やっぱり罰当たり
「でも、なぜわたしと恵梨香には人を偏頭痛にする能力があるのよ」
「生まれつきじゃないの」
「だったらわたしの家族とか先祖代々とか同じ能力があってもおかしくはないわ。親に聞いた事なんてないけど」
「わたしもよ。それに、一真の頭痛を治せる能力だって持って生まれたものじゃないでしょ」
「……さあ」
一番の疑問はそれだった。
なぜ俺達には他の人にない微妙な能力があるのだろう。
「ひょっとして、なにか共通点があるのかもしれない」
他の人とは違う何か特別なことをしたのか。
「俺達は、選ばれし者なのかもしれない」
つまり、それって勇者だぞ。
「あれかしら。ミミズにおしっこかけたとか」
「「――!」」
関野の口からおしっこって言葉を聞くとは思わなかった。さらには、ミミズにかけただと――!
「ちょっと、瑞穗。そんなことしたの?」
「何言っているのよ。恵梨香も一緒にかけたじゃん。太っいチンポミミズに」
――!
いま関野は何て言ったの――! チ〇ポミミズって聞こえたけれど……。
「ちょ、ちょっとやめてよ。チンポミミズって言わないで」
まったくその通りだぞ! 女子がチン○ミミズって……男子の前で迂闊に発言してはならない。顔が耳まで真っ赤になったぞ、俺と恵梨香の~。
チンポ〇ミズって……どんたミミズのことだろう。
「そんなことしてないわ」
恵梨香は必死に否定しているが……。
「したじゃない。一年のとき」
「「――!」」
一年のときって、ひょっとして去年?
「中学にもなって野ションしたのか――」
しかも二人そろって? エクステンドレーザーのような平行線の……野ション!
「野ションって言うなあ! 中一じゃなくて小一の時に決まっているでしょ! ってえ、言わせるな~!」
煙が出るかと思うくらい恵梨香の顔が赤い。耳も唇も真っ赤なところが一段と可愛く見えてしまう。
二人の黒歴史だな。家に帰ったら日記帳にメモしておきたい。
「一真君もミミズにおしっこかけたの? 小さい頃」
チラっと関野が俺を見る。
「……まあな」
もう隠すこともないか。
「小学の時、友達と神社で遊んでいてどうしても我慢できなくなったから神社裏の溝でおしっこして気が付いたら……。
――澄み切った綺麗な水の底に落ち葉に隠れて細いミミズが――数え切れないほどいたんだ――」
丸まっている奴やピンコチャンコピンコチャンコとうごめいている奴が……無数にいた。思わず……仕舞うのも忘れてその場を逃げ出した。
「ホラーね。澄み切った水の底にうごめく無数のミミズ」
「笑い事じゃない。思い出すだけで鳥肌が立つくらい気持ち悪かった」
あの光景は一生忘れられない。百匹はいた。一面にいた。
「太っいチンポミミズも十分ホラーよ」
呆れて恵梨香もいう。どうでもいいがチ〇ポミミズってやめてくれ。
「罰が当たったんだわ、きっと」
罰……なのか。
「……そうね」
「人を頭痛にする能力を持っているからって自分が幸せになれる訳じゃないもの」
「これは俺達だけの秘密だな」
「当たり前でしょ」
「チンポミミズにおしっこかけたこと、誰かに言ったら物理的に殺すわよ」
……関野がニッコリ笑って言うと、ぜんぜん冗談に聞こえないのが怖い――。
「言うわけないだろ」
もしそんなことで得体の知れない能力が身に付くなんてことが世間に知れ渡ったとしたら……。
ミミズが小便まみれにされて、可哀想じゃないか――! そして……腫れ上がる。
「夏の暑い日に干からびて道で死んでいるミミズは、ひょっとするとションベンでもいいからかけられて生き長らえた方が幸運なのかもよ」
「やめい!」
アスファルトを草木の茂った土に戻していこうって優しい発想にはならないのか――。
廊下から誰かが歩いて来る音が聞こえた。
慌てて座っていた机から下りる。隠れようとしても……三人も隠れられる場所はない。――教頭先生とかだったら口やかましく怒られるぞ。
「あなた達、まだ学校に残っていたの。下校の時間はとっくに過ぎているわよ」
担任の戸田先生だった。ホッと胸を撫で下ろす。
「なんだ、先生か」
なんだってなんだと怒られそうだが、戸田先生は細かいことでごちゃごちゃ怒る先生ではない。そのあたりが生徒の味方って感じがする。いい先生なんだと思う。
「いま帰るところです。それより先生、頭痛はもう大丈夫なんですか」
「ええ、不思議なくらいスッキリしているわ。それに……ウフフ」
……? 手を口元に持っていき込み上げる笑いをこらえている。思い出し笑いはスケベの証拠だぞ。
「先生、なにかいいことでもあったの」
「ううん。ただ、教頭先生が頭痛で早退したから職員室のムードが楽しくて……」
「なーんだ、そんなことか」
「良かったね、先生」
本当に良かったのか……。
――んん? 教頭が頭痛で早退しただって。
ちらっと二人を見るが二人とも目を合わせようとしない。クスクス笑っているのがマジで怖い。頭痛い。
「放課後は教頭の悪口で職員室も大いに盛り上がったわ」
あのなあ……先生がそれでどうする。日本の先行きが危ぶまれるぞ。生徒の前で言っちゃ駄目だろ。
まあ、先生も生徒も同じ人間なんだな。
「校長先生が一番興奮していたわ」
おやめなさい。
「アハハ、やっぱりね」
「いつも教頭に気を使っているものね」
「っていうか、あの教頭は偉そうだもんね。いつもいつも」
「……」
知らなかった。そんなことまで分かるのか。女子の洞察力って、男子にはないスキルだぞ。
「今の話は内緒よ。さあ、早く帰りなさい」
「はーい」
どこもかしこも内緒話ばかりじゃないか……。
それから俺達は、三人で早退したみんなの家を回った。俺だけで回ってもよかったのに、二人が一緒に行きたいと言い出したからだ。モテる男はつらいぜ。一度は言ってみたかったセリフだ。
効くかどうかは分からないが、家の外からそっとおまじないを呟いて回った。頭痛の種が無くなったのだから放っておいても治るはずなのだが、なんとしても一日でも早く全員出席してきて欲しい気持ちの現れってやつだ。
恵梨香と関野は楽しそうに二人で並んで自転車をこいでいる。その後ろをついていく俺は、ガールズトークに参加できる訳もなく、ただただ二人の話を聞いているだけだった。
楽しそうに話している二人を見ていると、なぜか安堵する。本当に二人は友達なんだなあ。
今日も夜遅くなった。
辺りは真っ暗で月が妙にオレンジ色に輝いている。明日は雨なのかもしれない。
「気を付けて帰るんだぞ」
「大丈夫よ」
「ちゃんとライト点けて帰るんだぞ」
重くなるけど。
「分かってるって」
「バイビー」
二人に別れを告げて帰ろうとしたとき。
「一真君は誰ともチューしちゃ駄目よ」
別れ際に関野がとんでもないことを言い出した。慌ててキーっとブレーキをかけて止まったのが恥ずかしい。
「ちゅ、ちゅ、チュー?」
いきなりなにを言い出すんだ。せめてキスって言ってほしいぞ。口がタコっぽくなっているのが恥ずかしい。タコのあれって、本当に口なのだろうか。
「でも、なんで……」
チラッと恵梨香の方を見たのは……いや、悟られていないはずだ。
「だって、チューすると能力を奪われるって聞いた事があるわ」
「ええ!」
それは大変だ。頭痛を治せる微妙な能力は、もはや俺にとってもクラスにとっても必要不可欠なスキルだ。
「聞いたことないわ。いったい誰からの情報なのよ」
本やテレビの受け売りなのだろうか。
「……」
「……」
いや、沈黙を続けないで。嘘ってバレるだろ。
能力が奪われれば、またミミズにションベンをかけたらいいだけ……とは思えなかった。




