表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族を統べる聖魔の王  作者: うちよう
01 魔人王即位編
52/52

52 魂求者

ようやく更新できました。

引き続きよろしくお願いします!

 「止まれ貴様ら、我の前で醜態を晒すな」


 戦場は仲間同士の声が聞こえなくなるほどまでに悲痛な声で満たされていた。

 仲間との連携は皆無と言っていい。

 なのに、彼女の透き通った声が戦場を問答無用で横断したのだ。

  

 「あらあら、あなたが噂のーーーー」


 聞いていた通りの情報だった。

 艶やかな長髪の黒髪に闇色の混じった毛先。

 そして何より、怒りと冷酷さを象徴付ける左右非対称の瞳。

 間違いなく、彼女はーーーー


 「仲間が惨めな醜態を晒してすまない、だが、これも貴様の作戦のうちか?」


 雑兵の中からゆっくりと先頭抜けると、彼女は真っ直ぐべディーネの元へと歩み寄っていく。


 「いえいえ、あなた方が勝手に取り乱しただけでしょうに」

 「作戦の内ではない、か。それにしても貴様やるな。数百人にも渡る魔力弾をいとも簡単に撥ね返すとはな」

 「ありがたきお言葉、感謝いたしますわ。ですが、それ以上わたくしに近づかない方がよろしくてよ?」


 彼女が「死の刻妃(デス・レギム)」の効力範囲内に足を踏み入れたのを見計らって、べディーネは刃の一つを彼女の首元に切り込んだ。

 彼女の頭部は見事に跳ね上がり、数秒も経たない内にボトンッという鈍い音を立てて地面へと落ちた。

 悪魔族(デーモン)は魔人族や吸血鬼族(ヴァンパイア)とは違って高度な回復能力を有していない。

 つまり、彼女の死は確定されたということだ。

 

 「無謀にもわたくしに近づきますと死にますわよ? とはいっても、もうわたくしの声は届いてはいないでしょうけど」

 「・・・ふむ、小娘のわりには大した力だ。 褒めてやろう」

 「・・・!? どうして生きて・・・! 確かにわたくしはあなたの首を切り落としたはずですわ!」


 二度言うが、悪魔族(デーモン)に高度な回復能力は備わっていない。

 その事実はたとえ天地がひっくり返ってもあり得ないのだ。

 悪魔族(デーモン)は魔力を結界として自身の身に纏うことで、能力のリリースタイムをどの種族よりも素早く実行することができる。

 仮に彼女の結界の能力が回復能力だったとして、能力のリリースタイムが目にも留まらぬ速さで実行されていたとしても、確かにべディーネはその目で見た。

 無抵抗の彼女の生首が地の底まで落ちていきそうな姿を。


 「切り落としたはず、か。そうだな、確かに我の首は貴様に切り落とされた。だがそれだけの話だ」

 「世の理から外れておいて、それだけの話では済まないと個人的には思うのですが?」

 「貴様の力も世の道理から外れてるではないか。その力と我の力の一体何が違うのか」


 確かにベディーネも時を操作するという世の理に囚われない力を有している。

 そんなベディーネと彼女の違いは一体何なのかーーーー


 「ヒヒ、確かにあなたの言う通りどうでも良い話ですわね」

 「そうだろう? 冥土の土産に教えてやっても構わんがどうする?」

 「その必要はありませんわ、なんだってこの戦場はーーーー私の支配域なのですから!」


 敵が復活したところで「死の刻妃(デス・レギム)」の効力が効かなくなったわけではない。

 敵の動きが止まって見えるその間に、肉片も残さず切り刻めば良い話なのだ。

 だからこそ、ベディーネは彼女に回復する隙を与えることなくその刃を幾度となく振るった。

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 だが、彼女はーーーー倒れなかった。


 「ふふ、なんだ貴様、焦ってるのか?」

 「焦ってなんかないですわ! その薄ら笑いをやめてくださいまし!」

 「笑うなと、貴様に指図される筋合いはないな。おこがましいぞ」


 そう言うと彼女は人差し指と中指を巧みに使い、幾度となく降り注ぐ二刃の斬撃を難なく受け止めた。

 一体どういうことだ?

 確かに、今この戦場はべディーネが発する「死の刻妃(デス・レギム)」の支配域にある。

 その状況下にありながらも高速で移動する刃を、しかも二本の指だけを使って受け止められるはずがないのだ。

 いや、そうじゃない。

 どうしてこんな簡単なことに今の今まで気が付かなかったのだろうか?

 これまでの彼女の行動を見て、一瞬たりとも気づかなかったことがとても情けなく思えてしまう。

 

 「どうした? この程度で終いか?」


 ハッと我に返ると、目の前には愉快そうに微笑を浮かべる彼女の姿が。


 「あなた、もしかしてーーーー」

 「気がつくのが遅すぎだ。だから貴様は我に手も足も出ないのだ」


 彼女はその二本の指だけを使って強靭な二本の刃を真っ二つにへし折って見せた。

 カランカランと地面に叩きつけられる金属音。

 べディーネの攻撃手段を失わせたことを知らせるには十分過ぎる音色だった。


 「どうして、どうしてあなたはわたくしの「死の刻妃(デス・レギム)」の効力を受けていないのですか」


  彼女の発言といい、行動といい、この状況になるまでの間に彼女が一度でも「死の刻妃(デス・レギム)」にかかった様子は一切ない。

 それはつまり、魔力の根源である魔源力そのものを無効化する力を有していることに他ならないわけでーーーー


 「まさか、魔力そのものを無効化していた、とは考えていないだろうな?」

 「それじゃあ、あなたは一体何をしたのでしょう? こんなこと、あまりにも馬鹿げていますわ」

 「何をした、か。正直、死を前にした貴様に話す義理はどこにもないが、最初に教えてやると言ったからな。異能な力を持つ同士として教えてやろう」


 すると、彼女は自身を表現するかのように両の腕を大きく広げた。


 「貴様、魔力がどこから作られているか知ってるか?」 

 「何を言ってますの、魔源力に決まっているでしょう」

 「そう、貴様ら魔人族と我ら悪魔族(デーモン)は戦闘スタイルは違えど、同じ魔源力を有している」

 「わたくしはそんなことを聞きたいわけじゃーーーー」


 べディーネの野暮な発言を未然に阻止すべきだと言わんばかりに、彼女はべディーネの唇に人差し指を抑えつけ、更に言葉を続けていく。


 「だが、その魔源力の正体が一体何なのか貴様に分かるか? どんな形をしていてどんな感触がするか、一度でも想像したことがあるか?」

 「その言い方ですと、まるであなたには魔源力とは一体何なのか知っているように見受けられるのですが。第一、魔源力は魔源力でしょう? それ以上でもそれ以下でもないと思うのですが」

 「だから貴様は我に遠く及ばないのだ。そんな貴様に魔源力の何たるかを教えてやる」


 そして彼女は親指を自身の胸の中心に突き立てて言葉を放つ。


 「ーー魂だ。魔源力は魔族を形成する上で心臓の他に魂の役割を果たしているのだ」

 「魔源力は魂の役割も果たしている、と。ですがあなたがとっくに死んでいるはずの事実には変わりないと思うのですけれども」


 べディーネが彼女に仕掛けた攻撃はどれも絶命レベルの致命的部位を狙った攻撃だった。

 もし、彼女の言う通りに魔源力の正体が魂という結論に至るのなら、彼女はとっくにこの世から消え失せているはずなのだ。

 どうしても、彼女が嘘を吐いているように思えなかった。


 「ふふ、本当に貴様は助けようのないほどの愚か者だな。この場に我が立っている時点で結果は目に見えてわかるではないか」

 「本当は死んでいない、とでもいうのでしょうか? だったらあなたは一体どうやって生き延びてーーーー」


 そう言いかけた途端、彼女の脳裏に一つの解が浮かんできた。

 べディーネは彼女に「死の刻妃(デス・レギム)」の効力を受けなかった理由を尋ねた。

 それに対して、なぜか彼女は()()()()()()()()という支離滅裂な返答を返してきた。

 一見すると意思疎通が噛み合っていない会話に見えるが、重視すべき大事なポイントを完全に見過ごすところだった。

 どうして彼女はーーーー魂という虚像をイメージできたのだろうか。

 

 「死の刻妃(デス・レギム)」の効力が生じていない事実。

 致命傷を負わせたはずの彼女が死んでいない事実。

 何より、魂という力の精気を想像できているという事実。 


 それらを全て複合して考えると、行きつく結論は一つしかない。


 「まさか、あなたの魔源力ってーーーー」


 べディーネがそう言いかけたまま口をきつく結ぶと、彼女は邪悪な笑みを浮かべながら口を開いた。


 「そう、そうだ! 貴様の想像通り、我は魂の相互作用に干渉することができるのだ! この赤眼に込められし力は「生贄(サクリファイス)」。我に向けられた攻撃を魂の回廊を紡いだ対象に移すことができる。そして蒼眼に込められた力は「救済(リ・ライフ)」。我の魂と回廊を結んだ対象に我の魔力の一部を永遠に与え続け、永劫の生を約束する代わりに回廊を紡いだ対象の力を使えるようになるのだ」

 

 つまり、彼女は「生贄(サクリファイス)」で攻撃対象を意図的に他の者へと移すことで自身の身の危険を回避し、「救済(リ・ライフ)」という力で、魂の回廊で繋がった対象を何度も殺したその直後に何度も蘇らせていることを先ほどの戦いで幾度も行っていたのだ。

 べディーネの「死の刻妃(デス・レギム)」の効力が生じなかったのは「救済(リ・ライフ)」で魔力を相殺する力を誰かから獲得したからなのだろう。

 それにしても彼女のやり方はーーーー


 「非仁徳な奴だとでも思ってるのか? 顔によく出てるぞ」

 「あなたのやり方は、自分の心を傷つけないで他者の心しか傷つけない卑劣極まりない自己中心的なやり方です。今すぐにでも悔い改めるべきですわよ?」

 「貴様が何を言おうと我の意思が揺らぐことはない、だって我はーーーー」


 そして彼女はこの戦場に宣言するかのように高らかに声を上げた。



 「ーー魔王(デーモン・キング)アルデリカなのだから」



 

今回はほとんど魔王アルデリカの紹介でした。

最古の魔族と呼ばれるぐらいなので最凶感を出してみました!

気に入っていただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ