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魔族を統べる聖魔の王  作者: うちよう
01 魔人王即位編
19/52

19 二回戦目

 三姉妹との戦いは、べレフォールのように一瞬で片付けられてるほど楽なものではなかった。

 というのも、それぞれが為すすべき役割をきちんとこなしているからだ。

 長女であるシヴィリアーナは魔法で二人のサポートに徹しており、次女であるカレアマキナは槍を用いた攻撃専門、三女であるサイスノールカは二人を攻撃の手から守る盾の役割を果たしている。


 一人一つの役割を徹底しているからこそ、面倒くささが普段の戦いよりも何倍にも増しているわけだが、それに付け加えるように厄介な事も同時に起こっていた。

 それは、彼女たちが冷静さを保っているということだ。

 魔人王の座に就けるという油断が命取りになることを先の一回戦目で目にしていたからこそ、彼女たちは学習したのだろう。

 まあ俺の立場からしたら、油断してくれていた方が戦いやすかったのだが。

 

 「くらえぇぇぇ!」


 攻撃専門であるカレアマキナの怒涛の一突きが俺に襲い掛かってくる。

 俺は紙一重のところで見事に躱し、攻撃に転じている彼女の隙を見逃すことなく闇の炎で反撃に出た。

 だが、やはり三女が次女に向けられた俺の攻撃を見事に防ぎ切るのだ。

 かれこれ三十分以上戦っているのだが、毎回このパターンで攻撃の手が阻まれている。

 どうにかしないと、このままではジリ貧になってしまう。


 「ありがとう! サイスノールカ!」

 「うちは守ることしかできないから! 攻撃は頼んだよ!」

 「分かった!あたしに任せて!」

 「二人とも今魔力を回復させるから!」

 「シヴィリアーナ、ありがとう!」

 「ありがとう!」


 カレアマキナに続きサイスノールカが礼を言うと、シヴィリアーナはすかさず魔力回復魔法「魔力回復(マジック・ヒール)」を使用した。

 そう、これがジリ貧になってしまうと考える諸悪の根源だ。

 俺は魔力を消費する一方、彼女たちはシヴィリアーナの魔法で魔力を回復することができてしまう。

 つまり、魔力切れをしてしまったその瞬間に俺の敗北は確定されてしまうのだ。

 最強の矛を持つ次女に最強の盾を誇る三女、そして最強のサポートを得意とする長女。

 三人が揃えば魔人の国最強と謳われるガイオスといえど勝ち目はないだろう。

 

 ーーもう、甘っちょろいことを言ってられないか・・・。


 ディアルナに、女に平気で手を上げる男だと思われたくないがために抑えて戦ってきたが、負けてしまえば元も子もない。

 出来れば目を瞑っててくれ、ディアルナ。


 「なかなかやりますね、このままでは負けてしまいそうですよ」

 「そうなんだ! それじゃあ、あたしたちが魔人王になるのも近いってことかな!?」

 「ちょっと、カレアマキナ。気が早いって」

 「でも、うちらにも勝機があるってことだよね!」


 やる気が漲っているかのように冷静さを失いつつある彼女たちに向けて、俺は言葉を重ねる。

 俺から言えることといえば、この一言に限るだろう。


 「残念ながら、勝機はありません。だって、ここから本気で行きますから」

 「ほ、本気!? 今までのは本気じゃなかったって言うの!?」


 明らかに動揺を見せるカレアマキナに、残りの姉妹たちが順に口を開く。


 「落ち着きなさい、冷静さを失えばべレフォール兄さんの二の舞になるだけだよ」

 「シヴィリアーナの言う通りだよ。それに、うちらは三人で最強なんだからどんな相手だろうと大丈夫だよ!」

 「シヴィリアーナ・・・、サイスノールカ・・・。そ、そうだよね! 大丈夫だよね!」


 二人の言葉に動揺を打ち消すことができたカレアマキナは、再び俺に槍先を向けてくる。

 カレアマキナの槍は、『魔吸剣』と同様の造りになっているようだ。

 それだけじゃない、シヴィリアーナの杖もサイスノールカの盾も、全て魔力を宿せるように設計されていた。

 近代の特質を備えた『魔吸武器』に、姉妹それぞれが今まで以上の魔力を流し込む。

 いつ破壊してもおかしくないほどの魔力量に、俺は驚きを隠せないでいた。


 「まさか、姉上たちも本気じゃなかったとは・・・」

 「武器の魔力耐久値ギリギリまで引き出すことは普通しないからね」

 「というと・・・?」


 聞くまでもなく、武器の破壊を覚悟する彼女たちの考えていることは一つだろう。

 案の定、彼女たちの考えていることと俺の考えていたことは見事に一致した。

 

 「「「油断しないで全力であなたを倒す!」」」

 

 三人の意思を俺に示すと共に、攻撃担当のカレアマキナが槍を幾度となく突き出してくる。

 先ほどの槍裁きとは比べ物にならないほどだ。

 言うなれば、至高の領域に近いと言えるだろう。

 神の領域とまではいかないが、魔界一の神速と言っても過言ではない。


 だが、忘れてもらっては困る。

 俺は元々、神の領域にいた大天使だ。

 いくら人間離れした神速の持ち主とは言え、神の領域の神速を回避することができる俺からすれば、槍先がどこを向いているかすらスローモーションで見えてしまう。

 だからこそ、俺の身体に彼女の槍が貫通することはなかった。


 「バ、馬鹿な! 本気の攻撃だぞ!?」

 「ハ、いけませんよ。隙なんてつくったら!」

 「し、しまった!?」

 「大丈夫! 私がいる!」


 最強の盾を持つサイスノールカが彼女の隙を庇うように、俺とカレアマキナの間を強引に割り込んでくる。

 魔力を最大限まで吸収させた彼女の盾は、中途半端な魔力では貫くことはできないだろう。


 だからこそーーーー本気の魔力で破壊する。

 

 俺は右手に魔力を凝縮させて剣を作り出すと共に、彼女の盾に目掛けて勢いよく切り裂いた。


 「「魔盾(マジック・シールド)」!」


 彼女は、敵の魔力を消化させて魔力攻撃を無効化する盾魔法「魔盾(マジック・シールド)」を使った。

 しかも、盾に魔力を宿しているおかげで魔力の消化性能も桁違いに上がっており、魔人王候補レベルの攻撃なら難なく無効化されてしまうだろう。

 そう、魔人王候補レベルの攻撃ならの話だ。

 あの兄姉以上の力を有している俺の本気にかかれば「魔盾(マジック・シールド)」など造作もない。


 魔力を凝縮して作られた剣の耐久値などわかるはずもないのだが、盾に向かって切り裂いた魔力剣は「魔盾(マジック・シールド)」に消化され無効化されるどころか盾本体を真っ二つに切り裂いた。


 「嘘!? 耐久値は魔界屈指の代物のはずなのに!」


 盾を破壊され、衝撃に耐え切ることができずに後ろから倒れようとするサイスノールカにとどめを刺そうと剣を振りかざしたところで再び邪魔が入る。


 「サイスノールカ!」


 そう言って俺と彼女の間に割り込んできたのは、槍を持った美王女のカレアマキナだった。

 リーチが長い槍を上手く利用して、俺に乱れ突きを神速の速さで繰り出す。


 『魔力武器』をこうも長く使うとなれば、多大な魔力量が必要になる。

 「魔人王の玉座」で魔力量を確認した通り、彼女たちはそこまで大した魔力量を保有していない。

 となれば、ここまで連続して使えるのは長女である彼女がいるおかげなのだ。

 

 彼女たちの後ろでサポートに徹しているシヴァリアーナは魔法を唱え続けている。


 そう、魔力消費量の少ないただの「回復(ヒール)」だ。


 魔力の消費量は必ずと言っていいほど、体の疲労に比例する。

 つまり、魔力を無制限に使用したいのならその疲労状態を取り除いてしまえばいい。

 だから、シヴィリアーナは「回復(ヒール)」を連続して使っているのだろう。

 しかも、三人に同時使用しているわけだから無限に戦えるということになる。

 まあ、彼女たちの作戦には魔法では補えない程の大きな弱点があるわけだが。


 それはーーーー「魔力量」だ。


 いくら無制限に使えたところで、魔力量が増えたりすることももちろんない。

 ということは、答えは至ってシンプル。

 魔力量が上回っているうちに決着を付けてしまえばいいと。


 俺は回避し続けている態勢を覆すように攻めの手に出た。

 槍の弱点と呼ぶべきポイント、それは長いリーチ部分にある。

 俺は神速の合間にも発生している隙を狙うように魔力の剣を振り抜いた。


 「んな! 馬鹿な!?」


 槍の長いリーチ部分は、気持ちがいいほど見事に折れた。


 盾を壊され、槍も壊された。


 この時点で勝ちを確信していたのだが、なぜか後ろで控えるシヴァリアーナの行動を見逃すことができなかった。

 どんな魔法を繰り出そうとしているのか全く見当もついていないにも関わらず、本能が彼女に行動させてはいけないとそう言っているのだ。


 俺は本能に従い、戦闘手段を失った彼女たちを闇の炎で拘束した後、すかさずシヴィリアーナの元へと飛んでいった。

 それら全てを為したのは、時間にしてわずか十秒。

 俺は彼女が魔法を発動させる前に、何とかその喉元に魔力剣の剣先を突きつけることに成功した。

 こんな状況で彼女に迫られる選択は当然一つしかない。

 

 「こ、降参・・・」


 両手を挙げながら、シヴィリアーナは敗北を口にする。

 こうして、俺は三姉妹に勝利を収めたのだった。




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