第三十一話
最近はボカロのオーケストラverを聞くか、たいたつの音楽聞きながら小説を書いている平生です。今回は消失を鬼リピしながら書いていました。
ジャックへの恋情の強さにより覚醒したベノムは自身の身を守るために全方位を能力で囲った。それは、これまでの毒ガスとは全く違うもので、気体から液体へと変化していた。
「チッ! めんどくせぇなぁ!」
「私は勝たなきゃいけないんです。私と霧嗣くんとの関係に手出ししないでください」
「やだね! 決まりは決まり。テメェは確実に俺が殺す!」
「なら、殺し合うしかありませんよね」
「そうだな。勝つのは俺だ」
「いえ、私です」
ベノムがそう言い終えると小指と薬指を折り畳み、人差し指と中指は伸ばした状態を作り、阿修羅へと向けた。それは、子供が遊びでやる銃のようにも見えた。
「ばん」
この剣呑な空気が漂う戦場にふさわしくない、無邪気な子供のような声を上げると銃のポーズをした手から数センチ程前に毒の弾丸が作り出され発射された。阿修羅は咄嗟に身を捩って後鳥羽が作り出した結界内に入った。すると、阿修羅が先程までいた場所を弾丸が通過し、店内の壁にぶつかったかと思うと、ベノムがこっそり放っていたもう一発の弾丸が後鳥羽の結界へとぶつかった。結界を突き破ることこそ叶わなかったものの鈍い音を立てて結界を揺らした。
「声はブラフか!」
「勘が良いのは嫌いですね」
「さっきの毒のカーテンのせいで低級どもは一瞬で殺されちまった。アイツらじゃダメだな」
「打つ手なしでしょうか?」
「いや、まだ全然あるぜ」
「あら残念。全部見れないのは悲しいですね」
「ん?」
「その前にあなたが死んでしまうので全ては見れないのが悲しいなと思ったのですよ」
「ぬかせ、召喚レムール」
「ふむ。先程の呪霊と何も変わらないような気がしますが、まぁ分からないことは考えても仕方ありませんね」
先程は手を重に見立てて弾丸を放っていたが、それは己の想像力の補完に過ぎず、自分の能力に慣れて来たので手を使わずとも弾丸を創り出し発射した。一発で大きく揺れた結界を何十発もの弾丸が撃ち抜こうとすれば結界は破られるのは当然のことだろうが、結果として破られなかった。後鳥羽が強化しておいたからだ。危機感を持った後鳥羽は尊敬に値しない主人の命に応えるために仕方なく自らの呪力を使い己が創り出した結界を強化することで防いで見せたのだ。だが、ベノムの弾丸は強力で結界にはヒビが入ってしまった、しかし、そこをすかさず後鳥羽は修復する。
「レムール、死んだ呪霊どもを食って良いぞ」
レムールと呼ばれた呪霊は外見は先程ベノムを一時期戦闘不能間近まで追い込んだものの、覚醒したらすぐにやられた低級呪霊とはほとんど変わらなかった。だが、レムールが放つ存在感は不思議と圧迫感を覚えるような、危機感を感じた。
そして、阿修羅から命令を受けたレムールは既に消えかかっている呪霊達に近づくと大きく口を開けて吸い込んだ。呪霊達を一体残らず食い尽くしたのだ。低級呪霊を食い尽くしたレムールは肥大化し、化物と何ら変わらない姿へと変貌を遂げた。
「レムレース。それがこいつの名だ」
「複数形? どういう能力なのでしょう」
話しながらでもベノムは弾丸を撃ち続ける。多少会話に意識を割かれ弾丸も形成できない物がまばらに存在して効率が悪くても撃ち続けた。
「いう必要ねぇな。単純だし。レムレース、命は殺戮だ」
阿修羅がそう言うとレムレースは巨大な頭部を駆使し、突進をかました。それを見るや、すぐさま左へサイドステップを刻んで回避した、毒の弾丸を撃ちながら。だが、それを読んでいた阿修羅はその位置にレムレースの前に低級呪霊を数体配置して壁としての役割を与えた。
弾丸に当たった呪霊は一撃で粉砕されるが、それをレムレースが捕食することでレムレース自体に強化を施した。
「なるほど。弾丸ではトドメまで持っていくことは不可能に近そうですね。だったら!」
相手の残りの呪霊の数が分からない以上このまま同じ行動を取ることはそこまで得策ではなかった。幸い、覚醒したことにより、吐き出せる毒の量は桁違いに増えてはいるものの、相手は少なくとも十年前から存在し、ある程度の死線をくぐり抜けて来た強者なのだ。あの方から聞いたように、覚醒者とそうでないものには使える能力に大きな差が生まれるとしても経験値が圧倒的に違うため、長期戦を臨むのはあまり得策に思えないとベノムは考えた。
だからこそ、ベノムは両の手を前に突き出しそこから先程までとは比べものにならないほどの毒液を創り出しそれを阿修羅に向かって放った。毒液はこの店の空間を埋め尽くすほどの量があるためジャックにも危険が迫るかもしれない。だが、今のジャックは後鳥羽の結界内にいるため生き残ることは出来そうであったため、多少、躊躇しつつも毒液を放出した。
「クソッ! レムレースは捨てるしかねぇか。俺達も危ねぇな、後鳥羽! 《死朽発駆》!」
レムレースは低級呪霊とは一線を画す程強力ではあるが、後鳥羽や西郷のような高位に位置する呪いではないため阿修羅の奥の手を施すことは叶わなかった。今でも大量の呪霊を取り込んでいるためそれなりに強力ではあるが、高位な呪いとは決定的な差がある。それは自我だ。
自我が存在しないため、それを消費することで更なる強化を行う《死朽発駆》を使うことは出来ず、ベノムの広範囲攻撃の肉壁としてしか活用できなかった。
だが、それでもベノムの攻撃を止めるためには足りない。なので、生涯で一体につき60秒しか使うことの出来ない奥義を最強の盾である後鳥羽に向かって行使した。
「後鳥羽! 全力で俺達を死守しろ!」
「フン!」
強化された後鳥羽の防壁はレムレースの肉壁によって少しだけ威力が削がれた広範囲攻撃と拮抗した。だが、覚醒者の一撃は怪物因子の能力の一部でしかない者にとっては荷が重過ぎた。徐々に防壁がベノムのリソースの七割を使った一撃に押され始め、結界にはヒビが入った。
「ヌワアァァァァ!!!」
だが、曲がりなりにも主人の命令を一度も破ったことがない後鳥羽は阿修羅の命令通り己の自我、そして妄執の全てを結界に込めた。
「ふむ、これでは足りませんか」
後鳥羽の渾身の守りはベノムの一撃を防ぎ切った。己の仮初の命と引き換えに。
「良くやった、後鳥羽。礼を言う」
「フン」
最後まで己の態度を崩さなかった気高き者は主人に対し笑顔を向け己を縛り付けていたものから解き放たれた。
「テメェ……もっと早くそれ見せろよ……」
己の命令により後鳥羽を失った阿修羅は寂しさと多少の罪悪感を覚えたが感傷に浸る暇はない。眼前の敵を見据えた。
「これをやるとだいぶ疲れるんですよ。ですが、あなたの防御は剥がしました」
「まだだ。来い! 西郷! そして、《融合》!」
新たに呼び出されたのは西郷。近接では無類の強さを誇る呪霊だ。だが、それではベノムの毒によってすぐにやられてしまうだろう。なので阿修羅は後鳥羽と西郷を掛け合わせた攻守一体の存在を作り上げた。
「まだ残りますか」
「西郷、殺戮だ」
「御意!」
この状態では《死朽発駆》を使うことは出来ない。だが、相手のベノムは七割もの体力を使い先程の一撃を放った。阿修羅はそこまで詳しいことは知るはずがないが、予測を立て、使うことにした。それだけではなく、もう一度同類の姿を目に焼きつけたかったのもあるだろうが。
西郷とベノムの戦いは西郷が接近を試みるもベノムが離れつつ毒の弾丸を撃ち込むが、後鳥羽の忘れ形見である結界によって防ぐと言うイタチごっことなった。その最中、阿修羅は低級呪霊を繰り出したりして牽制するも、ベノムに致命傷を与えるには至らなかった。
だが、未だ余力が残る西郷とは違い、ベノムは既に限界に近づきつつあった。これが、人生で初の戦闘だということもあり慣れていなかたためだ。このまま行けば西郷が勝つであろうことはジャックの目にもわかった。だが、ジャックは動かなかった。唖然と眺めることしかできなかった。
しかし、西郷の一撃がとうとうベノムに入るとようやくジャックもことの深刻さを実感した。自分の恋人の死が迫っていることにようやく気付いたのだ。
「クソッ! 阿修羅さん! 西郷さんを止めてください!」
「ダメだ。ベノムはここで殺す」
「クッ、僕が、力を使えれば。この首輪さえなければ! 外れろ! 外れろ外れろ外れろ外れろ外れろ外れろ外れろ外れろ外れろ、外れろよおぉぉぉぉ!!!」
ジャックの叫びも無常にも届かない。爪で首を引っ掻いても首輪は取れなかった。まだ8時にはあと5時間以上あるため、能力も使えない。そして、いくら腕力が強くても首輪を外すことは出来ない。それは分かっている、でも諦めなかった。
首を引っ掻く。ベノムが殴られる。
首を引っ掻く。ベノムが蹴られる。
首を引っ掻く。ベノムが投げられる。
首を引っ掻く。ベノムの毒の弾丸を防がれる。
首を引っ掻く。ベノムが回避を試みる。
首を引っ掻く。ベノムの顎が蹴り抜かれる。
首を引っ掻く。ベノムが低級呪霊に噛みつかれる。
首を引っ掻く。ベノムがまたも殴られる。
首を引っ掻く。ベノムの力を振り絞った一撃も貫通され攻撃を受ける。
首を引っ掻く。ベノムの腹部が貫かれる。
首を引っ掻く。ベノムの腹部の修復が始まる。
首を引っ掻く。ベノムの足が吹き飛ばされる。
首を引っ掻く。ベノムの左腕が千切られる。
首を引っ掻く。ベノムの右腕が千切られる。
首を引っ掻く。ベノムの四肢の修復が始まる。
首を引っ掻く。ベノムの頭部に拳が入る。
首を引っ掻く。ベノムの頭部が殴られる。
首を引っ掻く。ベノムの頭部から脳汁が噴き出る。
首を引っ掻く。ベノムが脳を拾う。
首を引っ掻く。ベノムの四肢が全て再度もがれる。
首を引っ掻く。ベノムの脳が踏み潰される。
首を引っ掻く。ベノムの下半身を引きちぎられる。
首を引っ掻く。ベノムの傷が修復される。
首を引っ掻く。ベノムの爪を剥がす。
首を引っ掻く。ベノムの指を引っこ抜く。
首を引っ掻く。ベノムの左腕が再び千切られる。
首を引っ掻く。ベノムの右腕が千切られる。
首を引っ掻く。ベノムの右足が飛ばされる。
首を引っ掻く。ベノムの左足は回復の兆しを見せなかった。
首を引っ掻く。ベノムの腹部はもう存在しなかった。
首を引っ掻く。ベノムの頭が汚くも転がっていた。
首を引っ掻く。首を引っ掻く。首を引っ掻く、首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く。首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く首を引っ掻く。
ベノムの心臓が潰される。
「あ」と呟いた後、言葉を紡いだ。最後の言葉は「許さない」だった。その目は西郷、阿修羅に向けられてはいなかった。
リアジュウボクメッツ教信者、阿修羅……。




