第二話
「俺様を倒すダァ?できると思ってんのカァ?」
体を乗っ取った名前も分からない存在はピエロたちの舐めたような口調に苛立ちを覚えそれを露わにして問うた。
「できるよー。うん、キミめざめたばかりだよね?じゃあかんたんだ。そもそもねんきがちがうんだよねピエロたちは」
「我とピエロはかなりの年月を現世で生きておる!それ故にかなりの力を蓄えることができた!」
「それに、貴方の体はだいぶ傷ついているのよねぇ。恐らくまだ怪物因子が適応し切ってないのでしょうけど」
1人は子供だと思われるような身長をした白塗りの化粧。いわゆる道化師のペイントが施された幼児、もう片方は顔が三つ、腕が三対のそれぞれ性別の違った声質を持つ、まるで阿修羅のような風貌をした人間と呼んでいいのか分からないような人間だった。
「そもそも、テメェらは誰なんだヨォ。俺様の元の知り合いカァ?」
ピエロ達の言ったことは図星だったようだ。だが、その事実を認めたくないのか話をすり替えた。
「たぶんはじめましてだよねー。じゃあじこしょうかいします!ピエロのこーどねーむはピエロ!ムクだったころのなまえはおぼえてないよ。のうりょくはテンブ!よろしく」
「ピエロ、コードネーム言う前にピエロって言ってるよ。僕のコードネームは阿修羅。能力は怨霊。よろしく」
「ねぇ、能力に関して説明してもいいの?あの子がそれをヒントにして戦って負けたらどうするつもりなの?」
「「あ。……」」
阿修羅の紅一点とも呼べる女性の顔を模した存在が、ピエロと阿修羅の若い男性に向かって苦言を呈した。それを聞いて2人は忘れていたと言わんばかりに口をポカンと開け間抜けな声を発した。
「まぁ大丈夫でしょ。だって彼弱いもん」
だが、阿修羅は先程のような間抜けな顔をすぐさま切り替え……ることはできずに妙に舐めた口調、舐めた態度で挑発をした。
「舐めんじゃねぇゾォ!」
男はその言葉に激昂し脇目も降らず阿修羅に向かって鎌を振りかぶり突進した。
「「「ピエロ」」」
「ガッテンしょうちのすけ!」
全ての顔の阿修羅がピッタリとあった息でピエロの名前を呼ぶと、まるで心でも通い合っているかのように阿修羅の言葉を聞く前に動いていたようで阿修羅に向かう男の前に立ち塞がり、既に外していた右手を鎖で繋がれた鉄球、モーニングスターで男が振った鎌を迎撃し、互いの武器が弾かれた。
「ホォ、なかなかやるじゃねぇカァ。しっかし、この肉体がまだ手中に収めきれてねぇナァ。上手く動かねェ」
己に言い聞かせるように自分の能力を語った。それは、本来はこんなものではないというように。
「え?まさかキミ、アシュラといっしょかい?」
「一緒ってどう言う事だヨォ」
「我と同一の可能性アリ!ならば、人格を叩き起こし、不完全な状態の内に事情聴取を完遂するのみ!」
「ア゛ァ゛?だからなんだって聞いてんだヨォ!」
質問を無視され、彼の短気な心では怒りを抑えきれずまたも直線運動によって攻撃を繰り出した。
「いかりでわれをわすれたらあたるこうげきもあたらなくなるよ〜」
しかし、そのような単調な攻撃はピエロに当たるはずもなく避けられ、いつの間にか左手もエストックに変わっておりそのまま突き刺された。
「グフッ……クソガァ……ウラァァァ!」
だが近接において身長差はディスアドバンテージとなる。当然、この場合においても適用され、男の身長は彼の体を使っているため170cmと決して高くはないが、身長100cmを超えているかどうかのピエロの身長差はあまりにも大きく、男が放った蹴りは吸い込まれるようにしてピエロの顎に当たった。かに見えた。
だが、怪物と狩人の戦闘において重要なのは決して身長でも体重でもない。重要なのは純粋な筋力、そして能力。近接戦闘においてピエロの脚力と腕力、そして能力である“天武”は無類の強さを誇る。男の蹴りを余裕を持って交わし、地を後ろに向かって蹴りつつ体を捻った勢いを利用してモーニングスターを男の胴に当て、骨を何本か砕き、男は壁に激突した。
「ウゥゥ……チクショウ……」
「もうあきらめなよ〜どうせキミではピエロにはかてないからさ〜」
「ねぇ、早くもう一つの人格の方に変わってくれない?私達も暇じゃないのよ」
「そうだな。この後パトロールが控えているからな。早く体を返してやれよ」
「クソッタレェ……この俺様がここまで醜態を晒すなんテェ……あっていいはずがないんだヨォ!」
男は体に黒い霧を纏った。それは、ポンチョと呼ばれる物だった。名前からは想像も出来ないほどに人の恐怖心を煽り、突如放った強烈な殺気と共に結果としてピエロは一瞬硬直してしまった。その一瞬が命取りとなり、前から発生していた霧を高速で移動し、そのまま横凪に鎌を振るうと、ピエロの右腕が宙を舞った。
「ふぅーん。それなりに強い能力のようだね。でも……怨霊!」
阿修羅が叫ぶと何もないところから異形の存在に似た化物が現れ、ピエロの右腕を掴みピエロの体と腕の接合部分として形状を変えた。
「ありがと、セーンパイ」
「チッ!なら、心臓を斬れば死ぬだロォ!」
男は体から更に霧を放出した。そこから、霧を刃の形で固体化させ無数にピエロへと放った。
「おうようりょくたかいね〜ピエロとはおおちがいだよ。ピエロののうりょくはたんじゅんすぎてそれいがいにつかえないんだよね〜」
ピエロは自嘲するようにそう言った。
かと思えばピエロは両腕の武装を解いたかと思ったら既に両腕には大楯が装備されており、男が放った無数の刃の嵐と言うべき物をその二つの大楯で体をすっぽりと覆い防ぎ切った。
「クソ!まだまだこんなもんじゃねェ……」
「ようやくたおれたか〜。うまれたてにしてはつよかったね」
「うむ!コイツならばきっとピエロのように長寿で任務にも耐え切れるであろう!」
「でも、この子の人格は少し凶暴すぎるわ。たぶん、狩人になるとしたらもう1人の人格じゃないかしら?」
「そうだな。生き残れるとしたらそいつ次第だな。ピエロ、コイツを運んでいけ」
「え〜、ピエロ、せんとうでつかれたんだけど〜センパイがやってよ〜」
「じゃあ先輩命令だ。それと、先輩というより上司だからな。僕は」
面倒くさがりな阿修羅はピエロに気絶した肢体の持ち運びを強制させた。
「はーい。セーンパイ」
「「「はぁ」」」
こうして、男とピエロの戦いはピエロの勝利に終わった。
男の右手には狩人のものとは思えない赤い血が流れていた。
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