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みんな目指そう皆勤賞


 二人も面と向かって喋るのは久しぶりのようで会話が弾むのはいいが……いつになったら帰れるのだろうか。窓の外はいつしか暗くなっていた。こんな時間まで学校にいたことはない。


「全ての元凶は、皆勤賞か……」

 辛い日に無理をしてまで学校に登校する必要はないのかもしれない。だが、社会に出ればそれは一変してしまう。たびたび会社を休む社員と休まない社員は必ず比較されてしまう。もしそれが比較されないのなら、休まずに毎日出勤する社員が不公平感を抱くだろう。


 皆勤賞を目指すのは大人になるために必要なことだ……それなのに、男女平等にできないなんて……。


「あー、こんなのはどうだろう。男子と女子の皆勤賞受賞者数を同じにするように女子の皆勤賞を繰り上げるのさ。同じ比率になるように一日休みや二日休みでも皆勤賞にする制度でどうだ」

 男子が五人なら女子も上位五人。十人なら十人。

「いきなり何を言い出すの」

「まだそのことを考えていたの」

「……うん」

 なんか、恥ずかしいぞ。頬っぺたが赤くなってしまう。

「そんなの学校単位で皆勤賞に差が出てしまうでしょ」

「だったら全国の平均で。男子の皆勤賞がもし100%なら女子の皆勤賞も100%になるように引き上げるのさ。一日や二日休んでも皆勤賞」

「100%皆勤賞だったら、それって全員皆勤賞になるじゃん。皆勤賞の価値がなくなるわ」

「あほやわ」

 大笑いするなよ。アホは酷いだろう。

「たしかに俺はアホかもしれない。成績だって悪い。でも、全員が皆勤賞っていうのが本当は理想なのに誰も気付いていない」

 理想ではなく当然にならなければいけない。普通にならなくてはならない。

「絶対に無理って諦めているだけなんだ。俺達も学校側も文部省も」

 んん? 文部科学省だったかな。国土交通省だったかもしれない。

「……理想ね」

「不可能だわ」

「そう考えていたら現実には絶対にならない。でも現実にしたい理想なんだ」

 二人に呆れ顔をされた。

「俺は皆勤賞を狙っている。でも、関野だって皆勤賞を取ってほしい。一人でも多く皆勤賞と取ってほしい」

「なるほどね。学校に来て頭痛が治るのなら、皆勤賞も増えるでしょうね」

「え、ああ。俺に出来ることならいくらでも頭痛なんて治してやるとも」

 治らない頭痛があれば別なのだが……。

「これはもう、生徒会長になるしかないわね」

「え、ああ。ええ?」

 生徒会長って、なんだ。

「野神君ならなれるかもしれないわ。なんせ頭痛を抱える生徒は大勢いるんだから」

 頭痛を片っ端から治せる能力を惜しみなく使えば……どんなに成績が悪くても生徒会長になれるのかもしれないな。

「……べつになりたくはないけど」

 痒いわけでもない頭を掻いた。

「……成績悪いからなれないだろうけど」

「……」

 関野にクスクス笑われた。


 俺達はまだまだ子供だ。大人になって社会に出た時に自分達の手で社会をいくらでも変えていける。これまで良かったとされている制度が、これからも良いものとは限らない。であれば、それを自分達の力で変えていかなくてはならない。


 それが頭痛にならない第一歩なのかもしれない。


「じゃあさあ、戸田先生を頭痛にしたのも瑞穗だったのね」

「違うわよ。先生には恨みなんてないもの。人のせいにしているけど本当は恵梨香がやったんでしょ」

「違うわ」

「嘘おっしゃい」

 おっしゃいって……ひょっとして女子の間で流行っているのか、「おっしゃい」が。

「一真君の前だからいい格好しているだけで、本当は何人も頭痛にしてきたんでしょ」

「し、してないわよ!」

 ……。急に俺と瑞穗から視線を逸らす。恵梨香も隠していたけどクラスメイトを何人か頭痛にしていたのだろうか……。女子って……怖い。本当なのか嘘をついているのか俺にはぜんぜん分からない。なんでそんなにポンポン嘘をつけるんだ。罰が当たるぞ。


 ――いや、待てよ。


 ひょっとすると……隠し事がある人は嘘をつかないと生きていけないのではないだろうか。誰にも言えない超能力があるせいで、嘘を突き通す人生しか送れないのだろうか――。

 俺もこれから頭痛を治せる能力のことを隠して学校生活を送るには、何らかの嘘をつき通さなくてはならないのだろう――。


「じゃあ、誰よ。誰のせいよ」

 まだ揉めている。仲がいい証拠なのだろう。

「まさか、まだ頭痛にする微能力者が他にいるとでもいうの」

 二人の視線が俺へと向けられるのだが、

「俺に問い詰められたって分かる訳ないじゃないか」

 先生は隠し事や嘘をつくタイプの人じゃなかった。先生が生徒に嘘なんてつくはずがない。それに――先生なのに、凄く童顔だ。

「……先生は本当に頭痛だったんじゃないのか」

「「えー」」

 いやいや、そんなに意外なことじゃないだろ。

「よく職員室で教頭に怒られていたからなあ……」

 色々と大変なのだろう、先生も。

「先生って、頭痛くなるの」

 なるだろう。

「大人って、頭痛くなるの」

 なるだろう。

「あのなあ、それって凄い偏見だぞ。うちの親もよく、「膝や腰が痛い」って足をさすっているぞ――」

「頭ちゃうやん」

 突っ込みをありがとう。

 小さい頃から母が、「頭が痛いわ」と言った時、俺は知らないうちに痛いの痛いの飛んでいけ――とおまじないをしていた……。

「先生だって俺達と同じ人間なのさ。頭が痛いときだって学校に行きたくないときだってあるに決まっているさ」

「「給料泥棒じゃん」」

 酷いぞ、と誰か言ってあげてほしい。

 泥棒は物を盗むんだぞ――金庫とか財布とかから。つまり職員室で他の人の給料を盗む人が本当の給料泥棒なんだぞ。

「俺達生徒みんなが先生にとっては頭痛の種さ。さらには二年の一学期が始まってすぐにどんどん休む生徒が増えれば先生だって悩むだろうよ」

「……」

「そうよね。じゃあ、やっぱり瑞穗のせいじゃない。たくさんのクラスメイトを頭痛にしてきた張本人なのだから」

「違うわ。わたしは……そんなにたくさんクラスメイトを頭痛にしていないもの」

 俯いてじっと指に巻かれたテーピングテープを見ている。心なしか反省しているように見える。

「……二、三、四……やっぱり半分くらいは恵梨香のせいよ」

 指で人数を数えていただけかよ――。

「わたしだって……そんなには頭痛にしていないわ」

 そんなにってなんだ。初耳だぞ。

「半分の半分以下よ」

「……」


 ……おおよそ、この二人のせいだ。言うと怒られそうだから言わないけど。言えないけど。

 ……頭が痛くなりそうだ。ならないけど。なってもすぐ治るけど。

 はーっと深いため息が出るぞ。


「まあ、過去のことは仕方ないとしてこれからどうするかを考えよう。とにかく、俺には軽い偏頭痛なら治せる能力があるみたいだけれど、それを良しとして今までと同じように友達や先生を頭痛にするのなら、俺にだって考えはある」

「なによ」

「どうするつもり」

「……」

 二人の視線がちょっと冷たい。美人二人に見つめられると照れてしまう。

「なにも考えてないじゃん」

 ――図星。

「ちょっと言ってみたかっただけだ」

 なんか二人よりも自分が優位に立ちたいと企んだだけ。頭痛にする能力と治す能力なら、やっぱり頭痛にする能力の方が攻撃魔法みたいで格好いい。

 治す能力は回復魔法みたいで……地味過ぎる。微妙な能力だ。


「もう人を頭痛にしようとは思わないわ。二人に能力がバレちゃったから、これから不自然な頭痛者が出れば真っ先に疑われちゃうだろうし」

「そうね。わたしか瑞穗のどっちかだって一真にもバレるから……」

「そ、そうだぞ。もしバレたら俺は……怖いぞ」

 絶対に許してあげないぞ。

「……やだ、凄いエロい目」

 ――エロくないだろ――澄んだ瞳だろ――!

「え、一真君ってエロいの」

 関野まで何を言い出すのだ。

「エロくないって――!」

「エロいエロい。なにされるかわかんなーい」

「頼むからやめてくれ!」

 二人の女子にクスクス笑われると、顔が真っ赤になるから――!


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