44 死ノ雨
手の施しようのないような死に方をしている二人に「行動支配」を使用してみた。
だが、身体に備わる筋肉が硬直してしまってピクリとも動こうとしない。
無理矢理にでも動かそうものなら筋肉そのものを破壊してしまいそうなほどだ。
更に言うと、微小なり感じ取れていた魔力も一切感じなくなっている。
備わっていた魔力が羽を作り出して飛んで行ってしまったのだろうか?
最終確認に二人の肌にそっと手を添えてみたが、やはりダメだ。
二人はもうーーーー死んでいる。
大事に育ててくれた母さんが死んだ、親切にしてくれたデバイゴが死んだ。
心の中は酷く嘆き悲しんでいるというに、どうして涙一滴すら出てこないのだろうか?
ーーあぁ、そうか、俺が泣く資格なんてどこにもないんだ・・・。
これも全て自分が招いた最悪の結末に他ならない。
身勝手に国を振り回した俺に泣く資格がないのは当然のことであり、そんな大罪人が被害を被った者たちに向けてできる謝罪と言えば、正直このぐらいしかないだろう。
俺は片手に作り上げた魔力剣をゆっくりと自身の首元まで持っていく。
ここで自分の命を絶つことができたのなら、一体どれほどの人が救われるだろうか。
国の統率者の立場でありながら、私情のために自由気ままに行動していた俺をこの首一つで許してくれるだろうか。
セモン、サリカ、ディアルナ、アスモレオン、その他大勢の負傷者たち。
この首一つで心身共に残してしまった深い傷跡を癒し消せるかわからない。
だが、もし俺の首で罪を償うことができるのなら喜んで差し出そう。
こんな状態で国の統率者をしていても、大天使復讐への計画に賛同してくれる者などいるはずがない。
そして、意を決して自分の首を跳ね飛ばそうとしたその時だった。
ある少女に向けて立てた誓いが、ふと頭の中を過ったのだ。
『ーーーー俺が彼女を守る』
彼女ーーそれは言うまでもなくディアルナのことだ。
俺が彼女をこの手で守ると決めたんだ。
なのに、罪滅ぼしだからと言って簡単に命を断とうとして良いのだろうか?
俺が死んだ後、「悪喰」で足を動かせないディアルナの身の安全を誰が保証してくれるのか。
彼女だけに限った話ではない。
年下の生意気な王子である俺を魔人王として慕ってくれたセモンやサリカたちをこのまま見捨てていいのだろうか。
気が付けば片手に作り上げていた魔力剣は跡形もなく消え去っていた。
罪滅ぼしをするために、自ら命を断とうとする。
そう、その行為は科せられた罪から逃れようとする逃げの一手だ。
罪を償いたいという意思が強ければ、自分が死ねば丸く収まるなどのような思考に至るはずがない。
罪から逃げるな、前を向け、今俺がすべきなのはーーーー
考えが纏まる前に、俺の身体はすでに行動を開始していた。
俺が向かうべき場所、それは悪魔の領域だ。
今回の騒動の一件はヘルゼビュートとやらの悪魔の所業で始まったという見解で間違いない。
だとしたら、飼いならされていたガイオスやべレフォールなんかよりも償うべき罪の重さは重大だと言えよう。
それに何が目的で魔人の国を襲ったのかは知らないが、このままやられっぱなしで終わってしまったらいつまで経っても舐められたままだ。
ここらで手を出した相手を間違えたと再認識させる必要があるだろう。
俺は悪魔の領域が存在する王城から南東へと空を飛んで一気に急降下していく。
そして、一分も経たないうちに悪魔の領域『悪魔の獄園』へと辿り着いた。
『悪魔の獄園』は多種多様な悪魔で溢れ返っており、皆さん揃いも揃って不満不平のないような良い笑顔をしていらっしゃる。
平和を象徴する街中の賑わいに追いかけっこをしてはしゃいでいる子供たち。
もし、魔人の国が襲われていなかったらこんなに不愉快な気持ちにならなかっただろうに。
こちらは理由もなしに突然魔人の国を襲われて、死者や負傷者を沢山出したというのにお前たちが笑顔でいられる神経が今の俺には理解できなかった。
魔人の国がお前たち悪魔の手によって襲撃されたことを知らないとでも言うのだろうか?
まあ、そんなことは二の次以上にどうでもいいことだ。
俺たち魔人にとって「悪魔」は復讐すべき敵であり、魔人を破滅の道へと誘った悪の権化だ。
「悪魔」というカテゴリーから考えれば、たとえ事情を知らない悪魔でも敵という認識で間違いない。
「残念だよ・・・。お前たちが俺の復讐計画に賛同できなかったことが・・・」
俺は闇の炎で出来た弾丸を幾億にも渡って作り出し、頭上を駆け巡るように高速で回転させる。
弾丸一つ一つの精密度はサリカの銃口から放たれる弾丸に引けを取らない程だ。
そんな数億以上の凶器が降り注げば『悪魔の獄園』はどうなってしまうか?
まあ、わざわざ改めて認識させる必要はないだろう。
この凶器を作り出したのはーーーー『悪魔の獄園』を滅ぼすためで違いないのだから。
「神の鉄槌を味わうがいい! 「死ノ雨」!」
高速で回転させた魔力の弾丸を一斉に振り下ろすと、勢い余った弾丸たちが『悪魔の獄園』を次から次へと跡形もなく崩壊させていく。
逃げ場のない、それはまるで豪雨のように悪魔の領域を絶えることなく突き刺していき、わずか数分にして『悪魔の獄園』はこの魔界から跡形もなく姿を消し去った。
掻き消された『悪魔の獄園』の跡地には悪魔の遺骨すら残っておらず、今はただ広大な大地だけが広がっている。
「これでヘルゼビュートが死んでさえいれば、ディアルナたちに掛けられた「呪い」は強制的に解除されてるはずだ」
ガイオスとべレフォールに力を貸し与えたヘルゼビュート本人を殺せば、「悪喰」の効力は解除されるのではないかという仮説をセモンたちと立てていた。
仮説が正しければセモンたちの「呪い」は解かれているだろう。
だが、もし「呪い」が解かれていなかったら、仮説が違うかもしくは・・・・・・。
俺はセモンやサリカたちの状態をすぐさま確認すべく『悪魔の獄園』を後にした。
本当の悪夢がここから始まるとも知らずにーーーー




