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怪化物  作者: 平生
第二章
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第三十話

 何もない空間から突如として化物とは違う異形の存在、呪霊をよびだした。そして、出た呪霊に殺傷を命じて蔦根もといベノムへと攻撃をさせた。無数の呪霊は蔦根に向かって一直線に飛んでいき、噛みつき攻撃を繰り出した。しかし、ベノムも紫色の霧をを数多の呪霊達に向けて自分を覆うようにして守りに使った。


 ベノムの紫の霧、いわば毒ガスによる守りもあまり効果を発揮せず、そのまま攻撃を食らっていた。ベノムの毒ガスは遅効性のため吸い込んですぐに戦闘不能になったりはしない。触れても多少体が溶けるだけだ。そのため、毒の気体では防御力が見込めないことなど分かりきっていることだった。


「阿修羅さん! 急にどうしたんですか!? なんで蔦根を襲うんですか!?」


「こいつは10年前に無垢を殺した疑いがある。それで満足か?」


「10年も前のことをどうして今更! それに、僕は蔦根が人を殺すなんて思えません! 早く呪霊に出した命令を撤回してください!」


「10年前に現場を見たんだよ。その時にこいつに似た能力が残っていた。それで充分だろ? それに、怪物に時効なんかねぇ。強大な力を持つ者はそれだけで煙たがられるものだ。生存権与えられているだけでも感謝するべきなんだよ俺達は」


「そんな……あんまりだ……」


「あぁそうだ。世の中には理不尽な事が溢れかえっている。これもその一つだ。不平等という事実が平等に与えられるように作られているんだ、この世界は。分かったら諦めて僕の手伝いをしろ」


「それでも……冤罪でしょう! 蔦根は他者を無闇に殺したりはしない! 優しい子なんだ!」


「そもそも出会ってそんなに長くねぇのに何が分かるっていうんだ。それはお前の主観だ。この場面で客観的な意見を持ち合わせているのは僕からの視点だ。僕から見たらベノムの性質なんかは全く分からない。疑うのであれば罰する。それが、この世界のルール、不条理だ。さっきと同じようなことを言ったな」


 呆れたような顔をし、諭すように優しい声音でジャックにそう言うと、ジャックから目線を外し、低級呪霊と戦うベノムの方へと目を向けた。そんな彼女の周りには先程よりだいぶ数を減らした呪霊が漂っていた。ただでさえ多かった呪霊の攻撃を捌いたベノムの奮戦も実り、未だ残る呪霊の動きもだいぶ遅くなっていた。


「……蔦根……」


「ん?」


「彼女は狼讐蔦根です! ベノムなんていう名前じゃない!」


「狼讐……今そうやって言ったか?」


「えぇそうです!」


「ハッ……ハハハハハハハハ!」


 阿修羅は未だに数を減らし続ける呪霊達を見ることも出来なくなるほどに大笑いをした。それはこの場には似合わないが、いっそ清々しくも思える程の心の底からの笑いだった。


「な、何がおかしいんですか!」


「いやぁな、ベノムの毒霧によって世界から跡形もなく消された被害者が誰か知っているか?」


「分かりません」


「よーく考えてみろ。僕が大笑いするようなことだぞ? そこら辺の有象無象や世紀のシリアルキラーでも僕がここまで笑うことはないだろ? じゃあ、誰になると思う?」


「……」


 ジャックはしばし考えるような素振りを見せ俯いた。そして、少しすると勢いよく顔を上げたジャックの顔は間の抜けたように口を、おの字にして開け目が見開かれていた。


「嘘だ……」


「一応答え合わせしようか。狼讐直哉、狼讐恵子。ベノムの親族だろうな。確かに戸籍上一緒だったのは調べてあるがまさかベノムが怪物因子を持っているなんて予想もしなかったさ」


「……」


「あらら、失望しちまったみたいだな。まぁいいや。来い、後鳥羽」


 ベノムを睨む阿修羅の瞳には身体が所々が文字通り欠けていながらも未だ戦意をその目に宿す少女が映った。そんな少女を早く殺すために阿修羅はさらなる呪霊を呼び出した。その中には、両手には笏を、頭に垂れ冠を被り、黄櫨染御袍と呼ばれる特別な着物を着用したこの世に強い未練を残す男も立っていた。


「さぁ第二ラウンド開始かな。頼んだぞ後鳥羽」


「フン」


 虫の居所の悪い後鳥羽は阿修羅には目もくれず結界を張ることで命令に従う意思を見せた。本心では従いたくないと言う事が見え見えなので阿修羅は苦笑した。






 一方のジャックはと言えば阿修羅の言ったことを思い返していた。阿修羅からの話を聞けば


(蔦根が両親を殺すなんてあり得ない。嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!)


 ジャックは阿修羅の話を聞いても、ベノムのことを思っていた。だが、そんな風に思っていても阿修羅を止めるために、ベノムを助けようと動くことはなかった。


(でも、僕と蔦根はまだ知り合って一月ほどしか経っていないからもしかして……。)


 阿修羅の言った事が本当のことかもしれない。そんな考えがジャックの全身を動かないように締め付けた。阿修羅による一方的な蹂躙を、回復がまだ間に合ってはいるものの痛々しいベノムの姿を棒立ちで見る事しかできなかった。


(それに、助けて欲しいなんて


(いや! 僕が蔦根を信じなかったら誰が信じるんだ! 彼女には親もいないし、親友と呼べるほど仲の良い友達もいないから僕が信じてあげなきゃダメなんだ! それに、僕が蔦根を助けなきゃいけない!)


 ベノムへの疑念の心による楔をジャックは好意を持って吹き飛ばした。恋人は傷だらけになりつつも未だ戦意を見せていることに自分の抱いていた疑念はいとも簡単に弾き飛んでしまった。そして、そんな恋心はジャックを動かす勇気を与え、ジャックは己に嵌められた首輪を、枷を外すために手を掛けた。







 ジャックの決意も固まった。だが、自己完結したって状況は好転しない。むしろ、後鳥羽の登場により悪化の一途を辿っていた。


 それまで、時間差があったとしても効果は出ていたベノムの毒ガスも全体に張った後鳥羽の障壁により全く効果が出なくなり一方的に攻撃され続けていた。肩の骨は砕け、足は立っているのも辛くなるほど損傷し、指も一本なくなっていた。


 だが、怪物因子がベノムの意識がなくなることを許さない。どれだけ負傷しても怪物因子が体を回復させる。だから、未だに戦い続ける事ができた。それに、阿修羅が低級呪霊のみに攻撃を命令していることも理由の一つだろうが、それでも、常人ならばとっくに死んでいる攻撃を耐えれるのは怪物因子のおかげだった。


「私を狂わしたこの力に助けられるのは癪だけど勝たなきゃ」


「早く降参したらどうかしら? 大丈夫よ。回復する意思がなければすぐに楽になれるわ」

「うむ! これ以上やっても無駄であろう! 潔く諦めたまえ!」


「やだ!」


 力を振り絞り、放出する毒ガスの量をさらに増やす。でも、後鳥羽にはその攻撃は通用しない。


「クソッ! この首輪がなければ! 外れろよ!」


 ベノムは一度そう叫んだジャックの方へ向いた。戦闘中によそ見をするのは危険なことは分かっている。今、油断した隙にさらに強い呪霊を召喚され、一瞬で殺される可能性があることも。だが、愛する人が大声を上げた。それに反応してしまうのは当たり前だろう。


 ジャックの叫びはベノムに届いた。阿修羅から自分の話を聞かされていたことはベノムも聞いていたから知っている。その内容が全くのデタラメであることもだ。だが、ジャックが自分に対して失望するかもしれないと思っていた。阿修羅の推測の話しか聞いていないジャックのとってベノムは親殺しの外道だからだ。


 でも、ジャックは自分を信じてくれた。助けようという意思がジャックにあることを蔦根は感じ取ったのだ。ジャックから見て外道なはずの自分を助ける意思をジャックは持ってくれた、信用してくれた。その事実がベノムの愛を、意思を強くすることに繋がった。


「私は勝たなきゃいけない。霧嗣くんと一緒に居たいから!」


 ベノムの体が突如発光し出し、彼女の周りに突風が、自然界ではありえない金色の旋風が吹き荒れた。それを見た阿修羅は思わず舌打ちをした。


「めんどくせぇ」


 先程まで普段着だったベノムの服装が変化し、白シャツの上からスーツを着用し、頭にシルクハットを被った、マジシャンのような姿へと変貌を遂げた。


「第二ラウンドはここからだよ」

蔦根覚醒!

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