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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

10階の客  

作者: しえすた



高校生最後の冬休みを使い、アプリでバイトを探していたら好条件の場所が見つかった。

電車通学の俺は、駅近で学校終わりにそのまま通える居酒屋にした。


電話して担当者に繋いでもらう。


「ちょうど人がいなくて困っててさ。すぐ来てくれる?」


笑いながら気さくな声。

日時と時間を決め、後日面接が決まった。








「今日俺、バイトの面接」


友達のYに映画に誘われたが、鞄を抱えて教室を出た。


「まじか、何処?」


「居酒屋だよ、◯◯駅の側ん所」


それを聞いてYは怪訝な顔をする。

俺は普段と違う様子に疑問を感じた。


「何かあったら連絡しろよ、遊びにいくし」


またいつものYに戻ったので、気にせず俺は面接を約束した居酒屋に向かった。


◯◯駅の西改札を抜けて、左に行くとファーストフード店が見える。

その手前に聳える10建てのビルの中にその居酒屋はあった。

1階はコンビニ、2階から4階までカラオケ、5階から7階が居酒屋、8階から9階まではフィットネスクラブだった。


エレベーターを使い4階まで上がる。

その時、やけに煙の匂いがした。

タバコを吸った人が俺より先に乗ったからかもしれない。


まだ開店前の店に入り、店長と面接した。

明るい人で話しやすかった。


「週4なら助かるよ、じゃあ、明日から21時まで頼むね」


「はい」


「あと、就業規則がまだあって守ってほしいんだ」



10階の店舗には行かない事。

非常階段は1人で使用しない事。

テナントの窓は勝手に開けない事。

バックヤードにある第2倉庫は使わない事。

具合が悪くなったらすぐトイレに行かずに誰かに声を掛ける事。


記載された内容に少し気味の悪さを感じつつ、理由も聞かないまま条件を承諾した。





バイト当日。

昨日貰った制服を着てカウンターで指導を受けた。

今年の夏に友達のTと別の居酒屋でバイト経験があったので飲み込みは早やかった。


「就業規則は読んでくれた?」


20代後半の女性店員のFは、大量にあるおしぼりを店内に運びながら聞いてきた。


「そう、もし困った事があったらなんでも言ってね」


笑うと目尻が下がってなんだか、可愛らしい人だと思った。


初日は何事もなく終わった。

気になる人も出来て俺は次の日が待ち遠しくなった。




バイトも慣れて、1週間が経った。

今日もバイト先に向かう。

気になっていたFが真っ先に俺へ声を掛けた。


「昨日大変だったんじゃない?クリスマスで男性客が多かったって店長から聞いたよ」


確かに多かった。

ラストオーダーでもまだ、人気は引かなかった。

あと、閉店間際に困った客がいた事を話した。


「そう言えば、変な客が居たんです」


俺はFに話した。

昨日Fが休みだったので、ホールでオーダーをとっていた。

俺も含めて店員は5人いるが、21時から抜けるのは大学生のRと俺と2人。

後は社員の人が2人で、合計5人が閉店作業をする。


俺はバイトが終わる30分前に、頼まれていたゴミをRと一緒に捨てに行った。

ビルの後ろにあるゴミ置き場まで非常階段を使う。


「彼女いるの?」


ゴミ箱の蓋を開け、袋を投げ入れながらRが聞いてきた。


「いないです」


今度合コンに誘うよ、とRがスマートフォンを取り出して連絡先を交換しようとした時だ。



カン!カン!カン!カン!カン!



2人以外で非常階段を上る音がした。

鉄筋に近い作りのせいか鼓膜へ直接響く。


「ん?別のバイトの子か?」


Rと俺は上を見上げた。


ちらっとだけスーツの様な服が見えた。

お客さんかもしれない。


「よっぱらいかよ、面倒臭いなぁ」


Rは溜息をついて1階から上へ駆け上がる。

非常階段が使用出来るのは従業員専用だと伝えなきゃいけない。

2人は居酒屋のある4階に着き、スーツの男性が更に上へあがるので、Rは後を追いかけた。



「店に行って店長連れてきて、揉めるの厄介だから」


俺にそう言って姿が消えていく。


=非常階段は1人で使用しない事=


このままだとRは就業規則を破ってしまう。

慌てて俺は店長を呼んだ。

店長はすぐスマートフォンを片手に店を出る。


「君は店に入ってて」


悪い気がしながらも俺は2人が帰って来るのを待ったが、店長に電話で先に帰っててほしいと言われてそのまま家に向かった。







「その後の事は分からないんです。Rは今日バイト来てます?」


俺はタイムカードを見ようとしたがそれより先にFの声が前に出た。


「あぁ、今日は休みよ。店長もね」


背を向けてホワイトボードを見ながら、手洗いを始めた。

Fの表情は固い。



俺は何も言えなかった。

そのFの空気があまりに重いのだ。

次の日、店長は来たがRは二度とバイト先に来なかった。

店長もFの様に固い表情のままだった。




バイトが終わって、コンビニでゆっくりした後通学定期を忘れた事に気づいた。

簡単に用意された従業員用のロッカーの中だ。


時刻は22時半。


エレベーターを使い4階へ上がった。

押したボタンが4階の筈なのに、何故か【10】階が点滅している。


(え…)

 

すぅーー、とエレベーターは加速する。


[お待たせしました、10階です]


アナウンスと同時に自動扉が開いた。


息を飲んだ。

吹いてくる風が異様に冷たい。


目の前は空になった店舗があった。

ガラスが壊れた部分や扉をガムテープで補強され、辺りは鎮まりかえっている。


−10階の店舗には行かない事−


頭をよぎった。

横を見ると、右側は細い通路になっていた。


「あれって…」


金属製の観音扉の上辺りに白いプレートで、第2倉庫と表記されている。



−第2倉庫は使用しない事−


更に頭をよぎった。

意味は分からないけど、そのフロアはじっとり仄暗い。

不気味とゆうか、不可解とゆうか。

店舗付近の窓もガムテープで開けられないようベタベタに貼っていた。

けれど奥側の窓だけ、ガムテープが剥がされて1㎝程隙間が空いていた。


−テナントの窓は勝手に開けない事−


心臓が大きく跳ねた。

ドクドクと脈が動いているのが分かる。


奥から黒い人影がすぅぅと現れ、通路から靴音がこちらまで響いてきた。


カツカツカツカツカツカツカツ…



早く下がらないと!


エレベーターのボタンを4階を押す。

慌てているせいか、指先が震えてしまう。


目の前の扉が閉まりかけた隙間から誰かが覗いている。

顔が潰れて左半身が黒焦げの人がじっと睨んでいた。



「うっ、わっっ!」


恐怖で声が上擦る。


エレベーターは4階までゆっくり下がっていく。

その間寒気が止まらず、店に帰った後も震えはおさまらなかった。


店長とFにその事を話すと黙ったきり何も話さない。

俺はその後体調不良に遭い、バイトを休み続けた。



学校でずっと俯いた俺にYが口を開いた。


あの居酒屋は5年前ファミレスが開店していた。

けれど、経営が不振になりオーナーは10階の店舗に火をつけ従業員や客数名を巻き込んで自ら飛び降りたのだ。


それ以来不気味な事が立て続けに起こり、不可解な就業規則が生まれた。

それを守らない者は不自然な死亡が起きるからだった。


RはYの先輩だったらしく、居酒屋の就業規則を守っていなかった。

その証拠に亡くなったRのスマートフォンに、立ち入り禁止されていた場所の画像が残っていた。

無断で入り撮影したのだろう。


その画像全てに頭が潰れて左半身焼け焦げたスーツの男性が写っていたという。






俺はYの話を聞いた後、そのバイト先に辞めると電話した。




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