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怪化物  作者: 平生
第一章
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第六話

 ジャックは東京特殊留置所で目覚めたのは四度目だ。だが今回は他三度とは異なる。母親が死んだことを彼は知っている。


(僕は生きてはいけないんだ。僕は死ぬべきだったんだ)


「悲痛な顔をしているね」


「そう見えますか?お願いします。僕を殺してください」


「不可!貴様を殺すことなど我にはできん!」


「何故ですか?」


「貴方は怪物因子を持っているのよ?怪物因子を消滅させることなど出来ないの。取り除くには殺す必要があるけど、怪物因子に貴方の記憶が刻まれているのよ」

「それに、お前はこれから僕の同僚になるんだから。殺す理由なんかあるわけないんだよ」


 ジャックはその言葉を最後まで聞こうとしたが叶わず


「オエェ……」

 

 胃の中が空っぽになるほど吐いた。


「じゃあこれからの話をして行こうか」


「……僕は……狩人になりたくありません。もう、生きるのも辛いです……お願いします。僕を殺してください」


 阿修羅は大いに困惑した。今までで自殺願望がある奴を何千人と見てきたがその中で誰一人として本気で死のうなどと考えていた奴など一人も存在しなかった。だが、ジャックの目はそんな奴等とは全く異なる目をしていた。一種の狂気でも感じる、そんな目をしていた。


「死んだら君の母親も悲しむんじゃないか?だったら死ぬべきじゃない」

 (冗談じゃない!ここで死なれたら僕の苦労が水の泡になる!それだけは絶対避けなければ!しかも、西郷を10秒も使ったんだぞ!?これで無駄になったら一生使い潰してやるよ!)


「そんな母さんも死んだんだ……僕は母さんを救えなかった……そんな無様な思いをもうしたくないんです……大切な人が死ぬのをもう……見たくないんです」


「ハァー」

 (これ無理っぽそう。終わったなぁ。西郷に使わず素直に殺傷を命じさせとけば良かった……仕方ない、最後に言うだけ言っておこう)

「じゃあ言わせてもらうわ。お前さぁ自惚れんなよ」


「は?」


「だから自惚れんなって言ってんだよ。だいたいお前の実力なんか大したことねぇし。雑魚だよ雑魚。そんな奴に守れるもんがあるわけねぇだろ。それに、僕はお前のために生涯で1分間しか使えない奥の手を使ったわけ。分かる?お前にしっかり働いてもらわないとこっちも困るんだよ。だから、お前に自殺する権利はねぇ!無様に生き恥でも晒してろ。それが1番の罰だろ。母親を救えなかった罪のな」


「……」


 (あれ言い過ぎた?ってそもそもなんでこいつは舌を噛み切らないんだ?それに怪物化しないんだ?まさか……やり方を知らない?ふーん、なら力の使い方を教える前に生き甲斐を見つけさせれば良いんじゃね?そうと決まれば行動あるのみだな)


「ウジウジすんな!よし監視課のところに行くぞ!」


「は?だから僕は死にたいんでs」


「さっさと来い!」


◇◇◇


「なるほど。正式に狩人に着くと決まりましたか」


「あぁそうだ、安田さん」


「では書類手続きの方をしていきますのでCNジャックはこちらへ」


「あ、あの……僕は別に……」


「どうかしましたか?」


「……」


 ジャックの狂気的な決意も気狂いである阿修羅の前では全くの無意味で彼は死ぬことすらできなかった。彼は阿修羅が来る前に一度舌を噛み切ろうとしたが叶わず、代わりに阿修羅に介錯を頼もうとするも拒否、安田に狩人になる気はないと言う旨を伝えようと試みるもこれまでの阿修羅の言動によって気勢が削がれ、安田の凄まじい眼力によって言い出せずにいた。


「では、まず血液検査から行っていきたいと思います」


「は、はい。……痛っ!」


 血液検査をする理由は至ってシンプル。本当に怪物因子を取り込んでいるかどうか調べるためだ。


「では次、身体測定をしていきたいと思います。怪物因子の能力を使用しても構いませんので持てる力を存分に使ってください」


「あ、あの……」


 安田の眼孔には常人にはない鋭さがある。それは当然で彼女は元々失明していたのだが国が保管していた狩人と契約することにより目を移植した。その結果彼女が睨めば如何なる者でも硬直を免れることはできない。たとえ、国が保有する最強の狩人、阿修羅であってもだ。よってジャックでは怪物因子の力を発揮することができないなどと言うことができずそのまま身体測定に移った。


「なるほど、身体能力に関しては分かりました。阿修羅の報告とは齟齬が生じていますがいいでしょう。遠距離型と言うことが確かめられただけでも良かったです」


 身体測定の結果は怪物因子を持つものにしては低いが常人と比べると遥かに優れていた。怪物因子を後天的に取り込むには相性もそうだが肉体の強度も高くなければならない。ただし、決して、取り込む前から高い訳ではない。潜在能力が優れていれば取り込むことが可能だ。ジャックがその一例だろう。


「それでは最後に質疑応答を行います」


 質疑応答は本人の思想を確かめるためのものだ。他愛のない質問や人間の深層心理をついた質問を混ぜることでより正確に測っている……らしい。詳しいことは専門家にでも聞くのがベストだ。


「貴方、本当にやって行けるのですか?」


「……どういうことですか?」


「この結果は異常です。詳しいことは本人に話すことは出来ませんが、異常な結果であるとだけ申しておきましょう」


 この質問でジャックはありえない結果を出した。それは……至極正常な人間であるという結果が出たのだ。普通、怪物因子を取り込んだ人間は精神異常を来たし、無垢の頃とは別人とも言える性格になるか思考能力が極限まで低くなるかの二択なのだがジャックは新たな例を作り出した。


「では結果を上層部に送ります。判断が下されるのは数日後になるでしょうが今の内に渡しておく物があります」


 安田はそう言うと、チョーカーを取り出した。


「何ですか?それは?」


「これは見ての通り首輪です。貴方達の位置情報を知るための機械です」


「何でそのような物を付けなければならないんですか?」


「国が管理しているという証明になるからです。世界への牽制目的でもあります」


「狩人って……戦争に利用されるんですか?」


「違います。他国に攻められないようにするための防衛措置とも思ってください。そもそも、怪物因子は日本にしか現れず、国境を出ようとすると消滅しますから」


「そうですか。良かった……でも、本当にその機能しかないんですか?」


「……と言いますと?」


「GPSが入っているだけにしてみれば少し重い気がするんですけど」


 何故このような差に気づけたのは至極簡単。彼にはGPSにはとんでもなく微細で軽いイメージがあったからだ。実際には高性能になると重くてもなんら不思議はないのだが、この時ばかりはその疑問を持つことに助けられた。


「それに関しては貴方の上司となる阿修羅に聞いてください。規則について説明します。それが終われば与えられた自室で過ごしていてください」


 だが安田は答えなかった。それが後に一人の命を終わらせることなどとは誰も思いもしなかった。





マータスごめん……お前も書かないとな……

6/8

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