10-4 人類復讐者職のスキル
付近一帯に集まるネズミすべてを白骨夫人は掌握した。誘惑によって保身を忘れさせ、がむしゃらに俺だけを襲わせる。カウンターなどという手段に頼らせず、暴走させている。
人為的なスタンピードだ。
集まり過ぎた結果、視界の六割がネズミとは恐れるべき光景ではある。が、状況はこれまでと変わらない。所詮は小動物の無謀な突撃でしかない。
『復讐する。人類復讐者たる我等は復讐する! 萎縮せよ、人類!! 『人類萎縮権』執行』
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“『人類萎縮権』、復讐するべき人類に恐怖を植え付け萎縮させるスキル。
相手が人の類の場合、攻撃で与えられる苦痛と恐怖が二倍に補正される。
また、攻撃しなくとも、人の類はスキル保持者を知覚しただけで言い知れぬ感覚に怯えて竦み、パラメーター全体が二割減の補正を受ける”
“取得条件。
人類に復讐する権利を得ると同時に発現するスキル”
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けれども、視界に広がる群れはただの小動物ではない。ギラつく視線によって筋肉が強制萎縮させられて気が付く。
目前の蝟集は、復讐の意思を有した自然の猛威そのものだ。
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▼御影
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“ステータス詳細
●力:280 → 224(萎縮)
●守:130 → 104(萎縮)
●速:437 → 349(萎縮)
●魔:122/122 → 97/97(萎縮)
●運:130 → 104(萎縮)”
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『復讐する。人類復讐者たる我等は復讐する! 搾取されろ、人類!! 『人類搾取権』執行』
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“『人類搾取権』、復讐するべき人類から搾取するのは当然のスキル。
人類によって不幸な目に遭ったのであれば、人類から搾取して負債を補うのは当然の権利である。
ただし、スキルごときで搾取できるのは『魔』に過ぎない”
“取得条件。
人類に復讐する権利を有する者のBランクスキル”
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▼御影
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“ステータス詳細
●魔:97/97 → 0/97(搾取)”
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無数の視線を向けられた時点で『暗影』を連続使用してでも視界外への回避を優先するべきだった。体内より『魔』が霧散し、奪われてから後悔しても遅過ぎる。人類復讐者職との戦闘時に『魔』が奪われる事象は経験済みだったというのに、ネズミ共がスキルを温存していた所為で完全に油断した。
ただ、『魔』をより多く奪うならスキルの使用順を逆にするべきだったはずだが。
ネズミだから計算ができない、というのとは違う気がする。白骨夫人の誘惑によって暴走状態となったネズミ共は自然災害に近い。荒ぶる自然は視点の高さが違う。地を這う人間の状態などいちいち考えない。
視点レイヤーの違う自然相手というのはゾっとしないが、そういった無駄に視点が高い系が手合いなら隙もあるはずだ。
萎縮させて搾取したところで俺にダメージを負わせる決定打が無い事さえ、気にしていない可能性さえある。
体の複数個所を噛みつかれても、やはりダメージは負わない。
『復讐する。人類復讐者たる我等は復讐する! 断罪しよう、人類!! 『人類断罪権』執行』
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“『人類断罪権』、罪深き人類を断罪するスキル。
本スキル所持者に対し、現在進行形で不当な罪を犯している人の類が知覚範囲に存在する場合、『力』を一割×人数分、強化する”
“取得条件。
人類に復讐する権利を有する者のDランクスキル”
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▼蝟集の混世魔王 偽名、窫窳
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“ステータス詳細
●力:3 → 174(約五百人分)”
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『この人類の住処ならば、復讐対象には困らん』
『我等を貶す人類の罪が、お前を断罪する』
『人類の有り様こそが罪なのだ!』
ま、待って欲しい。
急に前歯から掛かる圧力が高まって、肉を噛み千切られて血が噴き出したぞ。
感じるべき痛覚が驚愕によって鈍化してしまっている所為で分からないが、一気に重傷を負っていないだろうか、俺。
追加で強化スキルを使用されたのか。ひ弱なネズミがレベル100の体を千切っていく。何もしないでいると三秒と持たず骨だけになってしまいそうだ。
体に噛み付いたネズミ共は、釣り針のごとく歯に返しでも備わっているのかと言いたくなるくらいに外れてくれない。掴んでの除去は無理だった。
「喰われてたまるかッ。『暗澹』だ!」
少しでも的を絞らせないために、視界ゼロの暗澹空間を最大展開する。
カウンターが怖いとか言っていられないため、体中のネズミをナイフで削ぎ落す。幸いにも『守』に変化は見られず除去は容易いが、どれだけ噛み付いているのか分からない。落とした先から、また噛みつかれている。
仮面に衝突音。新手の歯がプラスチック曲面に弾かれた音だ。斬った数の倍を超える数が暗澹空間へと跳び込んでいるらしい。
『――罪あり。罪あ――』
「頭だけで喋るな。全部駆除してやるぞ」
それでも、捌き切るしかない。
斬って地面に落としたネズミがスキルを発動させる前に踏み潰す。単純な速度勝負だ。ネズミ算がいつまで続くか試してやる。
大群に追い込まれた御影を、機嫌良く眺めているのは白骨夫人だ。今日一番の笑顔を作っている。
御影を中心に展開された光を通さない黒い半球は『暗澹』だろう。籠城しているつもりのようだが、『暗澹』の効果時間はたったの一分。いや、血を流しながら濁流のごとく押し寄せるネズミを捌いているのなら、スタミナ切れの方が早いかもしれない。
意外にも『暗澹』の中にいる間は妙なカウンタースキルを使われないらしいが。ネズミ共の視界の中で現行犯でなければならないのかもしれない。それも、やはり『暗澹』が続く限りだ。
王手である。追い詰めたと言ってよい。
「違うわよねぇ。ぱぱァはまだ仮面を外していない。けれども、混世魔王もまだ奥の手はありそう。化物には化物をぶつけて消耗させないと、とっても危なくて首を刈れないわ」
白骨夫人は漁夫の利を狙っている。まともに戦うには危険な御影を混世魔王で弱らせているのだ。
元々はより安全に、狼と徒人のような制約系の呪術で雁字搦めにする予定だったはずなので、白骨夫人としては不満が大きかったが。
「まったく。そのためにも、もっとネズミを呼び寄せないと。忙しいわ」
『怪物的誘惑』のフェロモンの拡散範囲を広げていく。都に散らばったネズミを集めに集めて、そのすべてを御影にぶつけるのだ。
白骨夫人の思惑通りに、色香に誘われたネズミが続々と現れる。
「まだ足りない。もっと必要。さぁさぁ」
まだまだ現れる。
地面を走って現れるだけではなく、地面を掘っていたのか白骨夫人の足元から顔を出すモノまでいた。
「あら……? アナタ、ネズミ??」
『――我等は自然に帰する。ゆえに、我等は何かに使われるものではなく、我等を愚弄する者に復讐を! 『人類報復権』を執行する』
白骨夫人を地面の中より見上げていたのは、ネズミではなくモグラである。
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“『人類報復権』、復讐されるべき人類に報復するのは当然のスキル。
人類に対して、スキル所持者が報復を決意させた苦痛、侮蔑を追体験させるスキル”
“取得条件。
人類に復讐するべき権利がAランクまで高まる”
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