第二十一話
「うん?何かな?」
「お前……絶対わざと遠回りしているよな?」
蔦根はジャックに向かって悪戯な笑みを浮かべただけでそのまま歩き出した。
「おいちょっと待て!」
それで全て察した。なので蔦根に道案内をさせるために呼び止めた。しかし、蔦根は止まらず口角は釣り上がったまま楽しげに歩いていた。
「だから待てって」
だがジャックが蔦根の腕を引っ張った。その時蔦根は二つの意味で胸の鼓動が大きくなった。それはジャックに触れられたこと。そして触れられてしまったことだ。
「ちょっと……あんまり腕……引っ張らないで……」
「あ、ごめん……」
だからこそ自分がどうにかなってしまう前に、ジャックに気付かれる前に放してもらうように言った。ジャックは鈍感ではあるものの忘れっぽいような馬鹿ではない。だから片方の意味を察してすぐに放した。
「それで……何なの?」
「いや……とりあえず先生のところまで案内して欲しいんだが……」
「え!まさか波山君先生しか友達いなかったの!?」
「ハァァァ!?何で今その話になるんだよ!」
「大丈夫だよ波山君。これから友達なんていくらでも出来るよ……たぶん」
「だから何でそうなるの!?それと僕にはちゃんと友達がいる!」
「え!まさか脳内でそんなことを妄想するまで落ちぶれていただなんて……大丈夫。下げずまないから。私はあなたのことを」
「違うよ!マジでちゃんといるよ!あと、一瞬で矛盾してるじゃないか!なんだよ!落ちぶれたって言った側から下げずまないって!スゴイよ!自分の言ったことに責任を持ってくれ!」
「ん?」
「なんで分かんないんだよ!」
「アハハハハ……ヒィ……ヒィ……波山君ナイスツッコミ!面白かったよ」
「……こっちは少しも面白くない」
ジャックは不機嫌にそっぽを向いた。そして本来の目的を既に忘れ去っていた。
「仕方ない。私が先生の元まで送ってしんぜよう。感謝したまえ」
「あ……口調変だぞ。それに感謝しない。当たり前だ」
蔦根から言われたことによりジャックは思い出した。だが、謎の間がありそれを蔦根は疑問に思っていた。案内することを忘れて適当な道を歩く程だ。それを素直に信じてジャックもついていっているのは実に滑稽だ。
「あ!分かった!波山君さっき言い詰まったよね?」
「お、おぉ……」
ビクッと反応した。「まさか?僕がすっかり戻ることを忘れていたことに気づいたのか?」と。
「あれ私の可愛さに見惚れてたんだね」
気づいていなかった。
「違うよ。そんなことを考えるわけないだろ。それと早く案内してくれ。僕は戻りたいんだよ」
そうして迷子になって1時間でようやく動き出した。
「ねぇねぇそう言えば聞いたことないんだよね。波山君が引っ越してきた理由。こんな時期に引っ越してきたからには何か理由があるんでしょ?」
普通、人の過去を掘り返すのはあまり推奨されてはいない。だから蔦根の質問も場合によってはその人の地雷を踏み抜く恐れの高い抽象的なためタブーとされることだった。
事実、ジャックは返答に困りかねていた。母親の一件にも関わってくるがそれよりも契約によって正体は明かしてはならないことになっているからだ。
嘘を言って誤魔化すのも選択肢の一つに入っている。だが、嘘を吐き続けるのは難しいし何より嘘をつくたびに自分の心が抗う。心が苦しくなってくる。だから嘘をつくのは出来るだけやりたくなかった。ジャックは自分の心に正直でありたかったから。
「話したくないかな」
「あ!ごめんね、ホントに」
「いやそう言うのじゃないよ。だから大丈夫」
「ホントに?」
「うん本当」
「良かった〜あれ?でもそうなら答えてくれてもいいじゃん」
「いや答えられないんだ」
「ふーん。じゃあ私の過去を話します」
「いやなんで唐突に」
「話したくなったからだよ」
そう言ったと思ったら蔦根は制服の袖を捲って自分の腕をジャックに見せた。そこにはジャックが見た無数の裂傷があった。それを見たジャックは見た時のことを思い出したのもあるがその傷があまりにも痛々しく顔をしかめた。
「これね。先月に負った傷なんだ」
「痛そうだな。どうしてそうなったんだ?」
「先月に東京で起こった急な建物の大倒壊があったよね?その時についた傷なんだ」
先月起こった突発的高層ビル倒壊事件。これは建設会社の欠陥工事で起こった事故としてその建設会社の運営陣は起訴されており会社も倒産。さらには専門家の意見では既存の法律改正が行われ、最低無期懲役、最悪死刑になるとされている。
それもそのはず。この事件の死者は1082名。重傷者は58名。軽傷者が1名とされた重大事件だ。震災や戦争を除けば戦後もっとも死者数が多かった事件として連日報道されていた。表向きでは。
この事件の真相は覚醒した怪物因子を所持した怪物、メタルによって引き起こされ無数の建物が壊された事件でそれを解決したのはジャックだ。それを覚えているため苦虫を噛み潰したような顔をした。
「でもね、私は運が良かったんだ。ヒーローって言うのかな?その人に助けられたんだよ。だからこの程度の傷で済んだんだ」
「そのヒーローって誰のことだ?」
「黒いフードを被ったコートを着た人だったよ。性別は分からないけどね。もうそろそろで私の元まで建物が倒れてくるってところで急にそれが微塵切りにされたんだ。たぶんそれをやったのはその男の人だと思うんだ」
「そうか。良かったな」
「むぅ……さては信じてないなぁ?ま、私も他の人からこれを聞かされたら信じないと思うけどさ」
「くれぐれも他の人には話すなよ」
死ぬからとは言えなかった。
「あ!これ本当に信じてないなパターンだ!」
そうこうしている内に先生の元までたどり着いた。この対象的な二人の散策もここで終わることとなった。
蔦根……嘘つきだなぁ……。
まぁ今更だけど蔦根の名前の元ネタは分かるよね?人物じゃないよ?




