05 決着
魔人王の後継者になる者にはいくつかの条件が必要とされるのだが、それら全てを差し置いてでも必要とされる条件はただ一つ。
『絶対的強者』ーーそれさえ達成できていれば、王子王女ならば魔人王の後を継ぐことができるという。
まさに、この俺こそ『次世代魔人王』に相応しいと言えるのだが、不可解な点が一つだけあった。
それは「なぜ、俺が次世代魔人王として認められてたのか?」だ。
誰がどう考えても第一王子が最有力候補なのに、それを差し置いてなぜ第十王子である俺なのか?
ーー・・・あー、なるほどそういうことか。
今まで散りばめられていた点が一つの線で結びついた。
俺が選ばれた理由、それは恐らく魔人王だけが俺の本当の魔力量を知っているからだ。
五歳児だった頃に、一度だけ魔人王に俺の魔力量を見られたことがあった。
そこからの魔人王の対応から察するに、俺の中に秘められた魔力量が自身の後継者に相応しいと思い至ったのだろう。
やけに俺と接点を作ろうとしたのは、次世代魔人王との信頼関係を築き上げようとしたかったのかもしれない。
ーー色んなものを買い与えてくれたもんなー、何となく魔人王が考えていることが分かった気がするわ。
だが、俺だけ魔人王の考えていることを理解したところで、本来問題視すべき点は何も解決されちゃいない。
当然のように、俺の魔力量を知らない奴らにとっては、ただの不服でしかないからだ。
「正気か! こんな雑魚が『次世代魔人王』だと!? ふざけるのも大概にしねぇと痛い目見るぞ? 俺以外に適任者などいねぇだろうが!」
「べレフォールが適任者かどうかの話は別として、俺にも魔人王が何を考えているのか分からない。第一、魔人族最強と謳われる俺より強い奴などいるものか」
「ガイオス、俺はお前より強い・・・。だから俺が魔人王に相応しいのだ・・・」
「ちょっと~、私の存在忘れないでよね~」
「サリカ姉さんだけじゃない! 私たちの存在も忘れないでよねっ!」
「あたしたちこそ、魔人王の座に相応しいんだからっ!」
「うちら以外ありえないよねっ!」
それぞれが「自分こそ魔人王に相応しい」と意思を貫き通しているが、魔人王が決めたことが覆ることは絶対にありえない。
俺が魔人王になれば、第一王子の母であるあのババァにギャフンと言わせることが容易にできるが、それだけでは本当の目的の達成には遠く及ばない。
本当の目的ーーそれは大天使共に復讐することだ。
先にも言った通り、上級貴族にギャフンと言わせるのは簡単なのだが、それだけではダメなのだ。
俺に対する忠誠心、それがどうしても必要不可欠だった。
大天使は人間族に恵みを絶えることなく与え続けている。
もし、大天使との大戦争になれば人間族の存在がどうしても邪魔になってくるだろう。
何故なら、人間族は大天使を天の神と同等に崇高しているからだ。
大天使が「魔の者を打ち滅ぼすために力を貸してくれ」と頼み込めば、人間族はきっと力になるに違いない。
そうなれば、大天使を皆殺しにしようとしている俺に横槍が入ってくるのは容易に予想がつく。
人間族の総人口は、年を重ねるごとに増加している。
魔人族ーーいや、魔界全域を巻き込むほどの大規模の戦闘集団を作り上げなければならない。
作戦を実行するためには、統率できるだけの忠誠心と服従心が必要となるのだ。
大天使たちの復讐の足掛かりとして、『次世代魔人王』の座は俺が頂く。
そのためにもーーーー
「あの、発言よろしいですか?」
「ルシフェオス様? いかがされましたか?」
「俺が魔人王になるのはどうも気に食わないご様子なので、俺から提案があるのですが」
「ほぅ? ようやく自分の立場をわきまえたようだな? さっさと魔人王の座を俺によこせ」
そう言うべレフォールに向けて、俺はニッコリと笑い自分の意思を一言だけ告げた。
「魔人王の座は誰にも譲りません」
「あ? てめぇ舐めたこと言ってるとーーーー」
べレフォールの反感を買うことはすでに予想済み。
だから俺は彼の言葉を遮るように続けて言葉を放った。
「えぇ、ですから俺と勝負しませんか? 俺と戦って最初に勝ったものが『次世代魔人王』ってことでどうでしょう?」
至ってシンプルな答えだ。
忠誠心と服従心がないのなら、恐怖を以って植えつけてしまえばいい。
方法は山のように沢山あるだろうが、今回の場合はこのやり方が一番ベストだと言えるだろう。
なんせ、自分が一番だと思っている王子王女に誰が魔人王の座にふさわしいか認めさせるのだから。
武力行使、忠誠心と服従心を植え付けさせるには何かと都合がいいやり方だ。
それに、安い挑発とでも受け取れる俺の提案を飲まない者などいないはずがない。
もし、この提案を飲まなければ俺が『次世代魔人王』になってしまうからだ。
結果、俺の予想通りに事が進み始めた。
「良いだろう、お前の安い挑発に乗っかるとしよう。ただし、負けても後悔するなよ?」
「後悔などありません、力ある者が王になるのは当然ですから」
「俺が・・・魔人王になる・・・俺以外ありえない・・・」
「面白そうだね? お姉さんそう言うの嫌いじゃないよ?」
「私が勝てば魔人王になれるってわけね!」
「「それいいね!」」
そして、問題の第二王子はと言うとーーーー
「ふん、お前の馬鹿げた提案を飲もうじゃねぇか! だがそれだと最初に戦ったやつが魔人王になっちまうじゃねぇか。それはどうすんだよ」
「戦う順番を決めるのは、じゃんけんでもくじでも何でもいいんじゃないですか? それは側近の方に任せるということで」
俺の提案で場が纏まりつつある現状を目にした進行者は、咳払いを一つした後に提案を全て纏めた。
「それでは、『次世代魔人王決定戦』は第十王子を倒した者が魔人王となる方向性で、その対戦順は公平を期すため、当日のくじ引きで決めるという形でよろしいでしょうか?」
「異論はない、それで構わない」
「ハ、この俺が魔人王になってやるよ!」
「いや、私が魔人王になるもんね!」
「この俺が・・・」
「カレアマキナ、サイスノールカ、魔人王になるよ!」
「「当然!」」
一方、バレンとアスモレオンはというと、どこか乗り気じゃないように伺えた。
「それじゃあ、『次世代魔人王決定戦』は三日後の『魔人闘技場』で行いたいと思います。それでは『次世代魔人王選定会議』はここまでとし、各々当日に備えて準備の方お願いします」
会議が終わると、決定に参加意思のある王子王女たちはそそくさと『魔人王の玉座』から出て行く。
恐らくは、三日後に備えて準備を始めるのだろう。
ーーさて、俺も準備を始めるか。
そう思い「魔人王の玉座」から退席しようと踵を返したその時、誰かに肩を軽く掴まれた。
何事かと思い振り返ってみると、そこにはバレンとアスモレオンの姿が。
「な、なんでしょうか? 俺に何か用ですか?」
そして二人は、どこか悲しそうな表情をしながら重そうな口をゆっくりと開いた。
「「俺たち・・・決定戦を辞退してもいいかな?」」