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魔族を統べる聖魔の王  作者: うちよう
01 魔人王即位編
37/52

37 借り受けた悪魔の力

 ーーガイオスとべレフォールの狙いは俺じゃなかったのか?

 

 彼らがなぜ無関係の人にまで手を出したのかが分からない。

 俺が魔人王の座に即位したことがそんなに気に食わないというのなら、なんで俺に牙を向けなかったのか。

 セモンたちが計画の邪魔をしたからか?

 それでも、ここまでする必要はどこにもないはずだ。

 分からない、こいつらの考えてることが全く分からない。


 俺が地上層に降り立つとガイオスが急に話しかけてきた。

 今はこいつと話したくないんだが。


 「あれ〜? 魔人王様じゃありませんか。 随分とお帰りが早かったですね~? 計画に支障が出ちまったじゃないですか~」

 「・・・計画? それは俺が収めるこの国を滅ぼすことか?」

 「正解で~す、あんたがいないうちにこの国を滅ぼせばあんたの居場所は当然無くなる。そして追い払った後に俺が魔人王になるっていう計画だったのに、あんたが早く帰ってきたせいで全て台無しで~す」


 つまり、俺がいなくなる隙をずっと伺っていたわけか。

 俺の不在を狙った理由は聞くまでもないことだ。

 『次世代魔人王決定戦』で圧倒的な実力差を見せつけられたものだから、俺との戦闘は極力避けたかったのだろう。

 クスクスと鼻を鳴らして笑っているこいつらに激しい憤りを覚えるのには十分過ぎる理由だった。


 「俺が収める国が気に食わない? だったら反逆者として貴様らを肉片も残さず残虐に殺してやる」

 「こっちは俺とガイオス兄貴、それに兄貴はすでに魔力を最大限に蓄えている。どう考えてもお前に勝ち目はねぇよ!」

 「そうか、貴様はそこの雑魚が俺に負ける姿を目にしてなかったもんな。いいだろう、冥土の土産に教えてやる」


 俺は魔に蝕まれた『聖霊』<<統率者>>を発動させた。

 禍々しいオーラが俺の身体を侵食していき、魔力量があっという間にガイオスを上回る。

 魔力量は『次世代魔人王決定戦』の時とほぼ同じくらいだ。


 「俺の魔源力は魔力を無効化することじゃなく、()()()()()()()()()()()()だったのさ。魔力を無効化出来ていたのは単に貴様らの魔力が貧弱過ぎたというわけだ」

 

 『聖霊』の名を伏せたのは、知られたら更にめんどくさくなると思ったからだ。

 にしても、「魔力増幅」が俺の力だと言うのはあまりにも無理があったか?

 そう思ったのだが、彼らの口振りからどうやら誤魔化すことに成功したらしい。


 「「魔力増幅」がお前の力か。ダメージを受けなければ増幅しない兄貴の上位互換というわけか、おもしれぇ」

 「笑わせんな、ルシフェオスの力はただ対象の魔力を上乗せするだけ。対象が雑魚なら尚更力は最大限に発揮されない」

 「だとすれば、やっぱり兄貴の「魔壊の新星(イビル・ノヴァ)」の方が優秀な力というわけか」

 「当然だ」

 

 脳が入ってなさそうな馬鹿な話はそこまでにしてもらおう。

 俺は片手に魔力剣を作り出すとともに、剣先を彼らに向けて死の宣告を口にする。


 「今日を以て貴様らはここで死を遂げるのだ、後悔するなら地獄でするんだな」

 「プッハハハハハハ! 後悔するなら地獄でだと? 馬鹿なことを言うもんだな」

 「本当だ! ニ対一で俺たちが負けるはずないだろうが。馬鹿か? 馬鹿なんじゃねぇの?」


 別に嘘を吐いた覚えはないのだが、まあいい。

 今のうちにたっぷり油断しとくといいさ。

 

 「ルシフェオス様・・・俺も加勢いたします・・・」

 「セモン、片目しか見えていないんだろ? だったら早く避難しろ」

 「ですが、ルシフェオス様・・・奴ら相手ではあまりにも危険です・・・二対二なら奴らを始末することもできるでしょう・・・だから、どうか俺と一緒に・・・」


 やけに突っかかってくるセモンに何か違和感を感じる。

 セモンと言う男はここまで融通が利かない男だっただろうか?

 いや、彼は状況判断能力に長けた優秀な男だ。

 そんな彼が一歩も引かず共に戦うと言うのだから何か考えがあってのことに違いない。

 俺は潰された片目を抑えながら立ち上がろうとする彼に問いかける。

 

 「奴らに何かあるのか?」


 するとセモンの口から衝撃の事実が飛び出してきた。


 「あいつら、最高位悪魔(デーモン)である「魔王(デーモン・キング)」の一部の力を借り受けているようです・・・どうやって身につけたのかの詳細は不明ですが・・・」

 「「魔王(デーモン・キング)」、か・・・」

 「はい、それぞれの魔源力の特性に合わせた悪魔(デーモン)の力を宿しているようです・・・」

 「なるほどな、でなければお前たちが負けるはずないもんな」

 

 セモンの「石化(カース・ロック)」、サリカの「弱点転換(ウィーク・コンバート)」と「絶対照準(アブソリュート・アイ)」。

 どれも俺が相手でなければ負ける可能性は0パーセントに等しい最強の能力たちだ。

 そんな彼らが負けたとなれば、奴らが借り受けた悪魔(デーモン)からの恵みはよほどの力を秘めているのだろう。

 だが、俺には全く関係ないな。


 何だって俺にはーー『聖霊』が宿っているのだから。


 『聖霊』を宿している限り、魔人だろうと悪魔(デーモン)だろうと、魔の者の力は全て無効化される。

 つまり、余裕ぶっている彼らの顔から絶望が現れるのにはそう長い時間は掛からないと言うわけだ。


 「ルシフェオス様・・・どうかディアルナ様を連れてお逃げください・・・ここは私たちで何とか食い止めますから・・・」

 

 サリカはそう言うが、彼女の片腕は奴らの手によって消し飛ばされている。

 この場から逃げるべき者はどう考えても俺じゃなく彼女の方だ。

 彼女の能力(ちから)は片腕が無くなった如きで易々と失われるようなものではないことは重々承知しているのだが、やはり怪我人と共に戦うのはあまりにもリスクが大きすぎる。

 二対一の勝負自体には何も問題ないが、これが三人を庇いながら戦うとなれば話は大きく変わってしまう。

 だからこそ、彼女たちには戦線離脱してもらわないと困るのだ。


 「いや、お前たちはこの場から撤退するんだ。その怪我じゃろくに戦えないだろ」

 「そんなことはありません・・・どうか俺たちにも協力させてください・・・」

 「私たちは・・・まだ戦えます・・・! だから、ルシフェオス様のお役に立たせてください・・・!」

 「役に立ちたいのならここから離れろ。お前たちの怪我もそうだがディアルナもかなり重症だ。そんなお前たちが俺の役に立ちたいと言うのなら、一刻も早くシヴィリアーナのところで治療を受けてくるんだ」

 「で、でも・・・!」

 「サリカ・・・もういい・・・」


 彼女の言葉を遮ったのは、片目を負傷しているセモンだった。

 どうやら、セモンは状況を冷静に判断できたようだ。


 「確かにルシフェオス様の言う通りだ・・・もしこのまま戦ったとしてもルシフェオス様の足を引っ張るだけだ・・・その後はわざわざ話さなくてもわかるだろう・・・?」


 彼の言う「その後」と俺の思う「その後」はきっと同じ結末で間違いないだろう。

 そして、冷静さを無事取り戻せたサリカも俺たちと同じ結末を想像したのか、落ち着いた様子でゆっくりと口を開いた。


 「・・・それもそうね。今の私たちじゃあルシフェオス様の足枷にしかならない・・・」

 「そういうことだ・・・だから俺たちがすべきことは・・・ディアルナ様を連れてシヴィリアーナの元まで走るだけだ・・・」


 セモンはディアルナを抱きかかえると、すぐさまシヴィリアーナの元まで駆けて行く。

 場所を知らせずとも、シヴィリアーナがどこにいるのか知っているようだ。


 「サリカも早く行くんだ」

 「ルシフェオス様・・・私たちが戻るまでどうかご無事で・・・!」


 そう言い残すと、サリカはセモンの後をついていくように走り去っていく。


 「ククク、自分たちに掛けられた「呪い」も知らずに能天気な奴らだ・・・」

 「「呪い」? それは「魔王(デーモン・キング)」から借り受けた力で間違いないよな?」

 「正確には違うが、これ以上は喋るわけにはいかないな」

 「そうか・・・それは残念だ!」


 俺はガイオスの体を切り刻むように魔力剣を振るった。

 「魔壊の新星(イビル・ノヴァ)」の効力が持続していることから、まだ限界値までは達していないらしい。

 そうなれば、さっさと限界値まで引き上げてしまえばいい。

 だが、現状はそう甘くなかった。


 「あまり頭に乗るな!」


 魔力を十分に灯したべレフォールの魔吸剣が、俺の喉元を掻き切る勢いで飛び込んでくる。

 俺は寸前のところで攻撃を躱し、べレフォールの隙を突いて一撃を食わせようと切りかかると、今度はガイオスが身を挺して弟を完璧に守り切った。

 あの美少女三姉妹程ではないがよく連携が取れている。

 無闇に突進するのは控えるべきだな。


 そう思い、彼らから一度距離を取ろうと後ろへ後退したところ、どうやら逃げたと誤解させてしまったようだ。

 よほど可笑しかったのか、嘲笑いながら挑発してくる。


 「あれれ〜? 粋がってたわりには大したことねぇな〜? 『次世代魔人王決定戦』のはただのまぐれだったのかー?」

 「俺が負けたのは魔源力が使えなかったからだったんだな! 使える今となっては俺がお前に劣るとは思えんな〜。謝ってくれさえすれば許してあげなくともないがな」

 「そうか、だったら今すぐあの世へ連れてってやるよ」


 俺は魔力剣から一部魔力を分離させ、彼らに闇の炎で作り上げた「闇炎刃」を一発お見舞いしてやった。


 「ハ! その言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」


 するとベレフォールも俺と同じように魔力の刃で応戦してくる。

 まあ、彼の刃に俺の「闇炎刃」を相殺するだけの力はないだろう。

 そう思っていたのだが、予想外にも彼の魔力刃で見事に相殺されてしまった。

 強い衝撃が重なって戦場に突風が荒れる中、ベレフォールは愉快そうに口を開く。


 「ハハハ! これが俺の魔源力「魔力凝縮(マジック・フィール)」! 魔力を最大限まで凝縮させて通常の何倍もの力を発揮させる能力さ! つまり、お前の攻撃力と俺の攻撃力は同等ってことだ」


 なるほど、彼の魔源力を持ってすれば俺の攻撃はいとも簡単に相殺されるというわけか。

 それに加えて、全てを兼ね備えるガイオス。

 かなり戦況が悪いと見て取れるだろう。

 だが、俺にはまだ()()()が残っている。

 この戦況を覆すには切り札の存在は必要不可欠だ。

 大天使だったあの頃に一度だけ神の命令で試しに体現させたことがあったが、魔人族となった今成功するかどうかは誰にもわからない。

 それに切り札を使うからには、相応の罰も下されるわけで、


 ーーいや、今更迷う余地がどこにある!


 今使わずしていつ使うというのか。

 そして俺は、戦況を覆すための切り札を迷わず切ることにした。


 

 ーー覚醒しろ、「聖邪神(ルシファー)」!


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