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魔族を統べる聖魔の王  作者: うちよう
01 魔人王即位編
34/52

34 魔導石の地下城を目指していたはずが

 『魔導石の地下城』に向かおうとしている最中、王城の中庭で戦闘訓練している三人組を見かけた。

 一人は薄暗い緑色の髪を目元まで隠した片手斧使いのセモン。

 それから水色の長髪を垂らした二丁銃使いのサリカ。

 そしてもう一人はというとーーーー


 「グハァァァァァァアッ!」

 

 大袈裟な悲痛の声を上げながら後方に吹き飛ばされる彼に、セモンはゆっくりと近づきながら言い聞かせる。


 「アスモレオン・・・この程度でやられているようじゃ話にならないぞ・・・魔人王様の力はもっと偉大だった・・・」

 「俺みたいな雑魚、兄上みたいな強い人に勝てるわけないじゃないですか! しかも、兄上が比べてる対象がもはや雲の上の存在! 俺が超えられそうな人のチョイスはなかったんですか!?」

 「うむ・・・なかなか難しいな・・・」

 「でしょうね! 俺と兄上じゃ実力の差が天と地ほどに違いますからね!」


 この二人は笑いのコントでもしているかのように息がピッタリだ。

 しかも、前々から思っていたがアスモレオンのツッコミにはかなりキレがある。

 恐らく、彼の力は過酷な戦場なんかよりも誰かとコンビを組んで漫才をしていた方が魔人の国に貢献できるだろう。

 だが、大天使への復讐に向けて少しでも優秀な人材を揃えておきたい。

 そのためにも、指南者から直に指導を受けた二人が戦いの術をアスモレオンに伝授する必要がある。

 ガイオスやべレフォールという選択肢もあったのだが、正直当てにはできない。

 色々な戦術を教えてもらっていたとしても、彼らの人格上指導者は向いていないからだ。

 どうせ人のことを見下して弄ぶだけだろうからな。

 彼らもアスモレオンと同様、「教える」という立場よりも「教えてもらう」にある者たちだという見解で違いない。


 「あら? ルシフェオス様、いかがされましたか?」


 サリカは俺の元へと駆け寄ってきながらそう口にする。

 気づかれないように遠くで見ていたつもりだったが、どうやら彼女に見つかってしまったようだ。


 「アスモレオンをあまり虐めすぎるなよ? サリカとセモンはそこらの魔人よりも強いんだから」

 「ご心配することは何もありませんよ。それより、その衣装とてもお似合いですね」

 「あぁ、これはディアルナのお父さんに作ってもらったものなんだ」

 「そうなんですか・・・魔力を宿せない装備とはなかなか思い切ったことをなされる方なんですね?」

 「なんか、魔力を宿せる装備を使っても魔力耐久値の問題ですぐに壊れる可能性が高いんだと。だから魔力を宿せない装備になったってわけさ」

 「なるほど、確かにルシフェオス様のあの魔力量に耐え切れる装備は出回ってないでしょうからね」

 「そうなんだ、だから装備は諦めて『魔吸剣』で少しでも魔力消費量をセーブしようかなと。鉱石を扱うのは鍛冶職の得意分野だからって言ってたさ」

 「ふふ、ならこれから素材の方を採掘しに行くんですか?」

 「あぁ、だからこれからしばらく留守にするがその間王城のことをセモンとサリカに任せていいか?」


 俺の頼みに彼女が受け答えするよりも先に、後ろからゆっくりと歩み寄ってきていたセモンが片膝を地につけて口を開いた。


 「心得ました・・・王城のことは我々に任せてください・・・」

 「あ! 私が言おうとしてたことなのに~」

 「世の中、早い者勝ちと言うだろう・・・? だから姉上は俺を咎めることは決してできない・・・」

 「あー、そういう態度取るんだー?」


 喧嘩しそうな勢いで対立する二人だが、まあそのうち二人の頭の熱も冷めるだろう。

 俺はそんな二人を無視して一言言葉を口にしてその場を去る。


 「それじゃあ、頼んだぞ」

 「「気をつけて行ってらっしゃいませ」」


 二人に見送られながら俺は王城を後にした。

 にしても、いきなりため口を使って何か変な風に思われないかとかなり心配したが、どうやらその心配も必要なかったようだ。

 この魔人の国では強者が絶対のルール。

 例え相手が年下の弟であっても、敬う気持ちを忘れてはいけないということなのだろう。

 だとすれば、これからは「魔人王」として舐められた態度を取られないように口調を気にするようにしよう。

 そう心に誓って、俺は南西約三十キロメートル離れた『魔導石の地下城』を目指す。

 とはいっても、徒歩では距離に見合ったそれ相応の時間を費やしてしまう。

 最短ルートで目指すとなれば手段は限られてくる。


 俺は全身に魔力を宿し、魔力でできた漆黒の翼を顕現させた。

 名付けるとするならーー「黒翼(ダーク・ウィング)」とでも名付けるとしよう。

 そして俺は「黒翼(ダーク・ウィング)」を精一杯羽ばたかせて上空に舞う。

 飛行原理は大天使の「天翼」と同じだ。


 「さて、南西約三十キロとか言ってたよな・・・」


 南西の方角を向いてみるが、遠くに幾つの山が連なる山脈地帯が見えるだけだった。

 もしかしたら、あの山脈の麓にあるのかもしれないな。

 

 「それじゃあ、さっそく向かうとしますか」


 俺は南西に佇む山脈を目指して漆黒の翼を羽ばたかせた。

 過ぎ行く景色の中には川や森が存在していたが、上空にいる以上俺には関係のない弊害だ。

 もし歩いて向かっていたとするならかなりの時間を食っていただろう。

 それから飛行を続けること一時間が経過し、俺はついに山脈の麓付近へと辿り着くことができた。

 上空を見下ろす限り、デバイゴの言っていた『魔導石の地下城』らしきものは見当たらない。


 「ここからは降りて探すしかないな・・・」


 やむを得ず、俺は山の麓に着陸した。

 見渡す限り、『地下城』の入り口と思しきものはなさそうだ。

 勝手な解釈になるが、「地下」と名称を付けているぐらいだから恐らくは地下に繋がる入り口があるはずなのだがーーーー


 「どっこにもねぇなー」


 探し始めてから一時間ぐらいが経過しただろうか。

 ここまで時間を費やしたら、方角をミスしたか場所を間違えているとしか考えようがない。

 こんなことになるなら、デバイゴから場所の詳細をきちんと聞いておくべきだった。


 「はぁー、クソッ! 時間を潰しただけかよ!」


 これ以上探し回ったところで疲労が増す一方だ。

 そう思い、一度地べたに寝っ転がって休息を取ろうとしたその時、ゴツンと何か固いものが俺の頭を鈍く打ち付けた。


 「痛ってぇなー。一体何なんだ?」


 落ち葉の陰で隠れているものだから気が付かなかった。

 俺は後頭部を片手で優しくさすりながら、もう片方の手で落ち葉を左右にどかしていく。

 そして落ち葉の陰から姿を現したのはーーーー


 「・・・ドアノブ?」


 地べたに張り付くタイプのドアノブがそこにあった。

 背丈がないからこそ落ち葉の陰に隠れてしまったのだろうが、まず思う事といえば、なぜこんな地べたにドアノブが備え付けているのかだろう。

 地べたにドアノブをつける理由など考える余地もない。


 「ここに財宝でも眠ってるのか?」


 だが、冷静に考えてみるとドアノブなんか付けたら財宝を奪われるリスクが一気に上昇する。

 財宝を隠す側になってみれば、決してそんなことはしない。

 となれば、この先にあるものとは一体何なのか。

 『魔導石の地下城』である可能性は限りなく0に等しい。

 もし、これが『魔導石の地下城』の入り口だとすれば、デバイゴは一言言うはずだ。

 

 「『魔導石の地下城』の入り口は地面に埋まっています」と。


 だから『魔導石の地下城』の入り口でないことは確かだった。

 

 「この先に何があるんだ・・・?」


 ありとあらゆる可能性を模索してみたが、それらしい答えは見つからない。

 だが、答えが見つからなくて良かったと思う。

 でなければ、夢のある可能性がこの扉の奥に秘められていると胸を躍らせることができなかっただろうから。

 もしかしたら、『魔導石の地下城』よりも良い鉱石が手に入るかもしれない。

 そうなれば、俺は誰よりも強力な『魔吸剣』を手に入れられる。

 珍しく俺は不気味な笑みを浮かべていた。

 それもそうだ、世の中に出回っている『魔吸武器』より強力な『魔吸武器』を手に入れたら、俺の魔力消費量にも大きな影響を与えることとなる。

 もしその可能性があるとするなら、俺はこの扉の先を確かめなければならない。

 

 己の欲望に流されるまま扉をゆっくり引いてみると、扉の向こうには下り階段が続いていた。

 下り階段の先は真っ暗でよく見えないが、価値あるものが眠っているかもしれないと考えれば突き進むしかない。


 そして俺は一歩ずつゆっくりと階段を降りていく。

 

 


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