第九話
「よくやった!飯にするか。奢ってやるよ。一応上司だしな」
「はい!ありがとうございます!」
7時からパトロールを始めて今は14時。遭遇した化物は10体を超えた。そんな中で先程、ようやくジャックが単独で化物を倒したので区切りもいいことだし昼食を取ることにした。
といっても、朝食を食えずにひたすら戦わされていたジャックには同情する人もいるだろう。昨日まで普通の高校生だった人間が突如、戦いに明け暮れることになったのだ。だが、ジャックは化物を倒した達成感によってそんな生活も悪くはないと思い始めていた。
2人はアメリカ発祥の某大手ファストフード店に来てハンバーガーのセットを注文した。狩人には休憩時間は与えられていないのでお持ち帰りで頼むことになった。パトロールをしながら食べることになるのだが、何度落としたことかと阿修羅は愚痴っていた。
「そう言えば、どうして僕達は化物を狩っているんですか?」
「放っておくと無垢が死ぬからだな。年に化物の被害は1万件を超えているからなぁ。そもそも被害を出さないようにパトロールをして狩っているんだよ」
「へぇ〜もう一つ聞いてもいいですか?」
「いいぞ」
「狩人連っていつに組織が出来たんですか?」
「426年前だな。僕は初期メンバーだから426年間分連続勤務しているってことになるな。うっわ!そう考えるとブラック過ぎない?」
「えぇ、そりゃあもちろん」
「ま、僕達がいないと無垢は死んじゃうからやり甲斐はあるから出来ているんだけども。でもなぁ、無垢は僕達の働きを知らないから感謝されることもないんだよなぁ〜何でやってるんだろ?」
「この仕事って本当に辛そうですね」
「まぁ肉体が強いし、僕負けたことほとんどないからそういう意味では辛くはないな。精神面は知らん。覚えてない」
「へぇ〜」
「おっし、食い終わったな。じゃあこれからは別行動だ。本部で集合だぞ?生きて戻ってこいよ」
走って行こうとした阿修羅をジャックは困惑しながらも声で静止させた。
「ちょっと待ってください!え?急にどういうことですか!?」
「そもそも僕達仕事多いからさぁ、いつも別行動取ってるわけ。だけど、ジャックまだ仕事のやり方分かんなそうだったから半日は教えてたわけ。だから、今から別行動な」
「いや、あの!もし、僕よりも強い敵と遭遇したらどうすればいいんですか!?」
「スマホで位置情報送って。そうしたら行くから(お土産買いながら)」
「ええぇ……」
「19時までちゃんと仕事して20時までには戻るんだぞ?それじゃまたな!」
そう言うと全力ダッシュで阿修羅はその場を去っていった。ジャックはその場で呆然と立ち尽くすも、すぐに仕事をするべくパトロールに戻った。
◇◇◇
「ふぅ。これで5体目か。あと2時間。頑張ろう!」
ジャックは順調に化物を狩っていた。確かに非効率的ではあるが新米にしては十分すぎるほどの活躍をしているだろう。だが、初日なのも相まって疲労が蓄積されていた。そんな自分を叱咤激励して体を動かしていた。
「さてと……次は」
「ねぇ、貴方」
「何ですか?」
「やっぱりそこにいたのね」
「……どうやって?見たところ無垢だと思うんですが」
「無垢?それについては分からないけど空間が揺らいでいたもの。それくらいならわかるわ」
ジャックと変わらない背丈で大人の雰囲気を持ちながらもどこか幼さが残る顔立ちをした赤髪のl少女はそう言った。
だが、只者ではないことはジャックにも分かった。空間の揺らぎというとても曖昧な物で仲間の狩人製の外套を見破り自分の場所を当てたのだ。それに少女の話が本当なのであれば怪物ではなく無垢だ。だが、阿修羅に「獣の言うことは信じるな」と言う言葉を思い出し、少女が怪物である可能性を考え、警戒心を一段引き上げた。
「そう。戦う気なのね。まぁいいわ。それより貴方に聞きたいことがあるの」
「……」
「貴方、神木ユイって知っている?」
「……知らないよ」
「ふーん。何?今の間。それと視線が一瞬斜め左を見たわね。貴方、怪しいわね」
「貴方、私の顔に見覚えある?」
「ない」
「まぁ警戒しているんだからそれくらいの虚偽は容易ね。じゃあ尋問をして吐かせるしかないわね」
「……クッ!」
ジャックが少女の言葉を噛み砕いていると突如、少女が飛び蹴りを放ってきた。
普通の人間の蹴り如きなら世界チャンピオンの蹴りでも余裕を持って避けられるはずだが、少女の蹴りは速すぎた。それはジャックが無防備な体を晒したまま食らってしまうほどには。
「ハァァァァ!……グハッ!」
怪物因子の力を使い周りに霧を発生させて移動速度を上げて対応しようとしたが少女の攻撃速度はそれを上回り次々と攻撃を当ててくる。さらに1発1発が重いためジャックの霧も徐々に晴れてきた。
「クソッ……強い……」
「私が納得できる回答をしてくれたら見逃してあげてもいいけど、出来ないでしょうね。出来たとしても貴方を殺さなきゃならないかもだし」
「でも何で反撃をしようとしないのかしら。避けることしか考えてないわね」
「だって……女の子だから……」
「女だからと手加減するのはどうかと思いますよ。それより、もう終わらせますか。後で聞かせてもらいますからね」
ジャックは顎を蹴り抜かれ意識を手放した。