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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第九章 快楽と退廃の都
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9-8 狼と徒人 二日目夜から朝

 相談の結果、パーティーを三分割しての行動となった。

 白骨夫人が現れるという遊戯場に、客として紅孩児が出向く。一方で俺とクゥは下手に動かず宿舎で待つ。白骨夫人の発見を第一としたためだ。

 なお、ユウタロウは単独行動である。


「協調性のない。そもそも、ただの人間、ただの大学生でしかないユウタロウが一人で行動なんて無謀だ。ヨハネスブルク以上に危険な街だぞ」

「誰が人間族だ」

「その仮面、曇り過ぎていない? いい加減にみがけば?」

「場所次第だが、太乙真人戦で見せたお前の実力なら問題ないだろう」


 ユウタロウ、クゥ、紅孩児の三者三様の答えにボコされた俺は黙り込むしかない。黒八卦炉の宝玉探索も行わなければならなかったので、ユウタロウに一任する。


「無理はするなよ、ユウタロウ」

「ふん、俺に気を掛けるな。さっさと白骨夫人とやらを仕留めるんだな。お前の用事が済んで、心残りなく殺し合える時を俺は望んでいるんだ」


 鼻息荒くユウタロウは立ち上がると、校庭をならすような形の槍を持ち上げて一人で部屋から出て行く。


「喜んで自ら命を差し出す人間族がいる街は、歩くだけでも吐き気がする。まだ、地下を探っている方がマシだ。……気になる気配もある」


 ユウタロウが去ってからすぐに紅孩児も出て行く。残ったのは俺とクゥの二人だ。

 戦闘能力的にクゥが単独行動しないのは当然。理由は真っ当なのだが、妖怪嫌いに加え、最近はユウタロウとも仲がこじれているため、俺との行動は消去法でしかない。俺と一緒にいたいから、などというのは空想でもありえないので悪しからず。


「厄介な女みたいに思わないでよ」


 別にクゥとの行動を嫌がっている訳ではない。嫌だったり、役立たず、とだけ思っているのなら、最初からみやこに連れてこなかった。何だかんだと黄昏世界で長く連れ添ったパーティーメンバーである。悪感情も含めて許容できてこその仲間だろう。

 それに俺はクゥのど根性、および、『運』パラメーターが0とは思えないリアルラックを知っている。

 クゥが隣にいて最悪の状況になった例はないので、ゲン担ぎの部分はあるのかもしれない。




 ……そう思っていた時期が俺にもありました。


「扉どころか窓もすべて開かないぞ」

「御影君どいて。“伸びて”、如意棒!」


 乾燥モモを食べたり、目をつむるだけの仮眠を取っていたり、宿でくつろいでいた俺達が静かな異変に気が付いたのは数時間後。

 何となく外の様子をうかがおうと木窓――黄昏世界にガラス文化はない――を押し、開かなかったのが発端だった。窓が開かないだけなら建て付けの問題で済ませられただろうが、宿の出入口がすべて閉め切られて施錠されているとなれば、焦って如意棒だって取り出す。

 腰だめの如意棒に念を込めて、クゥが扉を力押しで壊そうとする。


「固ッ、ぎゃふ?!」


 如意棒の先が扉と衝突したというのに、へこみさえしない。

 伸び続ける棒がしなり、柄を持っていたクゥが逆方向に飛んでいく冗談も発生したが、扉の強度の方が気になった。


「私をちょっとはいたわれっ」

「駄目だ。俺の『力』でも開かない」


 刺突ナイフで突いた結果も成果なし。異様に固い扉は傷一つ付かず立ちはだかり続ける。

 扉の隙間を確認したものの、かんぬきのようなものは見えなかった。薄くであるが外界がうかがえる。どうして動かないのかさっぱり分からない。


「部屋の窓はどうだ?」


 部屋まで戻って木窓をナイフで突いてみるがノーダメージ。妖怪の都だから良い素材を使っている、で済ませられる強度ではない。

 ダメ元でハンドガンを取り出して、窓に向かって三発、撃ってみる。

 すべて跳弾して、室内の壁にめり込んだ。


「うるさい! てか、耳の近くを抜けていったのだけど!」

「部屋の内壁は普通か。外と接する部分だけが異次元に固いのか」


 銃を撃ったのを切っ掛けに、隣室の客が顔を出す。

 俺とクゥだけが閉じ込められた訳ではなかったらしい。


「お、おい。何の騒ぎだ」

「都で徒人が騒動を起こすなよ。こっちまで疑われる」


 意外な事に、妖怪はいない。数人いた宿泊客はすべて人間である。

 食料人間……をまず想起してしまったが、都から各地を回る行商人も宿泊していたらしい。


「御影君、何が起きているか分かる?」

「妖怪が俺達に気付いて閉じ込めた。妖怪だけが逃げているから人間しか残っていない。そんなところか」


 宿に閉じ込められたのであれば、次は襲撃を警戒する。毒ガス注入のような防ぐ方法のない無慈悲な無差別攻撃も考えられ、妖怪ならば平然と実行するだろうと冷や汗をかく。

 ……けれども意外な事に、妖怪よりのアクションは一切ない。

 妖怪兵が襲ってくる事も、卑怯な手段での攻撃もなく、不気味なままに時間だけが過ぎていく。警戒するだけの無意味な時間が過ぎていく。黄昏世界の明るい夜が来て、朝が訪れても変化はなかった。


「兵糧攻めか。妖怪にしては消極的だ」

「昨日の間に徒人用の食料を発見していたから、違う気がする」


 クゥの言う通り、台所に怪しい肉製品ではない食料を発見している。毒の可能性を考慮してクゥは食べるのをひかえていたが、他の宿泊客は忠告を無視して美味しそうに食べていた。

 俺達は食料を準備していたので当面、心配しなくてもいい。水が足りなくなった場合は、少し勿体もったいないが、黒八卦炉の宝玉を使ってアジサイを呼べば調達できる。

 妖怪の思惑が分からなくて困惑する。俺の警戒心が解けるのを待っているのかもしれないが、救世主職の『丈夫な体』で無駄に体は強い。緊張したままでも数日程度の徹夜は可能だ。


「……うーん、このまま幽閉するのが目的とか。太乙真人を倒した御影君と真正面から戦いたくないから」

「敵を封じる事に特化した宝貝があるのかもしれない。だとすれば、紅孩児とユウタロウが外に出ている時点で封じたのは悪手だったな。特にユウタロウだ。あいつは必ず俺達を助け出す」

「あっそ。私はユウタロウ(概念)をもう信じないけど」


 クゥを一人残したくないので試していないが、『暗影』を使えば外に出られるかもしれない。そういった意味で幽閉説は信憑性が低い。

 結局、妖怪が何をしたいのか分からないまま完全に夜が明けた。

 ブクブクに膨れた巨大太陽が山脈より顔を出す。



「――ひ、ひぃぃぃッ!!」



 第一死体が発見されたのは、丁度その頃だ。




 悲鳴が響いた部屋に急行すると、二人部屋らしくベッドが二つ。

 左の壁に隣接するベッドは血みどろのため、目につき、鼻を突く。

 死因は心臓をえぐられた事による出血死なのかショック死なのか。肝心の心臓は食されているためか発見できない。裂かれた肋骨の中身は空っぽだ。

 右の壁に隣接するベッドでうろたえている男が悲鳴を上げた人物だろう。隣に猟奇死体があれば当然の反応ではあった。

 ふと、おびえていたはずの顔が急に冷静さを取り戻していく。気味が悪いくらいの感情の変化。これが『(SUN)』の効果か。


「昨日の夜まで生きていたのに、今朝、起きた時にはもう、こうだったんだ」


 お陰で事情聴取はスムーズだ。

 死んでいた男との面識はないらしい。宿泊料金を分割するために同室となっただけの、ただの同業。被害者と第一発見者は壁村を巡る行商人らしい。


「お前がやったのか?」

「まさかッ」

「あんな死に方をしているのに寝ていて気付かなかった、で言い逃れできると? しかも、左の壁にあれだけ文字が書かれている」

「し、信じてくれ。俺じゃない!」


 第一発見者が犯人というのはありきたりだが、定石でもある。疑わない理由はない。

 俺には読めないが、もしかすると左の壁に長ったらしく書かれた血文字はダイイングメッセージかもしれなかった。



『一、妖怪に徒人は喰われるべし。ただし、妖怪が徒人を喰う数は夜に一人のみとする。

 二、徒人は徒人に擬態する妖怪を発見するべし。昼に一人を指名し、妖怪を発見せよ。見事、妖怪を的中できれば助命を認める。

 三、すべての妖怪を発見できるまで外部への脱出、外部よりの救援を認めない。不正発覚次第、即時、全員を処罰する』


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
[一言] 人狼ゲームじゃねえか!!!
[一言] 死体が人狼か全員人狼のどっちかかな
[良い点] 人狼かよっ!? [気になる点] これが宝貝の効果ならまだ頷けるが、まさか巨大都市のひとつに泊まっただけの御影たちをピンポイントで狙ったのか……? いや、これが平常運転のような気もする。 […
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