第八話
激動の日が終わり、翌日。ジャックの部屋に訪れる狩人が一人。
「さて起きているな。出勤だ」
「出勤って言いますけど、この施設が職場なんじゃないですか?」
「僕達に事務仕事は存在しない。街のパトロールがほとんどだな」
「そうなんですか」
「おう。じゃ行くぞ」
◇◇◇
阿修羅達は小走りでパトロールを行っていた。小走りと言ってもそれは狩人基準だ。ビルを飛び越えたり、猛スピードで走っていたりするが、無垢とは違い隔絶した身体能力を持つ狩人ならば軽い運動程度でしかない。
しかし、そんなことをしていれば無垢に見られてしまうため、無垢の視覚では捉えることが困難な、狩人の能力で作られた装備で全身を覆っている。
「そう言えば、ピエロ君は来ないんですか?」
「アイツは出張だな。急遽、深夜に北海道の狩人連から増援が要請が来てな。どうも現地の狩人が一人死んだらしいんだ。だから当面の間は向こうだな。でも、半月くらいしたら戻ると思うぞ」
「そうですか」
「まぁ狩人は人数が少ないからな。どこも人手不足さ」
「だから休みの日が年に数回しかないのよ。狩人連は国直属の機関だって言うのに、労働基準法を守らないのは笑えるわね」
「だが狩人連本部である我等の管轄では狩人が7人所属している!だから、他の支部よりは労働環境はマシだ!」
「それは良かったです。他よりも休暇が多かったりするんですか?」
「あぁ、と言っても月一くらいしかないけどな。まぁ怪物専門になれば良いんだけどな。運が良ければ専門の一月の間、全部休暇ってこともある」
「しかし!我は怪物専門にはなれん!」
「なんでですか?」
「強すぎるからよ。私は最強だから、狩人の被害を少しでも減らすために前線に強制的に立たされているのよ。昨日の貴方のケースみたいにパトロール中に怪物と出くわすこともあるからね。嫌になるわホント」
「それは大変ですね」
「まぁ、化物は怪物と違って全然強くないから楽なんだけれどもね。さっき運がよかったら休めるって言ったけど逆も然りで三日に一回は戦っていたって人もいたからね」
「本当に地獄だったそうだ。そんな風に仕事をしてたらそりゃ死ぬわな」
そう言った阿修羅の表情は無機質で悲痛な思いなどこれっぽっちも含まれてはいなかった。
「……」
ジャックはそんな阿修羅の表情を見ると、どことなく違和感を覚えたが言葉にできず、そのまま黙り込んだ。
「ん?化物発見!」
「ジャック、戦闘態勢を取れ。今後のためにもあれはお前に倒してもらう」
だが、そんな沈黙を突き破るように、阿修羅の人格の1人が化物の存在を察知し伝えた。
「分かりました。でも、どうやれば良いんですか?」
「とりあえず怪物因子の力を使え」
「えっと……どうやってですか?」
「?普通にだが」
「普通にってどうやるんですか?普通ってなんですか?」
「いや、こんな感じ」
「それ意味が分かんないです」
「じゃあ素手で殴ってみれば?たぶんそれでも倒せるよ」
「そんな雑で良いんですか?」
「まぁ慣れれば使えるようになるでしょ」
「えー……」
ジャックは不満アリアリな顔をしていたが真面目なのでそのまま壁伝いでビルからアスファルト完備の整地された地面へと降り立った。
「それじゃあ行きます!」
そう言うと突如、周りに霧が発生した。そ
「な、なんだ?」
「急に、霧が」
黒い霧は無垢でも知覚出来たため周りが混乱に陥った。
「なるほど、戦う意思があれば使えるんだ。怪物因子」
「そうなのね〜知らなかったわ〜」
「え?さっきまでのってわざとじゃないんですか?僕に自分で考えさせようと気遣った結果あんなことを言ったんじゃないですか?」
「いや、違うよ」
「じゃあ怪物因子に何年前になったんですか?」
「今年でちょうど1000年前だね」
「そんなに前から力を使っているのに今まで分からなかったんですか?」
「うん。そうだよ」
「……」
ジャックは思わず天を仰ぎ見た。仕方のないことだ。自分の上司が強さ以外は当てにならないと自分で言ったようなものだから。なら当然、現実から目を逸らしたくなることもあるだろう。
「よし!怪物因子の力を使い化物を殺せ!」
「は、はい!」
威勢の良い返事をすると化物に突進をし体当たりを決めようとした。しかし、生物と定義しても良いか微妙な形状をした化物はジャックの突進を難なく交わし、横っ腹に攻撃を命中させジャックを吹き飛ばした。
「ウップ……」
「吐いちゃだめよ。それより、なぜ霧を使わなかったの?」
「ウッ……これって使えるんですか?」
「えぇ、リッパー君がそれで武器を作ったりして攻撃を当てていたわ」
「なるほど……操作が出来ないんですけど」
「まぁそこは慣れが必要ね。じゃあ生身でもあれに勝てるようにしようね?」
「え?化物って生身でも殺せるんですか?」
「怪物因子を持っていたらな。だから無垢には殺せないが、僕達なら拳でも殺せる」
「うむ!我も拳で殺せるぞ!だったらジャック!お前にもできる!」
「ええぇ……」
阿修羅はパワハラをジャックに働き無茶なことをさせようとした。確かに、肉体で化物を倒せるようになれば良いこともある。だがそれはレアケースだ。
「……分かりました。やってみます」
ジャックは相手の出方を伺った。だが、その姿はとてもお粗末なものでどっからどう見ても攻撃に対応できるとは思えなかった。腰が浮いているのだ。あれでは、反応できたとしても有効だを与えることは難しいだろう。
“シャアァッ!”
化物はジャックに大口を開けて食らいつきにいった。だが、その動き怪物因子を持つジャックには動きを目で追えるものだった。その結果、上顎を腕で、下顎を足で押さえる形となった。
「その状態からひっくり返せるのか?」
「む、…り!」
だが、ジャックの脚力では地を蹴って離れることができず、ジャックの腕力では吹き飛ばすことができずにいた。
「仕方ない。フッ!」
「あ、ありがとう、ございます……」
阿修羅の蹴りによって化物は跡形もなく光となり霧散した。
「戦い方を学んで行こうな?」
「……は、い」
これで連続投稿終わり。明日からは毎日一話投稿にします。時間はまだ未定(PVの伸びできまる)です。
8/8