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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第九章 快楽と退廃の都
121/236

9-12 狼と徒人 三日目朝

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●狼と徒人、参加者一覧

==========

・御影:生存 … 人間

・クゥ:生存 … 人間

×名前不明(行商):死亡(一日目夜) … 人間

×マード(行商):死亡(二日目昼) … 妖怪

・ファンファ:生存 … ?

×シュンシュ:死亡(二日目夜) … ?

・リント:生存 … ?(マード殺害容疑者)

・食用の男:生存 … ?(マード殺害容疑者)

・オンロ(従業員):生存 … ?(マード殺害容疑者)

・テリャ(従業員):生存 … ?(マード殺害容疑者)

==========


 生きている人間に対して、そして、死んでしまった人間に対しても事情聴取が必要だ。が、今回は死人に対しては難しいかもしれない。


「朝起きたら、彼女、部屋からいなくなっていた」

「眠る前まではいたのに、朝にはもう」


 行方の知れないシュンシュ。彼女と同室のファンファ、リントの二人は揃って戸惑っている。当然だろう。朝起きたら、一人減っていたのである。妖怪が演技しているとすれば大した名役者である。

 行方不明という言い方は曖昧だが、死んでしまっているのは間違いない。俺は深夜未明に、仮面の裏で水面みなもの揺れを聞き取っている。他にいなくなった人物はいないので、ファンファは死んだと見なせる。


「今回は死体を残さず、殺害現場も特定させないか」

「もしかして、御影君対策?」


 クゥの指摘通り、俺の『動け死体』対策だろう。悪霊を呼ぶ一番の触媒たる死体を残らず喰ってしまえば、黒い海の中から悪霊を呼び出すのは難しい。

 シュンシュは妖怪マードの殺害容疑者ではなかった。妖怪の立場から考えれば、殺害しても容疑者が減る事のない、つまり妖怪陣営が不利にならない人間だったと言える。


「妖怪の手掛かりとなる情報が他になければ、ここまでですが」


 最年長の従業員テリャに司会を任せているものの、誰も特に喋らず有益な情報は得られない。


「では、午後に誰が妖怪なのか投票を――」


 集会が閉められようとした時、ふと、床に座って項垂うなだれている男がゆっくりと手を上げる。

 その男は妖怪が食べやすいように髪をすべて剃っており、首には逃走を禁じるための縄。両耳・・は千切られたかのようになくなってしまっている。



「――ソイツ、の部屋から、妖怪が出てくるのを見た」



 上げられた手は人差し指を残して握られていき、残った人差し指は緩慢かんまんな動作で一人の人物へと向けられていく。ほぼ水平となった指の先にいたのは……何故か俺。


「……んんっ?」

「俺、見た。妖怪が、昨日、ソイツの部屋から、出てきた」


 食用の男が初めて口を開いたかと思えば、俺に疑いを向けるとはどういう了見だ。


「いや、いやいやいや。事実無根だ。俺と妖怪に繋がりはない。昨日、部屋から出てきたって何かの見間違い……アっ」


 ちなみに昨日の夜に巡回を命じた悪霊マードの気配はいつの間にか消えている。妖怪に負けたのだろうが、あまり期待していなかったのでそこは気にしていない。

 ただ、妖怪マードを一度部屋に呼びつけたのは、事実だ。


「最初から仮面が怪しいと――」

「二日目のは全部油断させるための演技――」

「弁明させて欲しいッ」


 指先一つで俺への疑いが一気に強まった。流れがかなり悪くなる。


「お、俺を投票で指名したところで大人しく捕まってやらないぞ! いいのか!? 暴れてやるぞ」

「御影君。その主張は次の投票の結果、徒人ただびとが敗北する場合に効果がないと思う。試合はそこで終了だし」


 クゥは冷静に分析していないで、もっと弁護するべきだ。俺の良い所を列挙して悪評を霧散させるのだ。


「御影君の良い所? 良い所……良い? 体しゅ……いやいや。う、うーん」

「真剣に悩むんじゃねぇッ」


 結局、形勢不利のまま朝の集会は解散だ。

 午後の投票までにどうにか挽回ばんかいしなければ、俺が吊られて妖怪に敗北してしまう。




 逃げるように……いや、戦略的なロスカットでロビーから脱出した直後。


「やーい、逃げた」

「ええぃ、うるさい、クゥ。名誉挽回のために証拠を集める。現場に行くぞ」


 死んだシュンシュの部屋へと早歩きで向かう。クゥを置いていかないギリギリの速度だ。

 まず調査するべきは同室のファンファ、リント、両名の証言の検証だ。本当にファンファがいなくなったのか、室内にあらそった痕跡がないのか、を確認しておかねばならない。


「部屋に二人もいて気付かなかったというのは怪しいからな」

「あの二人が両方とも妖怪って事?」

「それくらい分かり易いとありがたい」


 女の部屋であるが気にしない。クゥも連れている。とはいえ、部屋のあるじが戻ってきて文句を言われたくはないので、調査は手早く終わらせたい。

 部屋の扉を堂々と開いた。三人部屋であるが俺とクゥの部屋と広さは変わらないらしい。ベッドも二つだけ。誰か二人が同じベッドをシェアしていたとすればご苦労な事だ。


「普通の部屋って感じね」

「見た目通り、荒らされた形跡はなさそうだ」

「となると、妖怪が静かに侵入して、徒人を一人連れ去ったって事?」


 鍵は単純構造のかんぬきだ。外から鍵を掛けられない代わりに、鍵穴がないためピッキングは不可能になっている。力技で開けたなら破片が散らばるため、すぐに分かる。


「どうかな。妖術で内部の人間を操って開けさせた可能性もあるから一概には言い切れない」

「徒人を操れるなら、操って別の誰かを襲わせる方が完全犯罪だと思う」

「それはそうだが」


 妖怪相手に閂が通じるなら三日目の殺人は起きていないので、セキュリティにはなっていないのは確かである。

 室内を見渡しても手掛かりは発見できなかった。証言を否定する要素はなかったというのが唯一の収穫になる。


「成果がなかったけど、次は?」


 調査を終えて部屋から退散したが、自室に戻らずそのまま次に向かう。


「次が本命なんだが、食用の人の発言はよく考えるとおかしい」

「食用の人……まだ名前聞いていなかったわね」


 そうそう、名前をまだ聞いていな……いが、それは後回しだ。



「首に縄を巻かれて自由行動できない奴が、どうして俺の部屋からマードが出てくる場面を目撃できたと思う?」



 事実を言っている奴が正直者とは限らない。

 妖怪の食用として用意されているだけあって、食用の男は集会以外の時間は調理場の隣にある牢屋に入れられている。俺達の部屋からは遠い位置だ。マードが出てくるところを目撃できたはずがない。

 これは明らかな矛盾だ。


「そういえば、マード殺害の容疑者の一人だったっけ。しかも、犯行に使われた包丁のある調理室に近い場所にいるのよね」

「妖怪の可能性がある」


 調理場に併設される牢屋に急行する。

 午後の投票まで雲隠れされていると困ったが、食用の男は逃げも隠れもせずに牢屋で俺達を待っていた。これまでの無表情が嘘のように顔をほころばせて、来訪を酷く喜んでいるらしい。


「くくっ。遅かったな、救世主職」

「お前、妖怪が擬態していたのか?」

「おいおい。そんな質問で誰が妖怪ですって答えるんだよ」


 食用の男の言う通りだ。

 ここは、紅孩児こうがいじ直伝の『擬態(怪)』破りの質問形式で聞いてみる。



「お前は『擬態(怪)』を使用しているな、とかれたら、はい、と答えるか?」

「くくっ。その質問の答えは……はい、だな。くくっ」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
[気になる点] 体しゅ… だと、やっぱり美味しそ(血が滲んで読めなくなっている)
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