第三話
彼は暗闇の中で目覚めた。
「ここは……何処ですか?」
「ここはね、トーキョーとくしゅりゅうちじょだよ〜」
「???」
ジャッキはピエロが舌足らずなため発した言葉が上手く聞き取れず首を傾げた。そんなジャックをフォローするために阿修羅が口を開いた。
「あぁごめんごめん。ピエロ、質問は僕がするって言ったじゃん。君が質問してもあの子よく聞き取れないと思うよ」
「そうだった……ピエロのかつぜつぜつぼうてきだったんだ」
「滑舌云々の前に君の体幼児だからね?あぁ、ほったらかしにしてゴメン。ここはね、東京特殊留置所だよ、CNジャック。それと一応聞くけど君、ジャックだよね?リッパーじゃないよね?」
「???」
ジャックが再び首を傾げたのは二つほど理由がある。
一つは東京特殊留置所と呼ばれる場所に心当たりがなかったからだ。その所為でジャックは突然不安感に苛まれた。だが、それよりも理由として大きいのが二つ目だ。
二つ目は阿修羅は突然、何も説明していないジャックに質問をした。そのため、ジャックには彼が何を言っているのか分からなかった。リッパーは今眠っているのだから。
「あぁごめんね。君の中のさぁもう1人いると思うんだけど分かる?」
「もう1人?」
ジャックは自分の人格が体に二つあることを知らない。だから、阿修羅に聞かれても自信が二重人格者であることが分からないので答えずにいた。ジャックも馬鹿ではない。そんな不毛な質問をする人間がいないと考えているので、阿修羅の問いにも何かしらの意味があると思い必死に考えてみるも心当たりなく、首を横に振った。
「まぁそうか。僕みたいなのが特殊なんだからさ」
「うん?」
阿修羅は元の人間と呼べる肉体からは一転、リッパーと初めて邂逅したときの姿である正に阿修羅と呼ばれる根源の姿へと変貌していた。正面は元の肉体の顔、右は傲岸不遜な歴戦の戦士の顔、左は絶世の美人な女顔だった。
「………」
「驚かせてしまったようだな!我は阿修羅!怪物因子『怨霊』を持つ者!」
「………」
「うーん、貴方もうちょっと反応してもいいと思うけれど……まさか、既に見慣れているのかしら?」
「ちがうよ〜、ジャッくんきぜつしてる〜」
ジャックは阿修羅のあまりの異形さに畏怖を感じ、己の体を恐怖から守るために意識を強制的に手放された。
「……事情聴取は後ほどだ」
◇◇◇
「ここは?」
「ここは東京特殊留置所だってさっき説明したような気がするんだが」
「あなたは誰ですか?」
彼は先程、尋ねたことや、印象深いはずの人物すらも忘れた様子だった。
「あ〜あ、アシュラがおどろかすからきおくとんじゃったんじゃないの〜?」
「うるさい……僕のCNは阿修羅。怪物因子は『怨霊』だ。よろしくな。でこっちのチビがCNピエロ。怪物因子はCN通り『ピエロ』だ」
「よろしく〜」
「カイブツインシ?何ですかそれは?」
当然の疑問だろう。ジャックは昨日まで一般市民だったのだ。世界の別の一面を知らなくて当然だ。
「怪物因子はね、多くの人物に感情を抱かせた人間の魂が変質化し、特徴を色濃く受け継いだ物だよ。まぁ怪物と呼ばれる要因の能力を得た人間だと思えばいいよ。怪物には先天性と後天性の物があって僕とピエロは先天性なんだ。君にも怪物因子は宿っているよ。君のは後天性だね。そして君の怪物因子はジャック・リッパーの物だね」
「は、はぁ。でも、僕、実感が湧かないです。実際に見たことがないので」
ジャックは分かった風に話してはいるが実際のところ何一つ分かっていない。考えても分からないということを分かってしまったから分かろうとする思考を放棄したのだ。
「じゃあ見てもらおっか。ピエロ」
「はーい!」
阿修羅がそういうと突如、ピエロを覆うようにリッパーが使役していた霧とは異なる雰囲気を放つ黒いモヤが現れ、晴れたかと思えば、そこには先程までの童顔幼児体型の癖に難しい言葉を知っていること以外に特徴という特徴がなかったのが、ピエロメイクをした男の子が立っていた。
「え?……これが怪物因子ですか?」
「正確には違うわ。でもその認識でも大丈夫よ」
「これはね〜カイブツっていってムクとちがってとってもつよいんだよ〜ムクではカイブツをころすことができないんだ〜」
「無垢?」
ピエロは舌足らずなため発した言葉を聞き取るのには相当耳が良いか、阿修羅のように長い付き合いが必要だ。この時、ジャックが無垢について聞き返せたのは、逆にそこしか聞けず、その単語の意味が全く想像できなかった、つまり偶然だ。
「無垢とは怪物ではない人類を指すよ。ちなみに人間ではないけど化物と言った異形の存在もいるんだけど、コイツらは怪物じゃないと殺せないし、殺したとしても死体が残らないから不思議な生物なんだよね。国の極秘の研究機関が調べているんだけど未だに分からなくて、困っているらしいんだよね。狩人である僕達には関係ないけどさ」
「そう言えばあなたたちは誰ですか?どうして僕を留置所なんかに連れて来たんですか?」
「さっきも言ったけど君は後天性の怪物なんだよね」
「君はまだ一般人を害してない!ならば、君には狩人になる資格がある!これはそのお誘いだ!」
実際にはピエロ達を襲った場合、狩人になる資格はない。だが、狩人は年中、人員不足だ。性格的に問題がないジャックは誘われるのは当然だ。リッパーに関してだがそれはジャックが外に出さなければ良いだろう。肉体の主導権をジャックが握っているのは一目瞭然だ。
「狩人にならない選択肢はあるんですか?」
「うむ!あるぞ!ただし、その場合は殺処分だがな!」
生を望むジャックには実質選択肢が一つしかない。そもそも、ほとんどの人外が生を望む。なら、これは脅しとも取れる。しかし、怪物には人権がない。そんなことをしても問題ない。
「……やります。やらせてください」
「げんちはとったね〜」
「じゃあこれから説明していくから聞いとけよ?僕達狩人の仕事は無垢と呼ばれる一般人を化物、怪物の脅威から救うことだ。化物は人間とは違い異形の形をしている。心当たりとかはないか?」
「異形の形?」
ジャックは化物を知らなかった。いや、知らないというより覚えていなかった。自分の母親が死んだ惨状のことを。
「ないならそれで良い。これから任務をこなす中でいくらでも見られる。怪物は僕達と姿形は似ている。だが奴らは人間ではない。僕達と違ってな。そこ重要だから覚えとけよ。コイツらを殺すことが僕達の仕事ってわけだ。コイツらとは普段行うパトロールで遭遇することもあれば、怪物を殺す任務を与えられることもある。まぁ怪物は能力を持っていてある程度強いが任務以外は極力遭遇しないから、あんま気負うな」
「アシュラ〜それフラグ〜」
「よし、ピエロのその発言でフラグを折ることができたぞ。良かったな」
「は、はぁ……」
ジャックはこの2人のテンションに合わせることが出来ずにいた。阿修羅とピエロは今まで関わってきたどの人間とも性質が違うとここで初めて実感した。自分の命を軽んじられているのを感じ、狩人に対して恐怖心が芽生えた。
「じゃあ大体僕から話すことは以上だ。他に何か質問があるか?」
「あの……母さんは……母さんはどうなっているんですか?」
その時、ピエロと阿修羅は一瞬目を逸らした。しかし、話さなければならないと思い、起きたことを全て話した。
話し終えた時、東京特殊留置所一帯が黒い霧で覆われていた。
連続投稿中だぜ!
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