第二十八話
店内に入り、対面の席を店員に案内してもらい、座るとメニューをテーブルの上に広げ、眺めた。
「何にする?」
「私はオムライスかな。卵料理が好きだし。えっと……切嗣君はどうする?」
「僕はカルボナーラでいいかな。店員さん呼ぶよ?」
「いいよ」
店員が来て注文を聞くと、そのまま厨房まで行って、紙面に書かれた内容を置いていくと、次の客への対応をした。
「そう言えば映画はどうだった?」
「面白かったよね。主人公の男の子が世間体なんかを無視して、いやこれはちょっと違ったね。犯罪に手を染めてまでヒロインを救い出すために動いたのには心がグッと惹かれて少し泣いちゃったかな。私もこんな状況になったらこんな風に助けられたいなぁなんて」
「僕には無理かな……僕は意気地なしだし……」
蔦根の言葉を聞いたジャックは自分には無理だと思い、少し落ち込みつつもそう言った。さらに、自由意思からは己の罪業ではないと言われたことを未だに引きずっており、その時を思い出していた。
「切嗣君なら出来ると思うよ。だから、もし私が死にそうになったら助けてね。なぁんて言ってみたり」
「頑張ってみるよ」
決意を固めた言葉を投げかけられることを蔦根は望んでいたが、ジャックはそんなことは言わなかった。満足のいく答えを得られなかったが、及第点ではあったため、多少なりとも嬉しくは思った。だが、不満を抱いていたため、カッコいい言葉を言ってもらうためジャックに向かって問いを投げかけた。
「そう言えば波山君に告白したのは私だけど好きになった理由については話さなかったよね。なんだと思う?」
「なんだよ急に」
「私が切嗣君を好きになった理由はね、過去に二度守ってもらったからなんだ」
「二度?」
「最初に守ってもらった時の記憶はあんまり覚えていないんだ。子供の頃に守ってもらったってことを近所のおじさんに教えてもらったことは覚えているんだけどね。でも、最近にも一度守ってもらったんだ。47日前のちょうどこれくらいの時間だったね。急にビルが倒れて来てもうダメかもって思ったんだ。そして、昔死んじゃったお父さんとお母さんのことを思って目を瞑ったんだ。でも、少しして何もなかったから目を開けてみたら私の目の前にはたくさんの瓦礫と、肉片が散らばっていたんだ。そんな光景は怖かったけど、前を見てみると一人の黒いコートを着た男の人を見たんだ。その人が私を守ってくれたって思ったって話をしたよね?」
「あぁ、そこまで細かくはなかったけどね」
「それ嘘だったんだ」
「ん?」
「黒いコートの人は私を守ってくれたわけじゃなかったんだ。そもそも、黒いコートの人がビルを瓦礫にして私の命を救ったわけじゃなかったの。瓦礫から私を救ったのは私自信だったんだ」
「どうやって?」
「怪物因子って言う力でね。この力は昔から持っていたみたいなんだ。でも、私はその時になるまで忘れていた。それを目覚めさせてくれた黒いコートの人に感謝をしたの。忘れていた私自身を思い出させてくれたその黒いコートの人に。私の恩人?と言うべき人の顔を見に行ったらビックリしたことに切嗣君だったんだ。私は私と同じような力を持ってなお普通に過ごしている切嗣君に親近感を覚えたんだ。そして、勇敢に敵に立ち向かう切嗣君の姿が輝いて見えたんだ。それが私が切嗣君を好きになった理由」
「……」
「あれ? よく分からなかった?」
蔦根の独白を最後まで聞いたジャックは頭を抱えていた。当然、蔦根の言っていることが分からなかったわけではないし、そんなことを言われて嬉しくないわけがない。ただ、蔦根がカッコいいという黒いコートの人の中身が自分ではなく、リッパーであることに少々自己嫌悪しているのではあるが。
ジャックが頭を抱えたのは蔦根が怪物因子を持っていたことだった。蔦根が怪物因子を持っていることを狩人連合組合の組合員に知られたりしたら、自分と同じような苦しい日々を送ることになるかもしれない、罪悪感に押しつぶされそうになる日々を蔦根も送るのかもしれないと思うと頭を抱えずにはいられなかった。
「なぁ……それは本当なのか?」
「うん、そうだけど」
「なら、逃げよう!」
逃亡を提案したジャックではあったが、蔦根にはその真意が分からなかった。だが、この場にはジャック以外にその言葉の意味が分かる狩人がいた。ジャックにとっては最悪なことに。
「ちょっと待てよジャック。その話、僕も混ぜろよ」
「それと無闇に逃亡を提案するでない!我以外が聞けばお主の命がない可能性もあるのだぞ」
「そうよ。とりあえず、私達にもその話、詳しく聞かせてくれないかしら」
最強の狩人が不運なことにこの場にいた。
ポイント下さい(切実)




