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怪化物  作者: 平生
第二章
27/32

第二十七話

「先輩、今日はどうでした?」


「今日っていうか昨日じゃない?文化祭の話なら」


「あれ?もうそんなに時間が経っていましたっけ?」


「そうだよ。ほら、もう2時を過ぎているよ」


 電光掲示板を見ると確かに2時を過ぎていた。ギーンはここ最近、退屈を感じている。ギーンは怪物のような強敵と邂逅したことがなく、よっぽどのことがない限り痛手を負わない化物とばかり戦ってきた。そのような環境では緊張感もなく、達成感もほとんど感じないだろう。だから、時間を気にせずひたすらに狩っていた。気を紛らわしながら狩っていた。


 だが、そんなことも長くは続かない。強者と戦うことに対する渇望により生じた飽きによって集中力も散漫していた。だから、あまり気乗りはしないもののジャックの話を聞こうとしたのだ。


 普段はお互いにほとんど喋らない状況で狩りを続けていており、会話をするにしても大半がジャックから話題を振っていたので珍しいことが起きたと思い、少々嬉しく思いジャックは答えた。


「そうでしたか。気付きませんでしたよ。それで、昨日の文化祭はどうでした?


「楽しかったよ。うん、本当に楽しかったよ。楽しみが減っちゃうかもだから内容については触れないけd」


「あ、大丈夫ですよ。僕は行かないんで。そういう気遣いはしてもらわなくて結構です、先輩」


「え?行かないの?」


「はい。普通に仕事終わりとか寝ないと体が持たないので」


「そっか……」


 ギーンの社交辞令でも「是非行かせてもらいます!」と言う言葉が聞けず、そのままぶった斬られたことにジャックは目に見えてテンションが下がった。だが、後輩と会話をするのはやはり楽しいものなので気を取り直し、続きを話した。


「今日は屋台で色んな美味しいものを食べたり、大道芸大会を観たりした後にクラスの出し物を手伝ったりしたかな」


 ジャックのプレゼン能力やレビュワーとしてのレベルは低かった。そもそも、話の中身が具体性がなく、概要でしか話していないために、何をやったのかイマイチ、ピンと来ないのだ。

 それに、感想が楽しかったの一辺倒なのも悪い。これまた、抽象的な表現のため、分かり辛いのだ。


 そんなこんなで、気を遣わなくても良いと言ったところで、大して変わらなかったジャックの回答に、頭に中が疑問符が浮かんだギーンは、とりあえず、詳しく聞くために自分がしっかりしなければと思った。


 こうして人は成長するのだ。一番、成長しなければならない者は全く成長できていないのだが。


「……。それで、屋台で食った者って何だったんですか?」


「えっと確か、焼きそばに、もんじゃ焼き、フリフリポテトとあと、トルネードポテトを食べて、それから、チョコバナナ、リンゴ飴、ベビーカステラ、クレープを食べたよ」


 そう言い切ったジャックがギーンの顔を見てみれば、そこには、ポカンといったサウンドエフェクトが似合う、間の抜けたように口を開けた少年が立っていた。


 それもそのはず、話を聞いたギーンはジャックの胃袋の大きさにドン引きをしていたからだ。普通、祭りと言っても一人でそこまで食べるものなのか?と疑問に思うのは当然だろう。ここで、一人か二人の認識の相違があった。


 まぁ、ジャックはほとんど食べていなかったため、相違と言うには、ジャックが食べていない点なのだが、そこは、あまり……結構重要だった、ジャック目線では。


「……先輩って結構食べる方なんですね。体型からそんなことは分からなかったんですけど……それと、よく一人でそんな量を食べましたね。ちょっと……」


「あれ?なんか反応がおかしいんだけど」


「いや、僕にはそんな勇気はないですよ……一人で大食いなんて無理ですよ」


 思っていた通りの感想をギーンが抱いているのだが、何か誤解しているような気がしたので、ジャックは己の発言を振り返った。


「あ……僕一人で食べに行ったわけじゃないよ」


「ふぅ良かった。もし、先輩が本当に一人で大食いしていたんだったら、ちょっと残念なものを見る目になっちゃいますから、僕が。いやぁ、でも、先輩って友達がいたんですね」


「友達っていうか……」


 蔦根と付き合ったことを話すのは少し気が引けたようだった。第一、ギーンは蔦根を見たこともなければ、ジャックからも話を聞いたことがない。そんな人と、恋愛をすることになったと言っても、ギーンにとっては、そこまで興味はないだろうとジャックは考えた。


 そこまでと思うあたり、ジャックがギーンのことを後輩として可愛がっていることが分かるのだが、ギーンはそれを知らないし、興味もないだろう。


「彼女……だから」


 それを聞いたギーンは、目を限界まで見開き、驚きを少しも隠してはいなかった。意外ということもあるが、それ以上にその単語には、ある地雷が含まれていた。


「そうですか。良かったですね、お幸せに」


「ありがとう!」


「それと、二つほどアドバイスをします」


「な、何かな?」


「阿修羅さんにはそのことを出来るだけ話さないことですね、一つ目は」


「どうしてなのかな?」


「……阿修羅さんがリア充撲滅派ですから。それと二つ目ですね。これは一つ目に関係しますが、強くなることですね。それが出来なければ、別れるべきです。それじゃ、この話はこれでお終いって事で」


 ギーンの真意がジャックには分からなかった。だが、強引に会話を切った少年の後ろ姿は、疑問を持ったジャックの意思をかき消すほどには、問いただせないような凄みがあった。


 その後、二人は無言でひたすらに化物を殺し続けた。


◇◇◇


「なぁ狼讐、今日は何処へ行くんだ?」


「ねぇ」


「どうした?」


「名前呼びは?」


「あ……蔦根……」


「うん!そうだね、今日は行くところないかな!」


 ジャックに名前呼びされたことにより、上機嫌になった蔦根は明るい声で、ジャックにそう告げた。以前読んだ時と違い、名前呼びをしたことに恥じらいを憶えていたが、それも、予想外の答えを聞いたことにより吹き飛んだ。


「ん?特に決めていないのか?」


「目ぼしいところは昨日全部行っちゃったんだよね。それに、今日は人が多いから並ぶのも面倒だし」


「それならどうする?どっか、適当に周るか?」


「ちょっと耳を近付けて……ゴニョゴニョゴニョ……」


「マジ!?」


「うん!」


 耳を近付けて蔦根の話を聞くと、蔦根はジャックの予想だにしない提案をしたため大きな声を上げてしまった。その所為で、クラス中から冷めてはいないものの、異物を見るような目で見られて居た堪れなくなったジャックは、周囲の目線を気にしないために蔦根へと顔を向け直した。


「ありがたや〜だね」


「どうした?急に」


「なんでもないよ〜それじゃ、先生の話を聞いたらさっさとずらかろう!」


「バレないといいけどな」


「大丈夫……だと思う……」


 少々先行きが不安になったりはしたが、これから起こることに期待で胸を膨らませた。それは、蔦根も同じようだった。


◇◇◇


 二人は今、映画館で映画を観ていた。当然、クラスの出し物では、そんな大層な物を用意することはできない。今は、校外にこっそり出て遊んでいる。蔦根は昨日から計画を練っていたようで、敷地を脱出すると、バス停まで談笑しながら歩いて、その後、大型ショッピングセンターに行き、映画館へと直行したのだった。


 学校から出るには正門は屋台が多数あったため、脳筋突破することはせず、かと言って裏門を使おうとしても、こちらには、マジックショーが行われているため人の目を掻い潜ることは難しいだろう。だから、二人は敷地を囲う塀を乗り越えて出たのだ。


 余談ではあるが、マジックショーを見なかった理由が、蔦根が行くことを拒否したからだ。マジックを見ていても種が分かってしまうとジャックに理由を説明したからだ。


 どんな映画を観ているかというと、恋愛物を観ていた。SF要素を現代社会に取り込んだラブロマンスで大まかな内容説明をすると、主人公の男の子が不思議な力を持つ少女を助けるという話だ。


 当然、席は隣同士で座っており、ポップコーンを食べようとして手がぶつかり、お互いを意識して顔が赤面するなどのテンプレが起きていたりする。ただ、ぶつかった手とは逆の、隣り合う手は空を掠めていた。肘掛けに乗せて手を近付けても繋げるまでには発展しなかった。互いに、恥じらっているからだ。最後の一歩に背中を押してくれる勇気を両者が持ち合わせていなかった。


 セリフも半ば耳を通り過ぎ、映像を見ようと思ってもついつい隣を横目で観てしまっていた。そのため、繋がることすらできないまま映画は終わってしまった。






「……じゃあ次はどこに行く?」


 手を繋げなかったことに未練を感じつつ、そして、蔦根が計画を練って来てそれに着いていくだけの自分に恥じらいを覚えつつもそう尋ねた。


 対する蔦根も思い切りに欠ける自分に対して嫌気が感じつつも、次はそうはならないようにと決意を固めてジャックの問いに応えた。


「今は1時過ぎてるからどこかでご飯でも食べよ」


「確かに僕もお腹が空いた。あ、ここ出たところにあった喫茶店とかどう?」


「ちょっと歩かなきゃ行けないけど、そうしよっか」


 わざわざジャックが遠いところを選んだのには、手を繋いで歩きたいと言う己の願望があったからだ。蔦根もその思いがあったから反対はしなかった。そんな思いがなくても反対などはしなかっただろうが。


◇◇◇


 二人は目的地に向かって足を進めていたが、手には鞄以外は何も持っていなかった。互いに奥手だったようで、少し決心したくらいじゃ変わらなかった。


 蔦根と手を繋ぐことはできないまま到着し、ジャックは片手に鞄を持ち、片方の手でドアを押しながら店内に入っていった。


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