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怪化物  作者: 平生
第二章
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第二十五話

 文化祭当日。その日も当然8時までは化物を狩り続けていた。最近では、ギーンもジャックに獲物を回すようになったのでジャックはお荷物ではなくなった。狩るスピードは落ちたもののギーンの疲労を回復するための助けとなっていた。流石に幾日も幾日も1人で化物をを狩り続けるのは無理があった。たとえ自らの肉体で殺さなくても。


 こうして苦しい時は終わり、楽しい時が訪れるのであった。そう、それは、潮の満ち引きのように。


◇◇◇


「波山君。いよいよだね!」


「そうだな。今日はどこに行く?明日もあるんだし程々にしておこうよ」


「うーんとね……3年1組の先輩達がやっているクレープ屋さんには絶対に行くでしょ?それと外でやっている大道芸大会を観に行くついでに焼きそばは食べておきたいし、チョコバナナに、トルネードポテト、ラーメンもありだよね」


「……」


「どうしたの?波山君?そんな惚けた顔しちゃってさ」


「……いや少し驚いただけだよ。この学校の生徒凄いね。よくトルネードポテトなんか作るよ。それと大道芸大会って何?」


「トルポテは専用のカッターがあるんだって。それを使えば簡単に出来ちゃうみたい。大道芸大会は3クラス合同でやるみたいだよ。なんでも被っちゃったけどせっかくだから全員で競い合おうってことになったらしいよ」


 クラスで嫌われ者の蔦根がどうやってそんな情報を手に入れたのかジャックには検討もつかなかった。だが、そのことに触れず、上手く聞く方法がジャックは思い付かなかった。ちなみにではあるが蔦根は文芸部に所属しており、そこの先輩達は蔦根にも優しい。蔦根はそんな先輩達から様々な話を聞いていたのだが、それをジャックは今後も知ることはないだろう。


「ふーん。そうなんだ」


「ねぇねぇ、本題は?」


「え?」


「さっきのって誤魔化したでしょ。だから本当は何を言おうとしてたのかなぁって」


 鋭かった。妙な間だけでジャックが作り話をしたことを見抜いた蔦根は凄まじく鋭かった。話したことはそこまで違和感を感じさせなかったジャックはファインプレーと称賛されてもいいだろう。ただ相手が一枚上手だった、それだけだ。戦いではないが。


「……本当に言っていいんだね?」


「大抵のことは受けいられるので問題はなし!波山君と私は頭の出来が違うからね」


「じゃあ言うよ」


「うん」


 ジャックは焦らしに焦らした。それは、試合パートが長々と続き一向に決着が付かないスポーツ漫画並みに長かった。だが、蔦根は苦言を呈さずひたすらに待ち続けた。


「…………そんなに食べると太るよ」


「……」


「……」

 

 言葉に詰まった。お互いに。蔦根はジャックがそんなことを言うとは全く想像もしていなかった。そもそも、男性が女性に対して言うべき言葉ではない。言うとするならばそれは、悪戯でしか愛情表現ができないような微笑ましい性格をした者しかいないだろう。


 だが、ジャックはそんなことを普段から言っていない。だから、蔦根はこのような不意打ちを食らったのだ。


 一方ジャックの方は顔が青ざめており、額には汗が滲んでいた。それもそのはず。ジャックの内心ではとても焦っていたからだ。普通女子にそんな言葉を投げかけるべきでないことはジャックも理解している。だが、今の状況で誤魔化すための言葉を思いつくことが出来なかった。だから、これは仕方ないことなのだと自分で言い聞かせていた。無駄であったが。


「ふ、ふーん……」


「な、なぁ……なんか、ごめん」


「……うん、いいよ……」


 歯切れが悪い返事をした蔦根はそのままジャックに背を向け自分の席へと戻って行った。そんな背中をジャックは罪悪感のこもった目で見つめることしか出来なかった。流石、隠キャ。


◇◇◇


「さて、今日は待ちに待った文化祭当日だ!」


「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」


「気合いが入ってるな!文化祭は二日間!今日は、身内だけで学校は開放しないが、だからこそ存分に楽しむことができる!精一杯楽しんでこい!」


「「「「「はい!!!!!」」」」」


「そして、喫茶店の経営もしっかりやれよ!目指せ最優秀賞だ!」


「「「「「任せてください!!!!!」」」」」


 今のクラスの状況はとても一体感があった。皆が文化祭開催を心待ちにしていたのだ。途中トラブル(主にKOH軍団のせいだが)があったがそれも乗り越えることが出来た。それにより、連帯感が生まれており、この状況での息のあった返事にそれが現れていた。


 そんな状況だから、皆が早く文化祭の開始を告げる放送を待ち望んでいた。いや、皆と言うのは違う。一名だけ、始まって欲しくないと思っている男がいた。


 ジャックだ。ジャックは先程の失言を悔いており、一緒に行動する蔦根と気まずくなったと思うと次第に気が沈んでいく。


 しかし、ジャックのそんな心配も必要がなかった。蔦根はその時に驚きはした。だが、さして怒ったわけではない。確かにジャックの言ったことは笑えないジョークだったが、それでも、蔦根自身の言動を振り返るとそう言われても仕方がないような気がしたためだ。そして、そんな蔦根は今は、ジャックと周るのに何処から行こうか決めかねている。


「どうする?これから……素直に謝るのは結構ありだがそれで許して貰えなければ面倒だ」

「いっそのこと逃げるか?……いや、これもありっちゃありだがなぁ……なんかしっくり来ない」

「それとも、教室で喫茶店の手伝いをフルでやるのは……せっかくの文化祭を棒に振るのはちょっと……」

「うむ……どうすれば」


 もっともジャックはそんな事は気づかず、これからどうしようか絶賛迷走中なのだが。普段のジャックならば素直に謝るのだろうが、相手は蔦根だ。なんか癪に触ると思い、そんな方法を取らないために理由を取って付けた。もっとも、本人はそれを認知しており、それすらも自分自身が後付けしたものだとは気付いていないが。

 

 そんなジャックの願いも虚しく、チャイムが鳴った。


◇◇◇


「じゃあ、波山君まずは焼きそばだよ!」


 そう言った蔦根の隣にいたジャックは当然、テンションが下がっていた。気まずいのだからそうなるだろう。蔦根はそれに気づいているがあえて何も言わなかった。蔦根も女なのだ。太ると言われたら少しくらいは心が傷つく。だから、そのままジャックに様子は放っておいて文化祭を巡ることを考えた。


「な、なぁ……」


「ん?なに?波山君?」


 だが、ジャックはこの雰囲気では居心地が悪かった。蔦根がわざと先の失言に触れないこの空気感が嫌だった。だから、言い淀みながらも最後まで謝罪の言葉を並べようと決心した。


「さっきは……その……ごめん……」


「いいよ!それより、早く行こうよ!さて、さっそく出店を周りに行こう!」


「お、おう……」


「返事が小さい!もう一度!」


「おう!」


 蔦根はジャックの罪悪感が薄れた安心した表情を見ると満足したように笑顔を浮かべ、隣に並んだ。蔦根の左手を見れば、心なしかそわそわしており、何かを握ろうとする仕草が見受けられた。


◇◇◇


「先輩!これ下さい!」


「狼讐さんか。400円だよ。ちょっと待っててね」

「おーい!コンソメ味一つ!」


「了解!」


「それより、狼讐さん。最近、部活に顔を見せなくなったけどどうしたn……なるほどね。応援しているよ!」


「あの、先輩。絶対勘違いしていますよね?まだ、そんなんじゃないですから」


「まだってことはいつかそうなる予定があるのかな?」


「むぅ!先輩、意地悪いですよ!」


「ハハハハハ!はい、トルネードポテトコンソメ味だよ。それより、そっちの子はいいの?」


「大丈夫です。それより、狼讐、何について話していたんだ?」


「なんでもないよ〜」


 先輩の弄りに少し赤面しつつも、ジャックに聞かれたことによりムキになる気持ちを抑え、そっぽを向いて食べ歩いた。耳が少し赤くなっているのにジャックは気付いていたが、どうしてそうなっているのか分からなかった。相変わらずの鈍感ぶりである。


「食べ終わるの早!」


 だが、そうしている間にも蔦根は食べ終わっていた。驚異的なスピードでありジャックは思わず叫んでしまった。


「波山君。グルメならば味わうのも大切だけど、やはり、一番大事なのは早く食べ終わることだよ」


「それグルメよりも大食い適正高くね?」


「ん?何かな?デブって言った?」


「違う!」


「フフフ、冗談だよ」


「目が笑っていないんだが!?」


「冗談って言ったら冗談だよ。いい加減にしないとしばくよ?」


「申し訳ない!」


 なぜか自分が謝ることになったので納得がいかなかったが、蔦根の目に殺意がこもっていたのを見るとビビって反射的に頭を下げていた。


「さて、じゃあ次行こっか!焼きそば、もんじゃ焼き、フリフリポテト、トルポテを食べたから次は甘いものに行こうか!」


「炭水化物のオンパレード!」


「ん?何かな?波山君」


 今まで食べてきた内容を聞いていると、共通点に気付いたジャックはツッコまずにはいられなかったが、そのせいで再び頭を下げることとなった。女って難しいとジャックは思っていたことだろうが、蔦根はそのことには幸いにも気付かなかった。


◇◇◇


 あれからチョコバナナ、リンゴ飴、ベビーカステラ、クレープを食べた蔦根とジャックは、グラウンドの中にある人混みに入り、芸を見て楽しんだ。見終わると、今度はクラスの手伝いがあるため、教室に戻った。


 文化祭は二日間あり、1日目は生徒が楽しむためのもので、2日目は都民も来る。東京都立第一高等学校は都立高校の中でも一二を争うほど学力が高く、部活動が盛んであるためとても有名だ。そんな学校が文化祭などの行事をやったら人が集まるのは当然のことだろう。そんな中で比較的に仕事が少ない初日にシフトを置けたのは幸運だ。


 手伝いと言っても、飾り付けが外れないかどうか見張ったり、ビラ配りをすることくらいなので何事もなく終えることが出来た。


 仕事が終わると蔦根はジャックに話しかけた。


「波山君。ちょっと屋上に来て」


 ジャックは無言の首肯を示し、決心した蔦根の背中について行った。



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