな。人間以外の、主には動物に対して人間と同じ扱いで行われた裁判。中世から近代にかけての西洋社会で行われていたらしいが、似たような裁判は世界各地で紀元前から行われている。それだけ歴史があれば、裁判で判決を受けた動物の屈辱やうらみも、さぞ深いだろうよ」

『――ナッ?! そんな……馬鹿なッ!! 我等の『正体不明』が、ただの証人ごときにっ、こんな一瞬で』


==========

蝟集いしゅうの混世魔王 偽名、窫窳あつゆ → 動物裁判の被告動物

==========

“●レベル:0”


“ステータス詳細

 ●力:1~10 守:1~5 速:1~20

 ●魔:1~5/1~5

 ●運:0”


 ●人類復讐者固有スキル『人類萎縮権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類断罪権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類平伏権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類搾取権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類報復権』

 ●実績達成スキル『正体不明』(無効)

 ●実績達成スキル『動物裁判』

 ●実績達成スキル『破門判決』”


“職業詳細

 ●人類復讐者(Aランク)”

==========

“『動物裁判』、自分の尺度におとしめるために相手をさばく、恥知らずなスキル。


 スキル所持者のルールを守らない者を、スキル所持者のルールで裁く”


“《追記》

 人類が自然物に行う場合、裁く事自体に意味はないが、裁く対象たる自然物の格を引きずり落とす事が可能。

 一方、人類に裁かれた自然物は裁判による死罪を単純学習しただけのため、攻撃された場合に自己中心的な私刑を実施する事しかできない”

==========

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
[良い点] 優太郎だっっっっ!!やっぱり親友はすべてを解決してくれる。混成魔王さえも一瞬で正体を暴いてしまうってかっこよすぎるぜ。優太郎がいたら混成魔王の初登場の場面でほとんどの魔王の正体が判明しそう…
[一言] 転職もできて人を召喚(求人)もできる黒八卦炉 もしかして求人アプリ?
[一言] 森の処刑って世界樹にも通るのかな
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