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学級閉鎖の崖っぷち?


「……それな」

 たしかに、二年生になってから俺達のクラスはおかしなことになっている。


 普通、どこのクラスにも不登校の奴って一人か二人はいるものだ。だが、新年度が始まって、一人、また一人と休み続けるクラスメイトが増えていき……二年二組は今日、10人休んでいる。しかも休んでいる奴らは全員が「頭痛」を訴えているそうで、男子と女子の偏りなく半々くらいで休んでいる。

 ……さらには担任の先生までもが頭痛で休んでしまう始末。言っておくが、コロナウイルスのクラスターではない。熱も出ないしPCR検査で誰も陽性者が出ていない。だが、原因がもし何らかのウイルス性の流行り病だとすれば、本当に学級閉鎖になる可能性がある。

 通学路途中には養鶏場がいくつかあるが、鳥インフルエンザの噂は聞いた事はない。近くを通るとニワトリ小屋独特のいい匂いがする……。


 ……まあ、学級閉鎖になったらなったで欠席扱いにならないからいいのだが……勉強が他のクラスよりも遅れ、宿題が山ほど出るのだけは勘弁してほしい。

 ――宿題なんて、写すのすら面倒くさい。


「正直言うと二組だけっていうのが腑に落ちない。本当にお前が言う通り、クラス全体が超能力か呪いとかにかかっているのかもしれないな」

 ぜんぜん信じていないがな。超能力も呪いも非科学現象だ。

「そうなのよ。でも、あなたは頭痛くならないんでしょ」

「俺だけじゃないだろ」

 頭痛=欠席と決めつけていいのかどうかは分からないが、俺の他にも毎日出席している奴はいる。それに、里尻がクラスにいなかった日もなかった筈だ。

 皆勤賞を目指している俺は他人の出欠状況にも詳しいのさ。皆勤賞を狙っている仲間ってやつがほしいのさ。

「どうせ、お前も頭痛くならないだろ」

 いつも教室の自分の席で小説を読んだり……給食を食べたりしていた筈だ。牛乳をよく残していたのを見ていた。

 中二にもなって超能力とか騒いでいるのはストレスと無縁な証拠だ。羨ましいぜ。

「……お前なんて気安く呼ばないでよ」

 プイっと顔を背けると、長い黒髪がふわりと広がりフレッシュフローラルのような心地よい香りが部屋に広がった。

「じゃあ……里尻」

 さんとか付ける筋合いはないよな。苗字の呼び捨てでいいよな。

「……下の名前で呼んでよ」

「はあ? いや、その発言はおかしいだろ――」

 顔を背けたままチラッと目だけでこちらを見る仕草に……なんだろう。胸がドキドキしてくる。他に誰もいないから名前を呼ぶくらいは……いいか。

「恵梨香」

 試しに呼んでみただけだからな。「お前」よりも呼び捨ての方が気安いと思うのは……俺だけではあるまい。

「なあに」

 ニッコリ微笑みながらこちらを向くと……目が合った。

「……」

「……」

 じっと見つめ合うと何も言えなくなってしまう。まるで時間が止まったかのように……。

「……」

「……」

 ――いやいや、どうするんだよ、このまったりとしちまったムードは! 何か喋ってくれよ~!

「プーククク」

 耐えきれずに笑い出すのを見てホッとしてしまったのは内緒だ。ちょっと恵梨香のことが好きになりかけてしまったのは絶対に内緒だ――。

 普段は気にも掛けていない地味な女子とはいえ、男子の部屋なんかに急に押しかけてくるのは絶対によろしくない。判断を誤ってしまいそうになる。――俺にはクラスに好きな女子がいるのに……片思いだけど。――それが覆されてしまいそうで恐ろしくなる~。


 大きく息を吐いた。落ち着け自分(おれ)。集中、集中。


「悪いが、信じられないことを信じろと言われ急に協力しろとか言われても俺にはその超能力とやらがまったく信じられない。ハッキリ言って頭の中が脳ミソ状態だ」

「うん。そうよね、きっと」

 俺は真面目に話しているのに、ニコニコ笑っているのが理解できないぞ。

「じゃあ、もしお前の」

「お前? 恵梨香でしょ」

 なんか、喋りにくいなあ……。頭を掻くのは痒い時だけではないのがよく分かった。

「もし、え……恵梨香の超能力っていうのが本物だというのなら……今すぐ俺に試してみろよ。めっちゃ軽く」

 「めっちゃ軽く」と付け足したのは、いざという時の保険だ。もし、スイカ割り級の破壊力があったら後悔してもしきれないから……。俺は「ビビり」なんだ。

 ――大人はみんな「ビビり」なんだ。

「だ~から、一真(かずま)には効かないのよ。さっきのわたしの話をちゃんと聞いていたの」

「あー、頭が痛くならないって能力か」

 絶対にうさん臭いぞ、その能力! そしてさらに地味過ぎる。インパクトもへったくれもない。――ゲームをしている時のように心が躍らない――。なんの魅力も感じない。


 つーか、一真って……俺も呼び捨てにされちゃうわけ。幼馴染でもないのに?


「分かったわ。じゃあ、明日、学校で証拠を見せてあげる」

「証拠だと」

 ひょっとして、誰かを頭痛にして学校を休ませるってことか……。

「いや、無理だろ。というか、休みの奴が多過ぎて証拠にもなんにもならないじゃないか」

「ええ。でも、どんな手を使ってでも証明してみせるわ。わたしの力と一真の力を」

 背筋に冷や汗が……流れる筈もなかった。

「あなたが何とかしないと、わたし達の二年二組は学級閉鎖へ一目散になってしまう……」

「はいはい」

 とんでもない超能力に期待させてもらいましょう。

「泣いて謝ったって、許してあげないんだから」

 そう言い残し恵梨香は立ち上がった。スカートから見える膝頭に畳の跡が付いていた。いや、そんなことよりも――。

「ちょい待てよ。なんか、捨て台詞が滅茶苦茶怖いぞ――!」

 許してあげないって、なんだ。俺、なんか悪いことしたのか。

「アハハ、冗談よ。じゃあね」

 ……冗談なのか本気なのか~! じゃあねって……。

「バイビー」

 軽い感じで返事してみたのは動揺を隠すためだ。部屋から出てトントントンと木の階段を降りていく。

 恵梨香は通学用の自転車に乗ると、ヘルメットも被らずに帰っていった。



 その夜、ベッドの上に仰向けになり、蛍光灯器具のスターターを眺めながら考えていた。なぜ恵梨香はわざわざ俺の家にまでやってきてあんな話をしたのだろうか……。

 ひょっとして、俺のことが好きなのだろうか……。

 クラスでは目立たない地味な女子とはいえ、二人で話していると……楽しかった。会話そのものに意味が無かったとしても話しているだけで楽しいなんて……。


 さすが俺……。


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