29 魔人族最強の男
まあ、彼が勝利を確信してしまうのも無理はない。
肩を並べるように魔力値が同等の現状、単純な力では到底敵わないからだ。
他の兄姉の時は何とか魔力で力の不足分を補えていたものの、今は訳が違う。
魔力数値は同じで、純粋な力は向こうが優勢。
誰がどう見たってガイオスの勝利は約束されたようにしか見えなかった。
だが、それは俺がここで終わればの話。
彼のおかげでようやく魔力増幅の謎を解く一筋の光明が見えた気がした。
もしこの力が備わっているとしたら、天地がひっくり返っても彼に勝機はあり得ない。
仮にそのようなことを可能とするやつが現れたとするなら、そいつの正体は間違いなく大天使か神の存在だと断言できよう。
そうーーもしかしたら俺には『聖霊』が宿っているのかもしれない。
『聖霊』とは、魔族の封印で力を使い果たしてしまった神からの賜り物。
つまり、『聖霊』とは神の力の一部なのだ。
魔族を一切合切封印するには魔族が秘める魔の力を無効化する必要がある。
でなければ、魔族自らの手で封印を解かれることになってしまうから。
要するに俺が言いたいのは、『聖霊』には魔の力を無効化する力が備わっているということだ。
そうなれば、俺が魔力を無効化していたことも簡単に頷けるだろう。
但し、『聖霊』が宿っているかもしれないという仮説が正しいとするなら二つの問題が必然的に生じる。
一つは、魔人族となった俺がなぜ『聖霊』をこの身に宿せるかだ。
本来、魔族が『聖霊』を宿そうものならその身を塵一つ残ることなく綺麗に焼き焦がされてしまうはずなのだが、俺の身には当然であるかのように何も起こっていない。
それどころか、今までにないほどの魔力が俺の中で渦を巻くように全身を循環している。
この状況から導き出せる答えは一つと言ってもいいだろう。
ーー『聖霊』が突然変異を起こしたのか?
思い返してみれば、俺が魔人王直系の第十王子に転生する前に『聖霊』が闇色に腐食していた気がする。
もしかしたら、魔族の体に適合できるように『聖霊』が進化したのかもしれない。
いや、もしそうだとしたらかなり都合がいい。
何だって、魔界に住み着く魔族の数多の攻撃が一切俺には通用しないのだから。
そして何より『聖霊』を宿していたら、魔界を脱出するカギを手に入れたも同然になる。
なぜなら、魔族封印の主である神の力『聖霊』で魔界と天界の隔たりを無くすことができるようになるからだ。
まあそんなことは二の次で、今問題なのは二つ目の方だ。
もし、敵の魔力を無効化できたのは『聖霊』のおかげだとしたらーーーー
俺の魔源力は一体何なんだ・・・?
魔人族である以上、魔源力は必ず備わっているはずだ。
魔力無効化の力が魔源力ではないのなら、俺は今の今まで魔源力の力を行使していなかったことになる。
つまり、魔力の発生源である魔源力は『聖霊』とは別にあるということだ。
だとすれば、その魔源力はどうしたら使えるようになるのだろう?
意識の中に勝手に流れ込んできたらどれほど楽か。
そんな戯言を口にしたところで魔源力からの返答はもちろんないわけで。
「よそ見とは良い度胸だな〜? お望み通り地獄へ連れてってやるよ!」
考え事をしている俺の頬に、彼の強烈な拳の一撃が突き刺さった。
頬に殴られた衝撃で俺たちは再び砂埃の中へ。
視界が遮られてガイオスの姿は確認できないが、頬に拳が触れていることから恐らくすぐそこにいるのだろう。
「ハハハ! どうだ見たか、これが俺の魔源力「魔壊の新星」! 魔の攻撃を全て自分の魔力へと変換できる、まさに魔人王の名にふさわしい魔源力だろう? とはいっても、もうお前に声は届かないだろうけどよ!」
勝ち誇ったように高笑いするガイオス。
なんでこいつは勝った気でいるんだ?
拳が頬に密着しているだけでは情報が足りないのか?
やがて砂埃は晴れていき、その時に見せたガイオスの驚いた顔を俺は一生忘れないだろう。
無様さが感極まって、つい笑ってしまった。
「この程度の攻撃で倒せたとでも思ったか? それに貴様のその顔、堪えきれなくてつい吹き出してしまったぞ」
「お前、なんで生きてるんだ? いや、なんで平然と立っているんだ?」
どうやらガイオスは、殴られても平然と立っている俺に驚いているらしい。
もっと気づくべきことがあるだろうが。
「簡単な話、ちっとも痛くねぇんだよ。まるで羽虫に肌を擽られた気分だ」
「そんな馬鹿な話があるか、俺の力の前ではいつも灰すら残らねぇんだぞ?」
「灰すら残らない・・・ね」
そういえば、ディアルナのお父さんもそんな噂を耳にしたことがあるとか言っていた。
噂の始まりは彼の魔源力「魔壊の新星」による圧倒的な殺戮なのだろう。
確かに、あの一撃を他の奴が食らったら頬骨はおろか、頭蓋骨までもが粉々に砕け散ってしまう未来が容易に予想がつく。
灰すら残らないというのは、彼から湧き出る悍しい魔力を乗せた拳で細かい骨の残骸すら残らなくなるまで殴られ続ける、ということなのだろう。
俺がそう思い至った理由としては、今まさに彼に幾度となく殴られているからである。
飽きることなく、何回も・・・何回も・・・。
だが、やはり痛みを感じることはなかった。
「クソ! 一体どうなってやがる!?」
「これが最強と呼ばれる魔人の力? ただ周りの連中が弱かっただけじゃないのか?」
最強の魔人がこの程度の実力だったとは正直驚きだ。
まあ、俺が強すぎるのも原因の一つだと思うけども。
「お前と俺じゃあ格が違うんだよ。諦めて降参するか、それともーーーー死ぬか。さあ、貴様はどちらを選ぶ?」
「俺が降参だ? 馬鹿なことを抜かしてんじゃねぇよ!」
「そうか、なら丁度いい」
そう言って、俺はガイオスの顎に目掛けて拳を天に向けて突き上げた。
「死ぬことが本望なら、望み通り殺してやるよ。今までの恨みを晴らしてやる」
「俺を殺す算段でもあるってか? 上等だ、返り討ちに・・・」
顎を抑えながら後ろへよろめく彼に俺はすぐさま腹に拳をねじ込む。
「返り討ち? この程度の攻撃を躱せない奴がどうやって返り討ちにするんだ?」
「この野郎・・・!」
彼は俺の頭を鷲掴みにして握り潰そうとする。
本当に潰せると思っているのだろうか?
俺は体内に温存される魔力を高速で引き出し、彼の手を粉々に切り刻んだ。
傷口は回復できるとは言えども、痛覚が無効化されるわけではない。
手を切り刻まれたことによる激痛に声を殺しながら耐えている彼はニッコリと笑っていた。
所詮、馬鹿の考えることはいつもシンプルだ。
「ハ! 馬鹿め! 魔力攻撃で俺を傷つければ魔力を増すことを忘れちまったのか?」
確かに、魔力量が先ほどにも増してぐんぐん伸びている。
だが、彼は俺のことをまるで見てない。
そう、彼の魔力量が増えた途端、俺の魔力量も同時に増加したのだ。
やはり『聖霊』<<統率者>>の力が宿っているのではないだろうか?
『聖霊』<<統率者>>の力は、光明の一筋となる人物に力を与えるというもの。
ここでの言う力は、「全てを率いるだけの圧倒的な力」ということ。
つまり、周囲の力量に変化が生じた場合、『聖霊』<<統率者>>を持つ対象にも同時に変化を与えるということなのだ。
だから、彼の力が倍増すれば俺の力も比例するように倍増する。
宿っているかどうかの確信を持つのにはまだ早いが、期待してみる価値は十分にあると言えるだろう。
それにしたって、ガイオスは筋金入りの脳筋馬鹿野郎だ。
言わずとも体現されている魔力量ですぐ分かるはずなのに、目の前の俺に夢中で大きな魔力の変化にまるで気づいちゃいない。
しょうがない、「知らぬが仏」と言う言葉もあるぐらいだから知らないままあの世に連れて行ってあげるとしよう。
「忘れてなんかいないさ、攻撃されそうになってその危機を回避する。単純な心理だろ?」
「ハハ! 確かにそうだな!」
「だから・・・しっかり回避しろよ?」
しっかり攻撃の前触れを残した俺は両手に作り出した魔力剣で彼の体を何度も素早く切り裂き続けた。
もしかしたら、前触れの必要はなかったかもしれない。
単純な話、彼は俺の動きを捉え切れていなかった。
俺の魔力剣を跳ね返そうと拳を差し出してくるが、その瞬間には剣先は別の箇所を捉えている。
俺と彼のスピードは紙一重のところで食い違っているのだ。
「どうした? 危機回避がまるでなってないな。このままじゃお前・・・死ぬぞ?」
「そう簡単に死ぬわけないだろうが!」
「俺からも切に願うよ。簡単に死んでもらっては今まで溜め込んできた怒りを全てぶつけられなくなるからなぁ!」
闇の炎剣を連続して背後に作り出し、それら全てをガイオスに向けて放つ。
魔力剣ですら手に負えていない状況で、そんなことをすればどうなるか。
答えは明白、俺のスピードについて来れなくなった彼は攻撃を一方的に受ける状態になる。
防御する暇すら与えられない彼はただ俺の攻撃を受けるしかない。
唯一の救いといえば、彼が「魔壊の新星」を宿していることだろう。
「魔壊の新星」があれば魔力を吸収した分、自己回復が可能になるからだ。
だからこそいい、これで奴に苦痛の地獄を永遠と味わうことができるのだから。
それから間も無くして、彼の魔力の増加はピタリと止んだ。
どうやら、ここが限界値のようだ。
あとは魔力が尽きれば、彼はーーーー絶命する。
そして俺が奴の息の根を止めようと、最後の一撃を振るったその直前に強制終了のジャッジが入った。
「そこまで! それ以上戦えば規則違反となります!」
規則の存在など初めて聞いたが、違反で失格になるのは都合上あまりよろしくない。
なら、進行者の指示に素直に従った方が得策だろう。
「命拾いしたな、だが次はないと思え」
そうガイオスに告げるが、彼からの反応は一切ない。
死の恐怖を目の当たりにして気絶してしまったのだろうか?
そんな彼が救急搬送されていく姿を一瞥することなく、中断されていた戦いに蹴りをつけるために彼女の名前を呼ぶ。
そこで俺の意識はプツンと途絶えた。
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