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頭痛にならない秘訣


「ところで、なぜ俺は頭痛にならないって分かったんだ」


 恵梨香はことあるごとに俺が頭痛にならないと言い切るが、なんの根拠があるのだ。

「ああ。簡単よ。頭痛になれって何回も強く念じたけれどぜんぜん効かなかった。それだけよ」

「やっぱりな……」


 頭痛にしようとするんじゃねーよ。頭痛くなりそうだぞ!


「ずっと前のことよ」

「いつ頃のことなんだ」

「ゴールデンウィーク前。ちょっと休む子が増えてきた頃」

「なんで」

「なんでって、皆勤賞を狙っているくらいだから、ひょっとするとなにか他の人にはない能力があるのかなーって思って、試してみたの」

 試すなっつーの。

「危なかったぜ」


 ――俺の皆勤賞が危うく実験で消し去られるところだったなんて――。


「でも、一真だったら少々の頭痛でも登校しちゃうでしょ」

 まったく悪気もなくニコニコしながら言わないでほしいぞ。

「当たり前だ。小学校のときは熱が39.5℃あっても登校したさ」

 自慢じゃないがな。悪寒が走ったが体育もしたぜ。ドッジボールだったから。

「それは休みなさいよ」

 呆れ顔でおでこに手を当てている。

「嫌だ。ドッジボールは体育では一番好きな種目なんだ。スリサスがたまらないんだ」

「スリサスって、スリルとサスペンスを略さないで。誰も分からないわよ。それよりも、わたしが休めって言っているのは学校よ、学校」

 学校を休むだと。

「嫌だ。皆勤賞なんて賞がある限り俺は戦い続ける。風邪やインフルエンザなんかに負けたりはしない」

「ちょっと迷惑かも~」

「褒められたと思っておこう」

 腕を組んで誇らしげに胸を逸らす。

「誰も褒めていないわっ――。風邪やインフルエンザウイルスを教室や廊下でまき散らすな!」

 フッ、文句は皆勤賞なんてものを作った奴に言ってくれ。


「でも、インフルエンザや風邪を引いた時も頭痛くならなかったの」

 うーん、あまりよく覚えていないなあ。

「いや、なった。なったんだが……」

 いつも頭痛だけはすぐに消えて無くなったなあ。飛んでいくように……。

 んん? ……飛んでいくように?

「あー、そういえば小さい頃、痛い時に泣いていたら祖母がおまじないをしてくれたんだ。『痛いの痛いの飛んでいけ―』って」

「ふーん」

 もっと驚けよと言いたい。痛いのが飛んでいくのって、信じられない超常現象だろうが。

「それからなんだ。たぶん、頭が痛くなったりしても、すぐに痛いの痛いの飛んでいけーって声に出さずに思うだけでも頭痛なんか感じなくなった。熱は下がらなかったけど」

「――!」

 恵梨香の顔が驚きの表情に変わったのを見逃さなかった。俺の話に食いついてきた。

「それともうひとつ、これは絶対に内緒だが、俺の祖母は昔、男の子だったんだ」

 聞いて驚くなよと念押ししておきたい。

「はあ?」

 あれ。今までで見たことないくらい恵梨香の口が開いて「はあ?」と言ったぞ。虫歯一つもなかったぞ。

「これは事実なんだ。祖母が自分で言っていたから間違いない。昔は男の子だったのに、泣いてばかりいたら女の子になってしまったらしい」

「……」

「それを聞いてから俺は絶対に泣かないと決めた。いや、実は一度女の子になりたくてわざと大泣きしてみたけれど、やっぱりウソ泣きじゃ女の子にはなれなかった」

「……う、うん。へー」

 曖昧な返事にイラっとする。

「信じてないだろ」

 俺の婆ちゃんの話を。

「え、えーっと、いや、信じているわ、不思議なこともあるのね」

「そうなんだ。世の中、まだまだ不思議なことだらけなんだ」

 テレビの特番で大きく取り上げているものは胡散臭い。何故なら本当ならパニックが起こるはずだ。だが、身近ではこうして信じられないことがたくさん起こっている。

 だから自分の目でしっかり確認しないといけないんだ。テレビやネット情報だけを信じていてはいけない。

「地球が太陽の周りを回っていることですら自分では解き明かせられないんだ」

「うん。その話はもういいわ」

「……」

 せっかく自分中心天動説を論じようと思ったのに。

「それよりも、痛いの痛いの飛んでいけっておまじないを他の誰かにかけたことはあるの」

「はあ? あるわけないだろ。恥ずかしい」

 小学校の頃に足を怪我して「ベホイミ!」って言ったのを友達に聞かれて笑われた苦い思い出がよみがえる。せめて「ベホマ」にしておけばよかった。

「ちょっとわたしにかけてみてよ」

「ベホイミか? 効くわけないぞ」

「違うわよ! 痛いの飛んでけっておまじないよ。「べほいみ」なんて知らないわ!」

 女子はベホイミを知らないのか……。平仮名で「べほいみ」って言わないでほしい。イントネーションがまるで違う。

「頭痛いのか」

「痛くはないけど何か分かるかも。頭がスッキリするとか」

「うーん。声に出して言うのは恥ずかしいなあ。痛いの痛いの飛んでいけ」

「……」

「……」


 いま、声に出さずにため息をついただろ。


「まあ、そんなんで頭痛がどこかに飛んでいったら病院はいらないだろうさ」

 ちょっと期待してしまった自分が恥ずかしい。なんか悔しい。

「いえ、諦めるのはまだ早いわ。誰か頭が痛い人に試してみましょうよ」

「いやいや、頭が痛い人なんて近くにいるわけないだろ」

「そうかしら」

 舌をペロッと出すのが可愛いのだが。

「おやめなさいっ。いま、誰かを頭痛にして手軽に試そうと考えただろ」

「それが手っ取り早いかと」


 頭が痛いぞ……。


「じゃあ痛い子を探しに行こうよ」

 痛い子って略して言うな! 頭が痛い子だろ。

「今からか? みんな部活しているぞ」

 部活していない奴はみんな帰ったぞ。

「いいじゃない。部活見学よ」

「……」

 二人でウロウロして大丈夫かなあ。

「こっそり女子バレー部、見に行こうよ」

 ――女子バレー部! こっそり! なんだか胸がキュンッとときめいたぞ!

「仕方ないなあ。そこまで言うのなら行こうか」

「フフフ。スケベ」

「スケベじゃないぞ。恵梨香がどうしてもって言うから仕方なくこっそり見に行くだけだぞ」


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