31 ディアルナの愛情
「ディアルナのお父さんが・・・俺の装備を?」
装備一式を揃えてくれるのは非常にありがたい話なのだが、その結果に辿り着くまでには様々な問題をクリアしないといけないはずだ。
まずはどういった経由でそんな話になったのか聞き出すことにした。
「どうやって俺の専属鍛冶職になったのでしょうか? 自分でこういうこと言うもなんですが、これでも一応魔人王なので専属鍛冶職につけるのにはそれなりの理由が必要になるはずなのですが・・・」
言葉をかなり濁したが、身も蓋もなく言ってしまえば彼の家系は王族には繋がらない一般庶民だということ。
つまり、そんな庶民が王家の、しかも魔人王の専属鍛冶職につくのには大層な理由が必要になるのだ。
もし彼が本当に俺の専属鍛冶職だとするなら、その狭き難関の門を突破したということになる。
「はい、ルシフェオス様のお母さまからの承諾は得ております。なんだって、私たちは旧魔人王様が健在の時からの知り合いですから」
「あぁ、そういえばそうでしたね」
デバイゴと再開するまで完全に忘れていたが、彼は武器の納品のために何度か王城に足を運んだことがあった。
母さんともそこで知り合ったというのだから、彼に俺の専属鍛冶職人になる大きなアドバンテージがあるのは確かだ。
だが、当の本人に確認もしないで承諾したのはいかがなものだろうか。
『鍛冶職』という職種の知り合いはデバイゴ以外いないから結果的には構わないのだが、俺が寝ている間に契約を結ぶのは今後控えて欲しい。
まあ、そんなことを彼に愚痴ったところでどうしようもないが。
「それじゃあ、今後ともよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそお願いします」
これで専属鍛冶職の話はおしまい。
ここからは俺がデバイゴに尋ねる番だ。
「そういえば、ディアルナは元気ですか? 寝ていた五日間で大きく変わったことはないでしょうけど、どうも心配で・・・」
「ハハハ、ディアルナもルシフェオス様に気にかけられていて幸せ者ですな。心配なさらなくとも娘は『魔人王の玉座』でしっかり仕事をしていますよ」
「あ、そうなんですか・・・・・・って、ちょっと待て」
聞き捨てならないことを耳にした気がする。
「あの、ディアルナが今どこにいると言いました?」
「え、『魔人王の玉座』にいると、そう言いましたが?」
「いや、「言いましたが?」じゃないだろ! なんでディアルナが王城の中にいるんだよ! デバイゴの付き添いだとしても王城の中の、しかも『魔人王の玉座』には入っちゃダメだろ!」
『魔人王の玉座』は、『次世代魔人王決定戦』を実施する企画を立てた際に用いられた部屋だ。
王城の中でも最高位に君臨する魔人しか入ることを許されていない部屋で、許可が下りてるのは俺を含んだ兄姉十人とその保護者、それと元魔人王の御側付きだけだった。
そんな部屋に、一般庶民である彼女が立ち入ればどうなるか。
最悪の場合、何かしらの刑に処される可能性だってある。
なのに、デバイゴからは全く焦りを感じない。
「そういえば、特に大事なことを言ってませんでしたね。ディアルナはーーーー」
そして、彼の爆弾発言を耳にした俺がどんな表情をしていたのかは言うまでもなかった。
「ルシフェオス様の妃として迎え入れられたのですよ」
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俺とデバイゴは現在、『魔人王の玉座』の扉の前で立ち尽くしている。
なぜこんな場所で立っているのかと言えば、遡ること数分前に彼がにわか信じがたいことを口にしたからである。
ディアルナが妃? 初々しい付き合いすらしたこともないのにいきなり妻ですか、悪い冗談だ。
でも、デバイゴの表情からは嘘を吐いているようには思えない。
というか、彼が嘘を吐くような人だとは思えなかった。
ーー本当に、ディアルナが・・・俺の妻?
魔人王になっても年齢を偽装することは決してできない。
十歳の男児に一人の妃。
しかも、その妃も俺とそこまで変わらない年齢ときた。
いくら実力主義の国とは言えども、こんなガキ共が国を治めていることに不満を抱かない奴がいないわけがない。
目が覚めてからすでに会ったセモンやサリカ、そしてアスモレオンからは不満を一切感じなかった。
彼らは俺が魔人王、ディアルナが妃だということを少なからず認めているからだろう。
そんな難癖のある連中が認めているからには、恐らくバレンやシヴィリアーナ、カレアマキナやサイスノールカも現状を認めている。
問題があるとするならーーーー奴らの方だ。
ーーガイオスとべレフォール・・・あいつらは俺達を認めていないだろうな。
あの二人は器が小さいから、きっと俺とディアルナのことを認めてないに違いない。
まあ、納得がいかないと言うならどんな手を使ってでも服従させるだけだが。
そんな話はさておき、今は目の前の扉の先に広がっている事実とデバイゴが口にする事実が完全一致しているか確かめなければならない。
そして俺は、重々しい音を立てながらゆっくりと扉を開いた。
するとそこにいたのはーーーー
「・・・メイド?」
扉の先で待っていたのは、メイド服を身に纏った美少女だった。
美しい瑠璃色の髪を二つ結びにしており、それを弱々しい肩に垂らしただけの簡単なアップヘア。
定番の褒め言葉よりも先に思ったことと言えばこれぐらいしかない。
「なんでディアルナがメイド服着てるの?」
「それは、ご主人様が可愛いメイドさんが好きだとお聞きしたもので」
「誰がそんなことを言ったんだ? 俺はメイド好きじゃないぞ?」
「そんなことはないですよ! そんなことはないんです!」
「いや、俺自身のことだから。他の誰よりも自分のこと知ってるから。一番の理解者だから」
一体誰がそんなデマ情報を彼女に教えたのだろうか。
どちらかと言えば、メイド服よりもナース服の方が好きなのだが・・・ってそんなこと死んでもディアルナには言えないな。
いや、もしかしたら「俺はナース服の方が好き!」と言えば彼女はナース服に着替えてくれるのではないか?
彼女のナース服ならぜひ拝んでみたい。
でも、そんなことを頼めば下心が丸見えだ。
仕方がない、ナース服は別の機会があった時にしよう。
そう自分に言い聞かせて、メイド服の彼女に問いかけた。
「メイド服の件はどうでもいいや。それより、ディアルナが俺の妃になったって本当なのか?」
「え、あ、うん。そうだけど?」
「なんか軽いな・・・。俺たちそこまで付き合い長くないけど俺の妃になって良かったのか?」
「はい!? ルシフェオスは何を言ってるの!?」
俺の胸ぐらを凄い勢いで掴みかかってくるディアルナ。
これでも、一応魔人王なのですが。
「何を言ってるって、俺変なこと言ったか?」
「逆に変なこと言った自覚がないの!?」
「え、デバイゴさん。俺何か変なこと言いました?」
「えぇ、ルシフェオス様は何もわかってないのですね。もう少し女の子の気持ちを分かってあげましょう」
俺のフォローをする気が一切ないデバイゴ。
これでも、一応魔人王なのですが。
「それじゃあ、私のことを好きじゃない・・・?」
胸ぐらから手が離れたと思いきや、次は可愛らしい表情で愛情を確かめてくる彼女。
胸ぐらを掴まれたとは言え、俺の答えは当然一つだ。
「好きじゃないわけないじゃないか!」
「ほんと!」
「ああ、ほんとだよ」
「よかった~、私恋愛初心者だからイタイ子だと思われたらどうしようかと思ったよ~」
「イタイ子だなんてこれっぽっちも思ってないよ」
「ほんと!? それじゃあこっち来て!」
そう言って彼女に手を引かれるがまま、俺は『魔人王の玉座』の隣に隣接する一室へと案内された。
そこは亡き魔人王の一室なのだが、果たして勝手に入っても良いのだろうか。
亡くなっていたとしても、勝手に入るのはまずいのでは?
入室することに戸惑っている俺を無視して彼女は勢いよく扉を開いた。
そして、目に移り込んできたその部屋の異常さには驚きを隠せない。
「こ、これは・・・・・・」
「あー、これ? 私がルシフェオスのお母様に頼んで一緒に飾り付け貰ったの! どう? ビックリした?」
「あぁ・・・、とてもビックリしているよ・・・」
「ほんと!? それじゃあ頑張った甲斐があるね!」
撫でて欲しいと言うように頭を差し出してくる。
こうもキラキラとした目をされては、全て剥がせとは言い出しづらい。
俺は自分の写真が壁一面に飾られた部屋の中で彼女の頭を黙って撫で続けるしかなかった。




