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魔族を統べる聖魔の王  作者: うちよう
01 魔人王即位編
46/52

46 名案

 理不尽にも国を襲ってきた悪魔(デーモン)の巣窟を修復不可能なまでに壊滅させた俺は、無事に魔人の国へと帰還していた。

 負傷者で溢れ返っていた草原は平穏な日常を取り戻したかのような錯覚を覚えさせる。

 だが、錯覚はあくまで錯覚でしかない。

 魔人の国が負った深い傷はそう簡単に癒えるものではないだろう。

 そんな幻の平和に見惚れている俺を出迎えてくれたシヴィリアーナから不在の間にあった事を一通り教えてもらった。

 話によると、王子王女と国民の間で一悶着あったようだ。

 その内容が援助金の有無についてという事らしい。

 まあ、国の惨状からすれば金絡みの話になるのも無理はないだろう。

 金がなければ商売は一向に回らないだろうから一個人としては別に構わなかったのだが、そう易々と給付できない理由があるみたいなのだ。


 その問題と向き合いつつ、どのようにして国民たちへの救済処置を取るかをこれから王族関係者を交えて話し合わなければならない。

 そう、話し合わなければならないのだがーーーー


 「王族関係者って兄姉たちと他二人しかいないのか?」


 会議をすべく『魔人王の玉座』に集ったのは兄姉たち六名とサリカとセモンの指南役二名だけだった。

 あまりの少なさに驚きを隠せない。

 

 「いえ、本来参加するべき者たちが参加できなかっただけの話ですよ」

 「ん? シヴィリアーナ、それは一体どういう事だ?」

 「簡潔に申し上げますと・・・他の連中はガイオスとベレフォールの味方に付いたのです・・・」

 「まあ、ディアルナ様とバレン。そして私たちの親は例外で席を外しているだけですけどね」


 セモンの発言に補足するかのようにすかさず言葉を重ねるサリカ。

 なるほど、王族関係者がこんなにも少ないのは俺の魔人王即位に納得のいかなかった者が多かったというわけか。

 すると、この指南役たちは俺の即位を少なからず認めたという解釈で間違いないだろう。


 「にしても、サリカとセモン。二人に掛けられた「悪喰(デビル・イーター)」の呪いはまだ解けていないのか?」

 「はい、ご覧の通り・・・呪いは未だ解けておりません・・・」

 「そうか、特に二人には多大な迷惑をかけてしまった。本当にすまない」

 「何度も言う通り、ルシフェオス様が謝る必要はどこにもありません。事の原因は私たちの中にあった油断なのですから」


 サリカの意見に賛同するようにセモンは頭をコクリと頷かせる。

 自分を責める必要はないーーーー彼女たちはそう言うのだが、どうにも素直に受け入れ切れない。

 やはり、何かしらの形で罪を償う必要があるだろう。

 それも、サリカたちにはバレないように。


 「そういえば、アスモレオンは呪いを掛けられなかったんだな?」

 「そりゃそうですよ! だって俺に傷を負わせたのはここの住人なんですから呪いなんてないですよ!」


 ヘラヘラと笑い飛ばすアスモレオンだが、常識的に考えると笑って済まされることではない。

 魔人王直系の王子が住人たちに負かされるなど、本来あってはならないことなのだ。

 今すぐにでも厳しい訓練を彼にこなしてもらうべきだろう。

 だが、俺は彼と一つの約束をしてしまっていた。


 ーー次の指南者は優しい人って約束しちゃったからな・・・。


 約束をすっとぼけるのも一つの手だが、それは人としていかがな行為だろうか?

 優しい人・・・か。

 何も思いつきそうにないから、とりあえず保留にしておこう。

 俺がそんな事を考えている中、他の兄姉たちは揃ってため息をついていた。

 まあ、吐きたくなる気持ちも分からなくもない。


 「呪いの件はさておき、これから今後の対策と方針を決めていくと言うことで話を進めていいか?」

 「えぇ、問題ございません」

 「問題ありません・・・」

 「「「問題ないです」」」

 「問題ないです!」

 「我々も問題はございません」

 「よし、確認が取れたところで最初の議題に移るぞ。最初は今後の住人への対策やその他諸々についてだ」

 「その件なのですがーーーー」


 そう言って挙手したのは、トパーズ色の髪を七三分けした男だった。


 「確かお前は・・・」

 「はい、セモン様の指南役を務めさせて頂いたゼレードと申します。決定戦では大変なご無礼を働き申し訳ございませんでした」

 「その件は別に気にしてないから構わない。それより、何か提案があったんじゃないのか?」

 「はい、ご存知の通り国民からは給付金による支援の声が上がっています。ですが、問題なのは支給水準をどこまで引き上げるかということかと思うのです。だから、それをこの場で決めるのはいかがでしょうか?」

 「ちょっと待ってください。ゼレードさんの話だと支給はすでに決まってるようじゃないですか」


 ゼレードの提案を否定するサリカの表情はどこか強面だ。

 決して国民を嫌ってるわけではないのだろう。

 それは、決定戦で見せつけた彼女の人望を目にしていたからすぐに分かった。

 それでも支給を拒む彼女には何かしらの理由があるに違いない。

 俺はゼレードの意見に反対するサリカの意見を聞き出すべく、当の本人である彼女に直接尋ねてみた。


 「サリカ、何か理由があるんだろ? それを聞かせてくれ」

 「かしこまりました、それではお話致します」


 彼女は一呼吸置いた後、ゆっくりと言葉を綴る。


 「私が給付金について反対を推すのは誰にでも考えられる至ってシンプルな理由で、給付金から発せられる膨大な損害が予測できるからです」

 「その給付金をいくらまでに設定するかで損害は最小限に抑えられるのではないかと私は考えるのですが・・・」

 

 サリカの話を遮るようにゼレードが口を挟む。


 「魔人の国に一体どれほどの住人がいると思ってるんですか。一世帯ずつ給付金を配っていたら間違いなく破産しますよ?」

 「だから、設定額を最小限に抑えれば済む話なんですよ!」

 「いや・・・サリカ姉さんの意見が真っ当だろう・・・仮に最小限の給付金を与えたところで元通り復興できる可能性は低い・・・魔人の国を存続させるためにも給付金の話を飲み込むわけにはいかないだろう・・・」

 「ですが、現状維持を続けたところで状況は改善されません! それどころか住人の反感を買うだけですよ!」

 

 ゼレードの給付金に対する賛成意見もサリカたちの反対意見も筋が通っているせいでなかなか話が纏まらない。

 どちらの意見を取り入れるにしたって必ずと言っていいほどのデメリットが付いてくるのだから、慎重になってしまうのは仕方のないことだろう。

 だが、互いがデメリットだけを取り上げるのは話し合い的にはよろしくない。

 それをするぐらいなら双方のメリットを複合させた第三の案を出すべきだ。


 一旦、互いが主張するメリットを整理してみるとしよう。

 給付金に対する賛成意見の最大のメリットは住人たちの反感を買わずに済むことだろう。

 賛成意見の主軸となるは、住人の生活を第一にと考慮したもので違いない。


 そして反対意見のメリットはというとこの一点に限るだろう。

 それは給付金の話をなかったことにすることで王城の破産を未然に阻止することができるということだ。

 住人主軸の考え方と王城主軸の考え方。

 双方が理にかなっている関係性を築き上げることができるのなら、この案件は無事に解決される。

 そう、その答えを見出すことさえできればそれだけでいいのだーーーー

  

 「あのー、一ついいでしょうか?」


 俺よりも先に口を動かしたのはシヴィリアーナ三姉妹でもなければサリカの師匠でもない。

 この緊迫した場での発言にはあまりにも不相応な人物だった。


 「アスモレオン? どうした、トイレだったら行ってきてもいいぞ?」

 「ルシフェオス様は俺を何だと思ってるんですか・・・。まあその話は置いといて、俺から一つ提案があるのですがよろしいでしょうか?」

 「先に言っておくが、変なことは言うなよ?」

 「だから俺を何だと思ってるんですか! 至って真面目な話ですよ!?」


 あらかじめ釘を刺しておいたから、恐らく変な提案はしないだろう。

 軽く咳払いをした後にアスモレオンはゆっくりと口を開き始めた。


 「なぜ皆さんはそんなに難しいことを考えてるんですか? やるべきことと言ったら一つしかないでしょう」

 「アスモレオン、あなたは私とゼレードどちらの味方をするの?」

 「提案があると言ったじゃないですか、俺はどちらの肩も取りません。ですが、言い方を変えればどちらの肩も取るとも言えるかもしれません」

 「アスモレオン・・・じゃなくて、アスモレオン様、それは一体どういうことでしょうか?」

 「ちょっと? これでも一応王子なんですが?」

 「大変失礼致しました。それでアスモレオン様が提案する案とは一体どういう内容なのでしょうか?」


 不服そうな顔をしながらも、アスモレオンはそのまま話を続ける。


 「簡単な話です、互いの案のメリットを一つに纏めてしまえばいいのです」

 「そんな夢物語りがあるわけが・・・」

 「それがあるんですよ。たった一つだけその方法が」

 「アスモレオン、それは一体何なんだ?」

 

 そして彼の口から驚きの内容が告げられた。


 「給付金を一部の商業施設に割り当て、儲けたその二割を毎月国に返済するという形を取るんですよ」


 確かに、彼の提案は給付金を受け取った住人と国のメリットの相互関係が理にかなっているといえるだろう。

 だが、問題なのはーーーー


 「それはつまり、商業施設を立てていない住人には給付金は下りない、ということか?」

 「はい、その通りです」

 「それだと給付金を受け取れない住人はどうするんだ? それじゃあ反感を買うというデメリットは解消できていないように見受けられるんだが」

 「いいえ、デメリットは解消されてますよ。もし、ルシフェオス様が給付金を受け取れなかった住人の立場だとしたらどのような行動に出ますか?」

 「そりゃあ、武力を以ってクーデターを起こすだろうな」

 「えっと、もっと真面目に答えてくれると思ってたのですが・・・」


 普通に考えたつもりなのだが、どうやら冗談だと思われてるらしい。

 そんな俺とアスモレオンの会話に突如口を挟んできたのは、柔軟に人の心を読み解くことができるセモンだった。


 「なるほど・・・そういうことか・・・」

 「セモン、私たちにも分かるように説明してくれる?」

 「あたし、さっきから何一つ理解できてない・・・」

 「大丈夫、うちもだから」

 「アスモレオンが考えるには・・・現状を打開するには人の流れを上手くコントロールしなければならない・・・そういうことだろ?」

 「はい、その通りです」

 「え、全然分からないんだけど・・・」


 サリカが悩ましい顔をしながら一言そう口にすると、セモンはアスモレオンに変わって分かりやすく説明した。


 「この魔人の国の世帯数の内、商業施設を営んでいるのは七から八割程度・・・。つまり、経営できるだけの給付金をその七から八割程度の商業施設に渡せば全てが上手く回るというわけだ・・・」

 「上手く回るとは具体的にどのように回るのですか?」

 「『人件費』だ・・・多くの人材を雇うことで商品の在庫も滞ることなく回り続ける。商業施設の中でもまだ『人件費』を支払えるだけの余裕がある商業施設もあるだろうから給付金の授与は商業施設だけでも事足りる」

 「なるほど、確かに王城から飛び出す給付金も最小限に抑えられているし、経済が復興して毎月儲けの二割ずつ戻ってくるのなら双方の理にかなっていると言えるね。でも、働きたくても働けない人もいるでしょう? その人たちはどうするの?」

 「それは、毎月入る二割の内の最低限を生活保証として与えるという形でも取れば問題ないだろう・・・」

 「さすがはセモン兄上、俺が言いたかったことはまさしくそれです!」


 アスモレオンの考えていたことを的確に理解したセモンもかなり凄いと思うが、その案を見出したアスモレオンの方が個人的には凄いと思う。

 彼が最初に二割の返済と決めていたのは、まさしく働けない人の事を考えての二割だったのだから。

 『馬鹿丸出しのアスモレオン』ではなく『たまに頭の切れるアスモレオン』と認識を改める必要がありそうだ。


 どちらにせよ、これでようやく経済復興のための一歩を踏み出せそうだった。


 そう、このまま何事もなく終わればーーーー





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