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魔族を統べる聖魔の王  作者: うちよう
01 魔人王即位編
42/52

42 崩れ行く音

 ガイオスとべレフォールを処刑してから数分が経過した頃、俺とバレンはこの暴動を抑え込むべく国の中を隅から隅まで歩き回った。

 だが、反逆者らしき者たちは一向に見つからない。

 すでに事が済んだかのように、魔人の国は物音一つしない静寂し切った空気に包まれていた。


 「カレアマキナたちが鎮めてくれたのか・・・?」


 もしそうだとしたら、これ以上の鎮圧活動は不要だろう。

 そうと決まれば、さっそく国の外にいるシヴィリアーナたちと合流するとしよう。

 悪魔の呪いに掛けられたセモン、サリカ、それにディアルナの容態がかなり気がかりだ。

 

 「バレン、みんなの元に行くぞ」

 「どこにいるのかご存知なのでしょうか?」

 「シヴィリアーナやセモン、サリカの居場所はすでに把握している。抗戦していたカレアマキナやサイスノールカもきっとシヴィリアーナの元に合流しているだろう」

 「なるほど、かしこまりました」


 彼の返答を最後に俺たちは静まり返った街中をゆっくりと横断する。

 街の外壁には誰のものかもわからない血が多量に付着しており、黒ずみとなった死体があちらこちらで横たわっていた。

 軽傷者や重傷者が見当たらないのは、きっと他の兄姉が国の外に連れ出して治療を施しているからなのだろう。

 そして、俺たちは国の外に繋がる門を目指して血生臭い街道をひたすら歩いていく。


 「あ、ルシフェオス様!」


 俺の名を叫ばれた方向に目を向けてみると、外に通じる門がすぐそこまできていた。

 どうやら枯れ果てた街に目を奪われてしまって気が付かなかったようだ。


 「カレアマキナか。どうやら暴動の鎮圧化に成功したようだな」

 「って、そんなほんわかとしてる場合じゃないですよ! 大変なんです、セモンとサリカ姉さん。それにディアルナ様が・・・」

 「言わずとも分かっている」


 何でも三人に掛けられた呪いの詳細はガイオスとべレフォールに教えてもらっていたため、今更慌てふためくようなことじゃなかった。

 予想外の返答に困惑するカレアマキナを置いて、俺は国の外へと足を踏み出す。

 目の前に広がった光景ーーーーそれは目にしたくないほどの地獄だった。

 気力を失ったようにぐったりとしている若者に、全身に包帯を巻かれた中年の男。

 そしてあまりの痛みに耐え切れなくなった泣きじゃくる子供。

 国の外は、負傷者の海で埋め尽くされていた。


 ーー俺のせい・・・だよな・・・。


 分かっていたことだが、改めて悲惨な光景を突きつけられると胸が締め付けられる思いになる。

 目を逸らしてしまいたい、だがそれは決して許されない。

 俺はこの国の王であり、私情で王の席を外した俺の責任だ。

 どのような形になろうとも、自分の犯した罪は必ず償わなければならない。


 「ルシフェオス様、サリカ姉さんたちはこちらになります」


 カレアマキナの後に続くようについて行くと、そこには現在進行形で治療を受けている三人の姿があった。

 

 「ルシフェオス様・・・ご無事で何よりです・・・。加勢に行けず申し訳ございませんでした・・・」 

 「別に構わないさ、それより怪我を負わせてしまって申し訳ない。俺が席を外さなければこんなことには・・・」

 「いえ、ルシフェオス様が気に病むことは何一つございません。私たちの油断がこの惨状を招いてしまったのですから、謝らなければならないのは私たちの方です。留守を預かったのに申し訳ございませんでした」


 いや、サリカたちは何一つ悪くない。

 悪いのは全て俺の方だ。

 魔人の国の統率者でありながら身勝手なことをした俺の責任だ。

 彼女たちが気に病む必要はどこにもない。

 それに、俺のせいで彼女たちはーーーー


 「ルシフェオス様、あまり自分を責めないでください」

 「とは言っても、俺のせいでお前たちは・・・」

 「ルシフェオス様のせいではございません・・・。俺たちが勝手にガイオスたちを仲間だと信じ込んで油断していたのが悪いのです・・・完全な自業自得です」

 「えぇ、セモンの言う通りですよ。今回のことで油断が命取りになることを痛感しました。今回のような無様な姿を晒さないよう、これからは気を引き締めていきます」

 「だが、サリカ。いくら片腕を完治させたところで腕を自由に動かすことができないんだろ? そんな状態でこれから戦って行けるのか?」


 彼女の戦闘スタイルは、両手に長銃を持った二丁長銃だ。

 片腕を再起不能にさせられた今、攻撃範囲が大幅に狭まってしまうのは目に見えてわかることだった。


 「不幸中の幸いとはまさにこのことを言うんですね。確かにルシフェオス様の言う通り、私は片腕を失ってしまっているようです。しかし、私にはこれがあるじゃないですか」


 そう言って見せてくれたのは、左目に映し出された黒い紋様。

 そう、彼女の先天能力である「絶対照準(アブソリュート・アイ)」だ。


 「私の場合、腕を失うよりも左目がやられていたら本当に深刻な問題だったと思います」


 確かに「絶対照準(アブソリュート・アイ)」さえあれば、どんな弾も百発百中の命中率を保証してくれる。

 彼女の武器の場合、攻撃範囲よりも正確さが何を差し置いてでも重要になるわけだが、戦力として大幅にダウンしたのには変わりないだろう。

 セモンにしたってそうだ。

 片目での「石化(カース・ロック)」だと、どうしても両目の時よりも効力が薄くなってしまう。

 戦闘スタイルにおいては彼らの言う通り不幸中の幸いなのかもしれないが、長い目で見れば幸いどころか不幸でしかないのだ。

 何とかしてでも「悪喰(デビル・イーター)」という名の呪いを解かなければならない。

 だが、ガイオスたちは言ったーーーー解く方法を知らないと。

 だとしたら、俺自身でその(こたえ)を見つけ出さなければならない。

 でも、どうする?

 魔人の国が崩壊し、草原を埋め尽くしそうなほどの負傷者たちを置いてまたどこかへ行くのか?

 それはどう考えても論外だろう。

 

 「ルシフェオス様・・・? 険しい顔をして一体何を考えていらしたのですか?」

 「あ、あぁ・・・お前たちの「呪い」をどう解こうか考えてたところだ」

 「そうでしたか・・・あくまで俺の見解になってしまいますが・・・「呪い」の根源を断つのが一番早いかと思います・・・」

 「つまり、ガイオスたちに力を与えた悪魔(デーモン)を殺すということか?」

 「そうでございます・・・」

 

 セモンの言う通り、諸悪の根源を叩くのが一番手っ取り早い方法と言えるだろう。

 だが問題なのは、今置かれている現状で誰がその悪魔(デーモン)を叩くかということだ。

 今問題なく動けるのは、俺とシヴィリアーナ、カレアマキナにサイスノールカ。それとアスモレオンにバレンの六人。

 シヴィリアーナやカレアマキナ、サイスノールカはそれぞれ「援護」・「攻撃」・「防御」に特化した戦闘スタイルになるため、一人の悪魔(デーモン)を叩くのに三人を割くのはあまりにもリスクが大きすぎる。

 それにガイオスらに力を与えたヘルゼビュート? とやらの実力が全く分からない。

 そこそこ戦える悪魔(デーモン)なら難なく対応できるだろうが、もし相当な手練れだとしたら彼女たちに勝ち目はない。

 アスモレオンやバレンにしたってそうだ。


 ーークソ、この状況を上手く収める良い方法はないのか・・・!

 

 頭を悩ませながら考えていると、一人の青年が俺に声をかけてきた。

 

 「ルシフェオス様、提案があるのですがよろしいでしょうか?」


 そう話を持ち掛けてきたのは、橙色の髪をした好青年の男であるバレンだった。


 「先に言っておくが、実力がわからない悪魔退治にお前を割くほど戦力が足りてるわけじゃないんだ」

 「いえ、悪魔(デーモン)と戦おうなど微塵も思っておりません」

 「じゃあお前が持ち掛ける提案って一体何だ?」


 すると、バレンは意を決した表情をしながら俺に告げてきた。


 「この魔界の各地を巡り、情報収集をしてまいります。そうすれば兄上や姉上たちが掛けられた呪いとやらも解けるかもしれません」

 「そんなことをしても、お前の得になるようなことは一つもないと思うのだが?」


 セモンやサリカのためとは言っているが、直感的に別の目的があるように感じた。

 そして案の定、俺の直感は正しかったようだ。

 バレンは大きく深呼吸した後に、自分の目的を洗いざらい話してくれた。


 「俺・・・このままじゃダメだと思ったんです。弱い自分を変えたいと思ったんです。こんなヘタレでどうしようもない自分を変えたい、そう考えた時に自分に足りない物が何なのかようやく分かったんです」

 

 そしてバレンは自身の胸に手を当てながら思いのまま伝える。


 「ーー経験です。俺には圧倒的に経験が足りないと思ったんです」

 「なるほどな。情報収集しながら経験値を積みたいと、そういう事なんだな?」

 「はい、その通りでございます」


 彼の力強い意思は見事なものだ。

 先ほどの無力な自分を切り捨てて、新たな強い自分に生まれ変わりたいという意思は大したものだ。


 「だが、ダメだな」

 「え・・・」

 「ダメだと言ったんだ。仮にお前を情報収集に出したとして襲撃でもされたらどうするんだ? 未熟ながら戦うとでも言うのか?」

 「はい、どうにかしてでも戦おうと思います」


 あの攻撃と立ち振る舞いでよくそのようなことが言えたものだ。


 「セモンやサリカに稽古をつけてもらえ。話はそれからだ」

 「それじゃあダメなんです! 人と同じようなことをしていてもきっと俺は強くなれないんです!」

 「それはあれか? お前が他の魔人よりも貧弱だって言う話か?」

 

 そういえば、バレンの部屋を訪れた際に筋力グッズが置かれていた。

 だが、俺の部屋にはそのようなグッズは置かれていない。

 それなのに、魔力量は天と地ほどに差が開いてしまっている。

 バレンも決して怠けていたわけではないのだろう。

 その証拠に、手の平には血豆を潰した後が数多く残っていた。

 だとしたら、何が俺と彼にそこまでの差を生ませてしまったのか?

 もちろん、生まれつきの潜在能力もあるだろう。

 だが、身体の奥底で眠る力を引き出すのは決まっていつも同じだ。


 「外的要因」ーー何かと接し、何を感じ、何を思うかで力は大きく膨らむ。

 俺がここまでの力を得ることができたのは、「外的要因」ーーつまり「きっかけ」が大きかったからに他ならない。


 ーーすると、今俺はバレンの可能性を奪おうとしているのか?


 国の内に閉じ込めていても、彼の場合きっと大幅な成長には繋がらない。

 一度決めたことをこうもあっさりひっくり返すのはあまり釈然としないが、俺から彼に言えることと言えばこれぐらいしかないだろう。


 「わかった、戦闘は極力避けるように情報収集をしてきてくれ」

 「あ、ありがとうございます! それでは早速準備の方に取り掛かります!」


 そう言い残すと、バレンはどこかへ消えて行ってしまった。


 さて、セモンたちの問題はバレンに任せておくとして次はーーーーと思ったその瞬間。


 「ル、ルじフぇオズざま・・・」


 只事ではない声で俺の名を呼ぶ声が背後から聞こえた気がする。

 ゆっくり声のする方へ振り返ってみるとそこにいたのはーーーー


 

 全身血塗れになったアスモレオンだった。




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