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魔族を統べる聖魔の王  作者: うちよう
01 魔人王即位編
36/52

36 信頼と不満

 「おいおい、一体どうなってるんだ・・・?」


 無事に螺旋階段を登り切った俺の視界に広がったのは、北西の方角から天高くへと舞い上がる黒煙だった。

 それも一つだけじゃない。

 離れた位置に二、三、四・・・と一棟の火災だけではないことは目に見えて明白だ。

 北西の方角、俺はここへ来るときには南西の方角を目指して飛んで来た。

 つまり、ここから北西の方角にあるのはーーーー


 「こんなところで遊んでる場合じゃない!」


 魔人の王として状況の確認をすべく、北西の方角へと風を切るように素早く飛んで行く。

 空から大地を一望してみたが、やはり黒煙を発生させていたのは魔人の国だった。

 しかも黒煙の数は地上から見た時よりも多く、ただならない気配が国全体に充満し切っている。


 「これはまずいな・・・」


 そして魔人の国へと差し掛かろうとしたその時、退国して行く大規模の集団が目に入った。

 どうやら、魔人の国の近くにあった洞穴へと避難しているようだ。

 俺はその大群を一か所へと誘導している見知った彼女に声をかけるため地上層へと降り立つ。

 まずは状況を把握するところから始めないと。


 「シヴィリアーナ、一体何があったんだ?」

 「ルシフェオス・・・じゃなくて魔人王様、無事でしたか」

 「この際呼び方なんて今はどうでもいい。それより、一体国に何があったんだ?」

 「それは・・・」


 一度は顔色が怪しくなったものの、彼女は事の顛末を正直に話してくれた。


 「実は・・・、ガイオス兄さんとべレフォール兄さんが謀反を起こしたのです」


 やはりあいつらだったか・・・。

 会議室での会談の一件で、俺の魔人王即位にすぐさま異議を唱えたのは彼らだった。

 どうしても、今の現状が許せなかったんだろうな。


 「ガイオスとべレフォールが裏切ったのか?」

 「はい、ルシフェオス様が魔人王に即位するのなら、いっその事国家改革してやると言いだして・・・それを耳にしたガイオス兄さんとべレフォール兄さん派の人たちも兄さんたちに加勢するようになって・・・」

 「つまり、裏切ったやつらは俺の魔人王即位に不満があったというわけか」


 コクリと一回頷くシヴィリアーナと俺の間を割って入るように、住人たちの怒りが俺の鼓膜を強烈に刺激する。


 〝お前が魔人王にならなかったらこんなことにはならなかった!〟 とか。

 〝この先の暮らしを保証してくれんのか? できないなら死んで詫びろ!〟 とか。


 それに反するように、


 〝誰が魔人王になろうと結末は同じだった。魔人王様は何も悪くない!〟とか。

 〝決定戦の圧倒的な力をもう忘れたの? 状況が悪くなったからってすぐそんなことを口にするのはただの馬鹿としか思えない〟とか。


 責め立てようとする「革新派」と権威を守ろうとしてくれる「保守派」が今この瞬間に真っ二つに分断されてしまった。

 「革新派」の人たちがここまで逃げてきたのは、少なからず俺のことを魔人王として認めてくれていたからだ。

 なのに、俺は彼らの反感を買う真似をしてしまった。

 俺が魔人王になったのは一個人の野望を叶えるため。

 そんな中途半端な気持ちでなっちゃいけなかったんだ。

 豊かな暮らしを奪ってしまった俺を彼らは決して許してくれないだろう。


 俺が魔人王にならなければこんなことにはーーーー

 

 二つの派閥が殴り合いそうな勢いで口論をしている中、見兼ねたシヴィリアーナがついに口を開いた。


 「私より年配のくせして揃いも揃ってバッカじゃないの?」

 「シヴィリアーナ・・・?」


 俺の言葉なんか無視して彼女は更に言葉を綴る。


 「なんでルシフェオス様が責められるの? 真に責められなきゃいけないのはガイオスとべレフォールでしょ? どうしてそんな根本的なことに気が付かないかなー?」

 「シヴィリアーナ、そもそも俺が魔人王になったのが原因なんだ。だから彼らを責めないでやってくれ」

 「いや、ルシフェオス様は一切悪くありません。そもそも『次世代魔人王決定戦』の優勝者が魔人王の座に就くルールでみんな同意したんです。だからどう考えてもあの二人が悪いんですよ」

 

 そういえばそうだ。

 『次世代魔人王決定戦』で勝ち抜いた奴が魔人王の座に就くというルールで兄姉全員了承したはずなのに、俺が魔人王になるのが気に食わないからって謀反を起こしたあいつらが責められなくてなんでルールに沿った俺が「革新派」の怒りを買う羽目になってるんだ?

 理不尽にもほどがある。


 「確かにルシフェオス様が魔人王になられたことでガイオスとべレフォールの怒りを買ったのは事実だけれど、あなたたちがすべきことはルシフェオス様が悪いかどうか口論すること? 違うでしょ! あなたたち弱き者がすべきことは、頭を垂れてガイオスとべレフォールをどうにかして欲しいと頼むことでしょうが!」

 

 シヴィリアーナの変わりように、争っていた「革新派」と「保守派」たちは目を丸くして固まっていた。

 彼らより接する回数の多い俺ですら驚きを隠せないでいるのだから当たり前だ。

 確かに、ガイオスは魔人族最強と謳われていた男で、その最強を倒せる奴と言えば俺ぐらいだろう。

 そんなことは、あの『次世代魔人王決定戦』で誰もが知る周知の事実だった。

 だが、俺の責任がどうとか言っていた奴らが果たして大人しく頭を下げるだろうか?

 「保守派」の人たちは彼女に言われた通り頭を下げるだろうが、「革新派」の人たちがそう易々と頭を下げるとは思えなかった。

 それに、頭を下げられずとも俺はガイオスとべレフォールの反乱を収めに行くつもりだ。

 早めに手を打たないと、この国が滅びかねない。

 そうなれば、大天使復讐への手掛かりを掴むための拠点地を失うことになってしまうからここは何としてでも彼らの謀反を阻止しなくては。


 「シヴィリアーナ、カレアマキナとサイスノールカ、それに他の兄姉たちはどこにいるんだ?」

 「カレアマキナとサイスノールカは一般人の相手をしていると思います。セモン兄さんとサリカ姉さんはガイオスとべレフォールの相手を、バレンとアスモレオンはどこにいるか分かりません・・・」

 「そうか、それじゃあシヴィリアーナは引き続き避難の誘導を頼む」

 「了解しました!」

 

 よし、これで住人の身の安全は一安心ーーーーと思ったの束の間、俺の頭の中にふとある少女の姿が思い浮かんだ。

 その少女は瑠璃色の髪を揺らした可愛げのある女の子。

 いや、ちょっと待て。

 少女の姿を思う浮かべると、紐付くように二人の男女の姿も脳に焼き付き始めてきた。

 見渡す限りいなさそうな三人のことを、俺は念のためシヴィリアーナに聞いてみる。


 「シヴィリアーナ、母さんとデバイゴ、それと・・・ディアルナは今どこにいるんだ? もう避難してるのか?」


 避難しているのなら何の問題もない。 

 だが、シヴィリアーナから告げられたのは最悪の事態だった。


 「いえ、まだ避難されていません。ルシフェオス様の親族の方たちならすぐに分かると思うので間違いないと思います」

 「大変じゃないか! それじゃあ俺はすぐに三人を見つけて避難させる! だからお前は持ち場を決して離れるなよ!」

 「かしこまりました!」


 彼女に指示を出してすぐさま飛び立とうとしたその時、タイミング悪く住人たちに呼び止められてしまった。

 後ろを振り返ったところ住人たちは揃いも揃って頭を下げており、中には反省の弁を述べている奴もチラホラいる。

 正直彼らと話している場合じゃないのだが、頭を下げられてしまった以上それにはしっかりと答えなければならない。

 俺は彼らに背中を向けながら飛び立つ前に一言口にした。


 「大丈夫だ、任せておけ」


 そして俺は彼らを取り残して飛び立ったわけだが、上空から城下町を見下ろしてみるとやはり事態はかなり悪いと言っていいだろう。

 カレアマキナとサイスノールカは住人を殺さないようにしながら足止めしているようだが、向こうは殺す気で来ているためかなり苦戦しているようだった。

 だが、彼女たちのコンビネーションは住人程度のレベルで崩せる代物だとは思えない。


 ーーここは二人に任せて、俺は・・・。


 狙いを王城に向けて一気に飛んで行こうとしたその時ーーーー

 王城から少し離れたところで極大な爆発音が俺の耳を貫通した。

 爆発音の威力から察するに、常人程度が出せる代物ではない。

 となれば、ガイオスとべレフォールがいるのは爆源地のあったところで間違いないだろう。


 ーー二人と戦っているセモンとサリカは大丈夫だろうか?

 

 そんなことを考えながらも俺は急いで爆源地の所へと向かい、そして一歩遅かったことに後悔した。

 爆源地があった場所を今まさに見下ろしているわけだが、そこには負傷している三人の姿が。

 セモンは片目を大胆に切り裂かれており、サリカは片腕を失っている。

 最後の一人はというとーーーー両足が血まみれになっていた。

 更に言うと、その一人は綺麗だった瑠璃色の髪を血で染め上げ、ぐったりとした様子で横たわっている。

 瑠璃色の髪をした少女。

 俺が生きてきた中で瑠璃色の髪をした少女は今まで見たことない。

 嘘であってほしい・・・だが、見知った顔を見間違えるわけがなかった。


 少女の名はーーーーディアルナで間違いない。



 血まみれとなった彼女の姿に「ディアルナ」という名前を融合させた途端、俺の中で何かが弾け飛んだ。





 

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