頭が痛くなるようなスキルだな
超能力や突然変異などではなく、古来より人間は少しずつ進化しその時代に適応する能力を身に付けている。氷河期は体毛がたくさん生えていた。だが、服やダウンジャケットが開発され人間の体毛は不必要となり、どんどん薄くなった……大事な部分を除いて。
現代においても人は着実に進化している。その進化は大きく目に見えるものではないが、何千年、何万年もの時をかけ少しずつ進化している。
遠い未来、人間に超能力が使える日が来るのは進化であり、その時には特別な「超能力」ではなく「能力」になっていることだろう。
――だが、超能力にまで進化する途中はどういったことが起こるのか――。
目の前の物が自由に透けて見える「透視能力」は紛れもなく誰もが欲しがる超能力だろう。だが、長い進化で透視能力が身に付く場合、その過程はどうなる。どう見えるのだろう。……何を見ても表面の1ミリだけが透けて見えたら……写真やテレビはどう見える? 鏡もただの板にしか見えない。本やノートも次のページが透けて見えてしまう。いや、今のページが読めない。近眼? 老眼? 透眼? さらには、人の顔や皮膚が1ミリ透けて見えれば……あれだ。――周りの人すべてが進撃する巨人のように筋肉や脂肪の姿で見えてしまう――。
誰がそんな微妙な能力を欲しがるだろう。見え過ぎる人用の1ミリの邪魔板眼鏡が必要になる。
聞くことのできない人の本心「心の声を聞き取れる超能力」はどうだ。他人の気持ちや喋れない人の気持ちを聞き取って理解できたとして……果たして優しい人に成長できるのだろうか。たぶん、想像以上にゲスい他人の本音が耳に飛び込んできて人間不信に陥ってしまうだろう。
誰がそんな微妙な能力を欲しがるだろう。耳鳴りしそうで耳栓が必要だ。
人間の嗅覚が犬以上に敏感になれば……誰がどの便器でトイレしたのかさえ分かってしまうって……もう、やめよう。俺の部屋のゴミ箱から……異臭がすることに里尻は気付いているのだろうか……。部屋に入れる前にゴミ袋をキュッと結んで窓を開け換気しておくべきだった。
あと、アイドルのポスターとかも剥がしておくべきだった。二次元好きがバレてしまう。アスカ派だとバレてしまう――。
チャゲ派ではない。
人は他人より何か優れたところが欲しいと望む生き物でありながら、他人よりも秀でた超能力は必ず身を滅ぼすと断言できる。――それでも超能力ってのが欲しいって? じゃあ……こんなのはどうだ。一緒にいるだけで……なんかこう、イライラしてジーンと頭が痛くなるって能力。
超とは呼べない煩わしい能力。微妙な能力だから――微能力! 頭が痛くなるような微能力――!
騙されるな、これはスキルなんかじゃない――!
「でも待ちなさいよ。わたし、中学に入ってからはその能力を一切使っていないんだから。あなたの頭痛はおかしいわ。どうせ嘘でしょ」
……。
「頭痛がおかしいとか言うなよ。俺の頭の痛さをお前が分かる筈がないだろ」
たしかに頭は痛くないさ。頭が痛くなるような話を聞かされてモヤモヤしているだけだ。
「略して頭が痛いのだ――」
「そうよね、でもあなたの頭痛は絶対に偽物よ。気のせいのはず。なぜならあなたは、
――頭が痛くならない超能力の持ち主なのだから――」
「……」
絶対にうぜー。まるで「お前は風邪ひかない」「絶対に風邪ひかない」なぜならば、「バカは風邪ひかないから」と宣言されているようだ。
――要するに、馬鹿にされている感が満載だ――。
「でも、頭痛くなったことなんてないでしょ」
……。
「あれいーでか!」
何度も風邪を引いて熱を出しているさ――! 冬の寒さや夏の扇風機で――!
「中学でも皆勤賞狙っているんでしょ。プププ」
「そこで笑うなよ!」
人が大人しく聞いていれば訳の分からないことをポンポン言いやがって。口に軽く握った拳を当ててクスクス笑われるようなことを俺はしていない――。
成績底辺の俺だって自分がバカにされていることくらい分かるぞ――。
クラスでは目立たない地味な女子が、まさかこんなにお喋りで顔に似合わず失礼極まりない口叩き子ちゃんだったなんて……。
まさに、頭が痛い。
「とにかく、あなたのその能力で助けて欲しいのよ」
「え? いや、はあ? 話が飛び過ぎて意味が分からないぞ。助けろって……誰をだよ」
誰か頭が猛烈に痛くて困っているのか? それって、今の俺だぞ。
「わたし達のクラスをよ」