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怪化物  作者: 平生
第二章
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第十八話

 ジャックの新しい高校生活から既に2週間が経過し全国的には梅雨が明け猛暑となっていた。彼は毎日朝8時10分の遅刻する寸前に学校に行く。理由は仕事が原因だ。


 彼の勤務時間は午後8時から午前8時。世のブラック企業よりもよほどブラックだと思う。夜勤なんか存在しない。通常、夜勤と呼ばれるようなものがあってもそれを夜勤とは呼ばない。異常ではあるが通常勤務と同じ扱いだ。これをジャックは少なくとも後約3年は続けなければいけない。


 昼夜逆転が起きるだろうか?いや起きない。彼はそこから学校があるからだ。授業が終われば宿題に取り掛かりその内に終わらす。そして先生が来ると同時にノートを広げることを7回分繰り返す。そして学校が終わったかと思えば速攻施設の自分の部屋でベッドにダイブする。このルーティーンが既に組み上げられていた。


 かなり異常な生活だがジャックはそれを甘んじて受け入れている。と言うのも二ヶ月間狩人として毎日12時間化物を狩り続けて分かったことがあるが学校とは素晴らしいものと言うことだ。それをジャックは立場が変わってようやく気づいた。


 週末になればジャックは宿題に取り組み自習をし夜になれば化物を狩る。遅れた二ヶ月間はとても大きく未だに勉強は追いついていない。だからこう言う努力を積みかさなければならなかった。といってもまだ2回しかやっていないのだが。


 そんな生活を送っているジャックに話しかける生徒はほとんどいない。


「ねぇねぇ、波山くんはなんでそんなに勉強しているの?部活にも入ってないんでしょ?」


 否、休み時間でジャックは勉強中で彼の空間を作っていたはずだがそんな空気お構いなしに話しかけてくる空気の読めない女子生徒が1人いた。


 ジャックは眉を顰め少々不機嫌になりつつもその問いに答えた。


「バイトをしているからね」


 これで終わりと言わんばかりに淡白ではあるもののそう答えた。


 と言うのもこのような光景は今回が初めてではない。空気の読めない少女、狼讐蔦根(かみかたぎつたね)がこのような質問をするのはこれで五度目だった。


 彼女もジャックと同じでクラスで一人で過ごすことが多かった。もっと言えば友達は一人もおらず陰口まで言われる程だった。


 なぜなら彼女の父親や母親、兄が中学の頃に不可解な失踪をした。それだけならば良かったのだが、彼女は前髪が目元までかかっており不気味で誰とも喋らず、喋りかけられても睨む始末だった。


 そんなことだから彼女がジャックに話しかける姿はクラスメイトからしてみればとても驚くことでそんな彼女があのような明るい口調、声質で話しかけることは想像もつかなかった。だから、その日の話題がそれで一色に染まり、その日の内に学校中に知れ渡るほどには驚いた。だが、今ではそのようなことにもなれて驚かなくなっている。


「ふぅん、そうなんだ〜バイトって何やっているの?」


「害虫駆除」


 ジャックのペンが止まっている。それに苛立ちを隠せず貧乏揺すりを始めてまでいた。この日の数学の宿題は何かと多く、今日の彼には余裕がなかった。それなのに話しかけてくる蔦根に苛立つのは至って普通のことであろう。


「てかさぁ、なんで毎日宿題やってるの?」


「時間がないから。家ではゆっくり過ごしたい」


「そんなの誰かに借りればいいじゃん」


 ジャックはそんなことを言った蔦根の顔を初めて見た。その時の表情は信じられないものを見るような、まるで彼が化物や怪物を見る時のような、そんな表情だった。


 ジャックの価値観では学校とは素晴らしいもので先生も基本、素晴らしいものだと言う価値観に変わっている。そんな先生が出す宿題も当然、素晴らしいと考えているため、誰かのを写すという行為はあり得ないものだった。そんなことを何事もないように言ってのける蔦根はひどく醜悪に見えた。


「例えば……私……とか?」


「なんで?」

「なんで自分の努力を他人に掠め取られるようなことを平気にすることができるの?」


 ジャックの言い回しは妙であった。そうとしか言いようがないほど異質な問い方をしていた。


「ん?」


「僕がん?って聞きたいところだよ」


「えぇっとね……クラスメイトだから?」


「意味がわからない」


 そう呟くとジャックはペンを動かし、宿題の取り組みを再開した。


 蔦根は落胆したがこれ以上話しても好感度が下がるだけだと思い、そのまま次の授業の支度をした。


◇◇◇


 ガチャリ


「誰だ!?」


 大柄の男が女と子供を守るようにして前に立ち、近くにあったトンカチを握りしめた。


「コヒッ……ククク……カーッカッカッカ!ハッパァ!ハッパを出せよぉぉぉ!」


 入ってきた男はフードを被っており、男が顔を伺おうと見てみたが分からなかった。何故ならその顔にはマスクとサングラスが付けられていたからだ。その男の右手にはナイフがあった。


 だから、男が明らかに害意を持っていることは分かった。それどころか、精神異常すらもうかがえた。


 叫んだ異常者は男へとナイフを振りかぶり襲いかかった。だが、その動きはあまりにも拙く、容易に避けることができ、トンカチを異常者の顔面へと叩きつけた。すると異常者はそのままドサリと倒れ込んだ。それを一瞥すると女の方へ振り返った。


「あなた!大丈夫なの!?怪我はない!?」


「あぁ大丈夫だ。だが、これだと正当防衛は認められないかもしれない。もしその時は、私達の子供を頼むぞッ!」


「ケヒッヒッヒッヒ!楽しいィィィィ!」


 男が言い終わる前に、背中に向かって異常者がナイフを刺した。その声からは心の底から愉悦を感じていた。そんな声を聞いた子供は奇妙なものでも見るような顔をしていた。


「に……げ……ろ……」


 そう言い残した男は手に持っていたトンカチを落とした。


「逃げなさい!早く!」


 女は子供にそう言い聞かせるように叫び、背中を押して強引に進ませた。自分は残って少しでも足止めするために。


 だが、子供は立ち止まり呟いた。


「これじゃない」


◇◇◇


「おい。起きろー。珍しいなお前が寝るなんて」


「……」


「まだ寝足りないのか?」


「……いいえ大丈夫です」

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