第七話
ジャックは安田の言いつけ通り自室で命令が下されるまで待っていた。彼はしっかり真面目でいられていると言える。それは、今までに自分に起きたことが日常とは程遠く、未だ手探りな状態なのも理由の一つであろう。
「ジャッくんいる?」
だが、真面目なジャックの平穏を崩さんとする者が現れた。
「えっと、その声はピエロさんですか?」
「そだよ〜とりあえずへやにいれて〜いっしょにおしゃべりしようよ〜」
「分かりました。ちょっと待っていてくださいね」
「それじゃおじゃましま〜す」
「まだ荷解きもしてなくて簡素な部屋ですがよかったら寛いでください。って……」
「うん?」
ジャックが驚いたのも無理はない。ピエロは急に何かを探し始めたのだ。それも部屋に備え付けられたベッドを重点的に。具体的に言うと毛布の下、シーツの中、ベッドの下などをだ。それはまるで、ラブコメ作品で良くありがちな薄い本を探している姿にも見える。
「はぁ〜……ジャッくん……もっとちゃんとおとこのこしよ?」
「え!?僕はまだ高校生だよ!そんな物……買えるわけないじゃん!」
「え〜ピエロはまだなにとはいってないよ〜なにかんちがいしているのぉ?ジャッくん(笑)」
「〜〜〜!」
国会の野党の答弁のように見事に揚げ足を取られたジャックは悶えに悶えた。それはもう、どこかのクリニックのcmのようにゴロゴロ転がった。足がジタバタするのを添えて。
「そうだ!ジャッくんごはんたべた?」
「……まだですが。もしかして作ってくれるんですか?」
「うん!でもジャッくんもピエロがつくっているすがたをみておぼえたまえ。またこんどジャッくんのてりょうりがたべてみたいからね〜アシュラとちがってちゃんとしたものをつくるんだよ?」
「阿修羅さんって料理出来ないんですか?」
「それはもう……あのあじはにどとわすれられないよ……シチューをつくるかていでどんなことをしたらいろがムラサキになるのかきいてみたいよ」
「うわぁ……」
「ジャッくんもいちどたべてみる?たのんだらよろこんでつくってくれるとおもうよ」
「要らないよ!」
「フフッ……じゃあキッチンかりるね。それと、けいごはいらないよ〜ピエロとジャッくんはちいがおなじだからね」
「分かったよ、ピエロ君」
ジャックが敬語を外すと満足したようにキッチンへと向かって行った。それに続いてジャックも行った。
「テレレテッテテッテ♪テレレテッテテッテ♪テレレテテテテテテッテッテ♪3分クッキングのおじかんです。きょうのりょうりにんはピエロでアシスタントはジャッくんです」
「え!?」
ピエロは急に軽快なリズムで記憶に残る料理番組のBGMをビートボックスで再現したかと思えば聞き取りづらい日本語で話したかと思った次には何故かアシスタントと名前だけは分かりやすかった、そんな言葉(?)を発した。
「ほらジャッくんもノリにのって(ボソッ)」
「え……えーっとピエロ君、今日は何を作るんですか?」
辛うじてノリに乗れたジャックに小さくサムズアップをした。
「きょうはにこみハンバーグをつくっていきたいとおもいます」
ドンドンパフパフ〜♪
「では、まずはクックパッドをひらきます」
「ん?」
「そこでにこみハンバーグとけんさくします。そしてかいてあるとおりにつくります。ポイントはかいてあるぶんりょうどおりにつくること。りょうりはかがくです。かがくはんのうとおなじですこしでもぶんりょうをまちがえるととたんにりょうりのあじがおちてしまうことがあるかもです。なのでちゃんとぶんりょうははかってつくりましょう」
「……」
ジャックは必死にツッコミたい欲を抑えた。折角作って貰えるのだから盛大にツッコミをした結果ピエロの機嫌が悪くなり、夜食がなくなる事態は避けたかったのだ。ジャックは料理が作れない上に今日は怪物化の影響で普段以上に空腹感が高まっている。
「そしてにこんでいるあいだにおみそしるをつくっていきたいとおもいますがじかんがないのでさっきアシュラのためにつくったものをつかいます。やさいとしろめしのほうもどうようのものをつかっていきます」
「あと10びょうほどでにこみおわるのでいまのうちにもりつけをしておきます。あと9びょうですね。もりつけはかんりょうしました」
「そして9びょうたったのでできたにこみハンバーグをおさらにのせてかんせいです」
3分クッキングならぬ30秒クッキングで終わってしまった。
「じゃあたべよう!」
「……うん。いただきます」
「美味しい……」
「よかったぁ。まずいっていわれたらすうじつはねこんでたからね〜しごとしたくないから」
確かに美味しいと感じたがジャックは心が晴れてはいなかった。それは、どう考えてもピエロの煮込みハンバーグの作り方にある。ジャックは一時期義母の負担を減らすため料理の練習をしたことがある。だが、どれだけやったところで上手くいかなかった。それをクックパッド一つで解決したピエロに対する嫉妬と美味しいものを作ってくれた感謝でごちゃ混ぜになっている。しかし、今の彼の心境を一般人が聞いたらほとんどがこう答えるだろう。「情弱乙」と。
「ねぇピエロ君。なんで僕はジャックって呼ばれているの?」
「それはね、カリュウドはみんなコードネームでよばれるからだよ」
「ふーんそうなんだ。じゃあピエロ君の本名って何?」
「おぼえてないなぁ。ピエロは50ねんまえにカイブツインシになったから」
「どうして怪物因子になったの?」
「……むかし、ピエロはサーカスのだんいんだったんだ。そのなかですきなおんなのもがいたんだけど、そのこはピエロとはちがう、ピエロのやくをやっていたやつとつきあっていたんだ。そのこはそいつをまわりがみえなくなるほどあいしていたんだ。ピエロもそのこがそこまでおもうんならしかたないかなっておもっていたんだ。でもそいつはそのこにぎゃくたいをしていてうわきまでしていたんだ。だけどそのこはぎゃくたいをうけてもこいごころはかわらなかった。でも、ひにひにきずがふえていったんだ。それをみていられなくてピエロはそいつをころしたんだ。それもひとびとのめにつくようにむごたらしく。それがげんいんでカイブツインシになったんだ」
「……」
「ひいた?でもそうだよね。それがふつうのはんのうだよ」
「……ううん。僕はピエロ君が凄いと思うよ。僕には人を殺す勇気を持つことは出来ないよ。それに人を殺すことは悪いことだと思っているから。でも、ピエロ君は一人の女の子を救ったんでしょ?それは正しいことだと思うんだ。だから僕はピエロ君を尊敬するよ」
「……ありがと」
そのあと2人は一言も喋らず黙々と食事を続けていたが、空気は全く悪くなかった。むしろお互い心地よく感じていた。
願わくばこの時が永久に続けばと。
この話は後の物語の根幹につながってくるので食事会だけれど閑話としてではなく第七話として投稿させていただきます。
あと、見にくい部分もあったかと思うのでいずれちゃんと投稿します
7/8