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怪化物  作者: 平生
第二章
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第二十六話

「波山切嗣君」


「どうしたんだよ。急に改まって」


 この高校の屋上は普段は解放されていない。今日に限って普段、鍵がかかっている扉も開いている。それは、今日の午前中にバンド部によるパフォーマンスがあったためだ。その証拠に、楽器類が放ったらかしにしてある。


 それを利用して蔦根は入ってきたのだ。そして、そんな蔦根の表情は真剣なものだ。それは、以前、校外研修で腕に傷についての話をした時と似ていた。普段は理解できなかったら考えるのをやめるジャックも、この時は真剣に考えるほどだ。


「私は……あなたのことが……好きです」


「!?」


「私と付き合って下さい!」


 鈍感なジャックでもこの期に及んでとぼけることはしなかった。ただ、蔦根のベタな告白に答えることもなかった。ただただ、沈黙しただけだった。

 

 なぜなら蔦根の命の恩人の立場にいるジャックだが、蔦根を見るたびに守れなかった人のことに思いを馳せてしまうからだ。

 罪悪感に塗りつぶされそうになったことなど一度や二度じゃない。

 だが、そのたびに守れた命を思い出すことでなんとかやっていけている。


 しかし、付き合うとなればまた話は別だとジャックは考えている。


 一緒にいる時間が増えれば傷つく機会も増える。それに、ジャック自身が耐えられるかどうかが分からない。いずれ、蔦根のことが嫌いになるかもしれない。


 ダメな理由はジャック自身の利己的な考えから来ていた。それを自覚しているから、また、自分が嫌になっていた。


 そんな考えとは裏腹に恋愛をすれば良いと訴えかける部分もある。まるで、それが本心のように感じていた。先の考えが、後付けのように思えてきたのだ。


 ジャックはメタルとの戦いで甘さを見せた。その結果が大勢の死亡だ。その中で、唯一守れた存在が蔦根なのだ。蔦根と顔を合わせなくても、常に死者のことが頭の隅でチラつく。それならば、蔦根と会うことで自己補完をすれば良いのではないかと訴えかけていたのだ。


 そして、ジャックはそれが、妙案のように感じた。感じたもののまたもや自己中心的考えをした。その事実が、ジャックの心を締めつけたのだ。


 こんな複雑そうに見えながらも結論が一緒になったジャックの思いによって答えることが躊躇われた。


 そんな風にジャックは悩んでいる時に、蔦根はまだかまだかと待っていた。少々焦ったく感じつつも、それだけ真剣に考えてくれていることに嬉しさを覚えていたのだ。今までの人生でこんなポカポカするような思いを受けたのは覚えている限りでは初めてだった。


「狼讐、あの……」


「うん、何かな?」


「僕は……お前のことが……」


「うんうん、どうしたの?」


「……」


「……」


 最後の決心がつかなかった。どうするかはもう決めている。でも、本当にそれでいいのかと考えると、伝えることができなかった。そんな状況に蔦根はと言うと、ジャックのヘタレ振りを見て微笑ましくも呆れていた。蔦根は今、「鈍感な人はだいたいヘタレだってのは本当だったんだね」とか思っていたりする。


「嫌いだった」


「へ?」


「最初は嫌いだった。僕の領域を侵してくる、自分だけの空間にズケズケと入り込んでいるお前が嫌いだった。そんな中で狼讐の欠点や悪口をたくさん考えた。僕より頭が悪いとか、嫌われ者とか、育ちが悪いとか色々な。でも、僕もお前と同じだった。同じと言うのは誇張しすぎだな。僕とお前は似たもの同士だ。僕にも欠点はたくさんある。弱いし、意気地なしだし、他人から好かれているわけでもない。でも、僕と狼讐は似ていても根本的に違うところがある。他人を蔑まない点だ。僕はお前を下に見て、嫌悪していることを表に表していた。でも、狼讐は違った。僕の陰口を言わなかったし、嫌悪したりしなかった。それは、僕に対してだけじゃなかった。お前を嫌うクラスメイトに対してもそれを貫き通していたと思う。だから、僕はそんな狼讐がいいなって思った。お前は優しい。逆に、他人に対して厳しく、自分に甘い僕が嫌いになったりした。そんな僕だからお前に憧れた。そんな僕だからお前が好きになった。嫌いだったお前を好きになったんだ。」


「だから、狼讐蔦根さん。僕でよければ付き合って下さい」


 最後の抵抗も虚しく、ジャックは結論を出した。


「ビックリしたぁ……」


 そう呟いた蔦根の顔には涙が滲んでいた。


「普通人の告白に対して嫌いとか言う?」


「だったって言ったじゃん。過去形だよ過去形。そこ大事だよ」


「そうだけどさぁ……本当に、ビッ、ックリ、した、ッン、だから」


 先程滲んでいた涙も今は溢れ出ており、蔦根は嗚咽を漏らしながらもジャックに文句を言っていた。


「なんか……ゴメン……」


「別に、謝っ、ッて、欲しいんじゃないし……」


「ん?何すればいいんだ?」


「……」


「……何だ?そんなに僕の顔をジト目で見てどうしたんだ?」


「……別にぃ、名前呼びをして欲しいとかぁ、頭撫でてほしいとかぁ、思ってないしぃ……」


「そうか、じゃあ蔦根、行くか。クラスに戻らないと行けないだろ」


「うにゅ」


「どうした?立ち止まったりして。そろそろ、HR始まるだろ。行くぞ」


 ジャックが恥じらいもせず、名前呼びをし、不意打ちで頭を撫でられたことにビックリして変な声を上げた蔦根をの前をジャックは歩いた。こうして、ジャックと蔦根は恋愛関係となり、文化祭1日目を楽しんだ。

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