第十二話
「餓鬼が!粋がってんじゃ……グッ……ねぇぞ」
メタルのダメージはとても大きくしばらくは怪物化することができない。だが、そのような無様な姿を己の矜持が許さず、負け犬の遠吠えを発してしまった。実に滑稽である。
「え……なんで人の姿?」
「ア゛アァ?何……言ってんだ……当たり前……だろぉが……」
「え?」
「そもそも……怪物と狩人はどっちも一緒だ。違う、のは……国の犬に成り下がったか否かだぜ?」
「つまり、君も人間なの?」
「実質な……もういいだろうが。早く殺せよ。趣味悪りぃぞ……」
「……」
ジャックはメタルから聞かされるまで狩人=怪物だと言うことを知らずに過ごしていた。いや、あえて知ろうとはしなかったし考えることすらしなかった。本能では一緒だろうと言うことには感づいていただろうがそれを理性がコントロールしていた。
だが、聞いてしまった、人間の肢体を見てしまった今、その認識もダムの放流の如く怪物の情報が一気になだれ込み、ジャックの思考を埋め尽くした。
「まさか……見逃すつもりじゃぁないだろうなぁ?ふざッ、けんな……」
ジャックは人間を殺したと言う感覚を感じたことがない。そして、その決意もない。現代では戦争もないし、特に平和な日本では暴力を振るったことすらない人も多数存在するだろう。そんな環境で育って来たジャックは覚悟と呼べるようなものは存在せず、中途半端な使命感で今まで化物を屠って来た。
幸い、化物は人間ではないから罪の意識に苛まれることはなかったが、人を殺す覚悟を決めるには強い意志が必要だ。中途半端なそれでは決意を固めるには至らずかと言って、ここで逃すと言う選択肢は彼にはない。だから、メタルを放置し立ち尽くす最悪な手段に走った。
「さっきのクソ道化師に任せんのか?俺の介錯を。ハッ!とんだ腑抜け狩人がいたもんだなぁ!……ググゥゥ……」
「……」
「なんか言えや!」
メタルのダメージはまだ癒えない。しかし、このままでは時期に治ってくるだろう。それはジャックも分かっている。だが、彼は未だに迷っている。覚悟が定まらない状態でいる。
だが、過去を清算している状況なのだ。それを直ぐ様片付けるのは人としての厚みも底が知れている。熟慮は短慮より失敗をし辛いだろう。何故ならそれは石橋を叩いて渡るような慎重さを常備しているからだ。
だが、それを権力者に求められていない。権力者に求められるのは即断即決、それでいて失敗をしない完璧超人のようなことを求められている。つまり、短時間で長考できる短慮と熟慮を掛け合わせたような存在を求めているのだ。
実力も権力の内である。つまり、一般人からすれば立派な権力者であるジャックに、その実力は見合っていない。覚悟もない権力者、精神が幼い実力者ほど質の悪いものはいない。つまり、ジャックはどうしようもない屑ということである。
「……僕は……」
「あ゛?」
「僕は……君を殺さない……殺せない……だから、君を狩人連合組合に連行するよ……」
「マジかよ……施設に連れて行くのかよ……一生使い潰すってそれは狩人も一緒か。まぁいい。連れて行くなら早くしろ。気分が悪りぃ」
「あぁごめんね!」
ジャックは底抜けの馬鹿だった。怪物の言うことを聞くような馬鹿だった。そして、彼は現実から目を背けたかった。だからメタルの傷が癒えていることにも気づかなかった。いや、それは間違いであろう。たとえ、メタルの回復を目の当たりにしたとしても見て見ぬ振りをしたはずだ。
彼はメタルに不用意に近付いた次の瞬間には腹部を鋼鉄化した腕で貫かれていた。
「ゴプッ!……」
「怪物は疑ってかかれって先輩から言われなかったか?そんなんだから俺にすら殺されるんだよ」
そう言って引き抜くと真っ赤な鮮血が周囲へと飛び散った。同時にジャックは支えを失ったように倒れ伏した。
◇◇◇
「おイ!俺様の力を使っていながらなんで負けているんダァ?」
「ふざけんナァ!」
「もういいよ。僕は死にたいんだ。死ねば迷わなくていい。死ねば知る必要もなくなる。そんな世界はハッピーじゃないか。ならば僕は喜んで死ぬよ」
「ア゛ァァ?お前が死ぬことはこの俺様が許さネェ!お前と混ざることなんざごめんダァ!」
「混ざる?なんだいそれは?」
「テメェはそれを知る必要はネェ。俺様に体を明け渡せヤァ!」
「君に渡したら僕は君が外でやることに憂う必要がある。そんなのは嫌だ」
「わがまま言ってんじゃネェ!」
「仕方ネェ……テメェのために動くなんざ癪だガァ、やってやるヨォ。いいゼェ、テメェが望むことをやってやルゥ」
「本当かい?」
「アァ本当だ。ま、テメェじゃあ分かんねぇだろうがナァ。1分間体を明け渡セェ。そしたら叶えてやるヨォ。」
「ならお願いするよ」
「契約成立だナァ」
◇◇◇
「さて、ブレードの加勢にでも行くか。アイツ一人じゃピエロに勝てないだろうからな」
「ん?」
メタルが異質な気配を察知しジャックの肉体を見ると、そこには鮮血に塗れた敗北者はおらず、数々の修羅場をくぐり抜けて来た歴戦の猛者が立っていた。
「さテェ、俺様は優しいからナァ、アイツの真の願いでも叶えてやるカァ。ケヒッケヒッヒッヒ」
口角を不気味に吊り上げ悪魔のような笑い声を上げると、メタルの目からはその体がブレたように見えた。




