39 地獄の拷問
「な、なんだ!?」
「体が・・・動かないだと・・・!?」
そりゃそうだろ、お前たちが逃げられないように体の自由を強制的に奪ったのだから。
『聖霊』<<統率者>>の力の一つである「行動支配」はお察しの通り、ある対象の行動権限を俺のものにするという能力。
要するに、俺の言いなりになるということだ。
だから彼らは己の意思で体を動かすことができないし、俺に逆らうこともできやしない。
「精神支配」は他者の意識に干渉することで逆らえなくさせるというように相手の状態に応じた能力になるわけだが、この「行動支配」は意識に干渉することなく肉体に直接干渉し強制的に筋肉の自由を奪うという至ってシンプルな能力なのだ。
主の有無など、「行動支配」の前では些細な問題に過ぎない。
「さて、お前たちには色々聞き出したいことがある。洗いざらい全て話してもらおうか」
「はん! 俺たちがお前に全てを打ち明けるわけねぇだろうが!」
「分を弁えろ。殺されたいのか?」
「殺せないくせによくもまあそんなことが言えたな?」
どうやら自分たちの置かれている立場を正確に理解しているようだ。
確かに、洗いざらい話してもらうまでは彼らを殺すことはできない。
だったら、「嘘壊」でありのまま話させるか?
いや、「嘘壊」はあくまで嘘をつけなくさせる力だから、無言を貫かれたらどうしようもなくなってしまう。
ーー仕方がない、殺さない程度に痛めつけるか。
俺はガイオスに狙いをつけて更なる力を行使した。
なぜ、ガイオスを狙ったかというと、魔力量がべレフォールより上だという至って単純な理由だ。
多少痛めつけても、魔力量が多ければ簡単に死ぬことはないだろう。
「ありのまま全てを話してもらおうか。でなければ貴様の肉体に傷がつくだけだぞ?」
「はぁ? 俺たちの命が大事なくせにまだそんなことをーーーー」
ガイオスがそう言いかけている途中、彼の右腕に突如変化が起きた。
当の本人も右腕に違和感覚えたのか一生懸命右腕を見ようとしているが、俺の「行動支配」が効いているせいで見ようにも見れていない様子だ。
まあ、事実を認識させるためにも彼の眼に焼き付けさせることは重要な過程だろう。
そして俺が彼に現実を突きつけさせようと彼の右腕を動かそうとしたその時、べレフォールが酷く怯えた様子で悲鳴を上げたのだ。
「あ・・・あぁ・・・あぁぁぁぁぁぁ!」
「べレフォール!? どうしたんだ!?」
「兄貴の腕がぁ! 兄貴の腕がぁぁぁぁぁぁ!」
「それじゃ分からないだろ! 俺の腕がどうしたんだ!」
「聞くよりも早い、直接眼に焼き付けるといいさ」
べレフォールの悲鳴のせいで一度は遮られてしまったが、気を取り直して俺はゆっくりと彼の右腕を目線の先まで誘導させた。
それから間もなくして彼の悲鳴が戦場に響き渡ったのは言うまでもない話だろう。
自我を忘れたように暴れ回ろうとするガイオスだが、「行動支配」の呪いが掛かっているせいで身動き一つ取ることができず、見ているこちらとしては実に愉快な光景だった。
「あ、あぁ・・・あぁぁぁぁぁぁ! 腕がぁ! 俺の腕がぁぁぁぁぁぁ!」
「カハハハ! 腕をもぎ取られたのがそんなに痛いか? だったら早くその無駄に多い魔力で腕を回復させたらどうだ?」
「お、お前! これじゃあ魔力を回復させてもさせなくても兄貴は死ぬ運命は免れないじゃないか!」
「ん? そうだが、何か問題でもあるか?」
「大ありだ! ガイオスは俺たちの先陣を切って立つ男だ。そんな兄貴にこんな仕打ちあんまりすぎだろ!」
こいつは一体何を言ってるだろうか?
死ぬ運命をこちらから下して何が悪い?
お前らは散々住人を殺したのに、自分に死が突きつけられたら怖気づくのか?
胸糞悪い話もあるもんだな。
彼の言葉を胸中に受け止めると、今度はガイオスの左腕を絞るように圧力をかけた。
「あぁぁぁぁぁぁ!」
「お、お前! 俺の話を聞いていたのかよ!」
「聞いていたさ、だからガイオスを攻撃した。何も問題はないと思うのだが」
「いいから兄貴を解放しろ! 殺すなら俺を殺せ!」
兄を庇おうとする姿勢は大変素晴らしいものだが、完全な人選ミスだ。
少なくても、その勇姿にあふれた生き様を俺に見せてはいけない。
「「嘘壊」」
べレフォールの額に手を添えて力を活用すると、電気ショックでも食らったかのように彼の身体がいきなり飛び上がった。
そしてここから告げられるのは彼の本心だ。
「俺の勇姿を見て、兄貴の野郎も俺に便乗してこねぇかな~、そうすれば俺は無事解放されるのに~」
「お、お前! そんなことを思っていたのか!」
「そうだよ、兄貴が死ねば俺が魔人王の座に就けると思ったから、兄貴を最後まで有効活用しようとしてたんだけど、弱すぎて使い物にならなかったな~」
「貴様ぁ!」
べレフォールは慌てた様子で口を塞ごうとしていたが、身動きが取れずに口を塞ぐことができない。
よって、彼は恐れた表情をしながらも秘めた思いを全て打ち明けている絵面となっているわけだが、ビビった顔をしながらも思ったことを口にするべレフォールは最高に面白可笑しかった。
「だって兄貴、強いって言われてるわりには簡単に負けてんじゃん。これじゃあ、あの人に協力してもらった意味が皆無だぞ?」
「俺より雑魚の分際で偉そうな口を叩くんじゃねぇ! ブチ殺されたいのか!?」
「って言うけどさ、殺されかけてるの兄貴の方じゃん。先に死ぬのは兄貴の方じゃん?」
「いい加減にしろ!」
見事に仲間割れをしている彼らのコントをもう少し見ていたかったが、べレフォールが気になることを口にした気がする。
あの人? それは一体誰のことだ?
こいつらに手を貸した協力者がいると言うことか?
これは早急に確かめる必要がありそうだ。
「べレフォール、お前今ーーーー」
「いつまでも抜かしたこと言ってるとーーーー」
「おい、俺が今喋ってんだ。大人しくしてろ」
そう言ってガイオスの喉を潰そうとすると、彼は抵抗するかのように顔が真っ赤に腫れ上がっていた。
恐らくは、息ができなくて苦しいのだろう。
このまま続ければ窒息死は免れない・・・か、しょうがない。
俺は彼の首に掛けられた拘束を解いた後にゆっくりと口を開いた。
「知りたい情報をお前たちは大量に持ってるだろうからな。そう簡単に殺したりしないから安心しろ」
「ゴホゴホ、カハッ! こ、この悪魔め」
「魔人は悪魔だろう? 今更何をほざくか」
ガイオスとの話はここまでにして、すぐ本題に入るとしよう。
情報を素直に吐き出させるのなら「嘘壊」の効力が効いているベレフォールが適任者だと言える。
回り諄いのはやめにして、俺はさっそく彼に聞いてみることにした。
「お前、今あの人って言ったよな? そいつはお前たちと協力関係にあったのか?」
「ああ、俺たちとあの人で契約を交わしたんだ」
「契約? その内容を洗いざらい全て話せ」
「他言しないと契約内容に含まれてるからこれだけは話すわけにはいかない」
「そうか、だったら話したくなるまで気長に待つとしようか」
俺はべレフォールの右足を原形留めることなく豪快に押し潰した。
痛めつければ、契約を切り捨ててでも話したくなるだろう。
「あぁぁぁ! 足がぁ! いてぇ、いてぇよ!」
「お前はガイオスほどの魔力がないから、話さないとこのままじゃ死ぬかもな?」
「わかった、俺の知る限りのことは全て話す。だから殺さないでくれ!」
右足を修復しながらも命乞いをするべレフォール。
どうやら、こいつは「命の重さ」と「契約内容の重さ」の天秤を上手くかけられているようだ。
まあ単純に「嘘壊」で馬鹿正直になっているだけなのだが。
「さて、それじゃあまずはあの人のことを全て話してもらおうか」
「ああ、あの人と出会ったのは『次世代魔人王決定戦』が終わった次の日で、病棟で休んでいた俺と兄貴の元に突然現れたんだ。「ヘルゼビュート」という名を名乗ってな」
「ヘルゼビュート・・・か、そいつとお前たちが協同してこの国を滅ぼそうとしたのか?」
「ああ、俺たちはどうしてもお前を魔人王として認められなかった。だからそのヘルゼビュートと契約を結んだんだ」
そして彼は契約の内容を何一つ隠すことなく全てを打ち明けた。
「俺たちに最高位悪魔の力を貸し与える代わりに協同して魔人王の座に居座る悪魔を倒そうと、へルゼビュート、ガイオス、べレフォールの三人の秘密契約を結んだんだ」
「それでお前たちは「魔王」の力を借り受けたということか」
大体の話の道筋は見えてきたのだが、どうも腑に落ちない点が一つだけあった。
それは、相互の利益関係が正常に成り立っていないということだ。
そのヘルゼビュートとやらは、ガイオスらに悪魔の力を貸し与えるだけ与えておいて自分に利益となる条件を一切提示していない。
魔人の国と国交を結んで貿易でもしたかったのだろうか?
それなら俺が就いていてもできることだから絶対に違うと断言できる。
気になるのは、「魔人王の座に居座る悪魔を倒そう」という言葉の羅列だ。
この言葉から、ヘルゼビュート自身も俺の魔人王着任を心から望んでいないということがはっきり分かる。
俺を倒すことが奴の利益なのか?
もしそうだとしても、一体その行動に何のメリットがある?
ヘルゼビュートの真意が全く読めそうになかった。
「「魔王」かどうかは俺たちもよくわからないが、高位の悪魔であることには間違いない」
「つまり、お前たちは見知らぬ奴の口車にまんまと乗せられたということか」
「俺たちはどうしたら魔人王になれるか必死だったんだ、だから協力してくれる手をしっかりと取ったまでというか・・・」
「プライドの塊が聞いて呆れる。俺には到底理解できない思考回廊だな。第一にそんな仮初の力だけで魔人王になったとしても何の得にもないだろうが」
まあ彼らの馬鹿げた思考回廊の話はさておき、次に聞きたいことを聞き出すことにしよう。
「さあ次の質問だ、お前たちがその悪魔から借りた力って言うのは一体何だ? さっき「呪い」がどうとか言っていたよな? その辺詳しく説明してもらおうか?」
「あ、えっと・・・」
明らかに口籠るべレフォールに違和感を覚えない奴は恐らくいないだろう。
だが、いくら口籠ったところで「嘘壊」の前では全て無意味な愚行でしかない。
そして悲しそうな表情をしながらも真実を口にする彼の言葉が鼓膜に刺さった途端、俺の目の前は一気に真っ暗になった。
「借り受けた力「悪喰」の効力を乗せた力で傷を負うと、その部位一体を機能不全に陥れるんだ。それが俺たちの言う「呪い」の正体さ」




