第十一話
ジャックが無垢の少女に襲われ重傷を負ってから早、一月が経過した。彼が襲われてから1週間は安全性を考慮することと本人がトラウマとなってしまったがために休息を取ることとなった。だが、人手不足が深刻な狩人には余裕がなく1週間が経過すると強制的に復帰させられることとなった。
真面目なジャックは仕事をこなしながら心身の回復に努めた。その間少女は襲って来なかった。一月が経過すればピエロも戻って来てジャックとコンビでパトロールに当たることとなった。
「ジャッくんだいぶつよくなったね〜」
「そうかな?」
「うん。アシュラからきいていたはなしとはぜんぜんちがうよ〜」
「そりゃそうだよ。だって初日以外は阿修羅さんとは別行動だったんだもん」
「ん?ジャッくんいまなんていった〜?」
「阿修羅さんとは別行動で化物を狩っていたんだよ」
「あとでアシュラはしばくか〜」
「なんで阿修羅さんを?」
「カリュウドはふたりひとくみでこうどうするのがきほんなんだよ〜だからべつこうどうすることなんてあるわけないんだよ。ジャッくん、ひとつきにあいだにカイブツとはであった?」
「ううん。出会ってないよ」
「じゃあしばくね。ジャッくんもみてるといいよ。かえったらけっこうするからさ」
「いや、不味いよ。だって僕達の上司なんだよ?」
「ジャッくん……カリュウドというしょくぎょうにはロウドウクミアイなんてないんだよ?カンリシャにチクったってゲンジュウチュウイしてもらうのがげんかい。ならば!ピエロたちのてでテンバツをくだせばいいんじゃないかな〜」
「そうかもしれない」
「フフン、そうであろうそうであろう」
完全にピエロのペースにジャックが乗せられてしまった。彼にはピエロの言っていることが全て正しいと思ってしまったのだ。明らかに阿修羅が尊敬できないのが原因と化している。それもそうだ。阿修羅はジャックと別行動を取ってからはまともに仕事をしていないのだから。デパ地下に行って美味いものをひたすらに食っているのだから大人としては終わっている。立派な社畜には阿修羅に向いていないというのもあるが、それを抜きにしても人間性を疑う。
何より質が悪いのが彼が公安ないしは国が保有する狩人の中で最高戦力であることだろう。管理者は阿修羅の勤務態度を知ってなお見逃しているのだ。大事な時に働けばいいと言う一心で。
「まぁそんなことはいいや。とりあえずパトロール再開しよっか」
「うん。ピエロ君仕事が終わったら何する?」
「う〜ん……しばくのはかくていだから、ごはんでもつくってしんぜよう〜」
「おぉぉ……」
「ひさしぶりにもどってきたからね。きょうはホッカイドウでおぼえてきたりょうりをつくってあげるよ」
「やったぁぁぁ!!!」
「そうときまればしっかりしごとしないとね」
「うん!」
◇◇◇
空は橙色に染まり日もそろそろ落ちる頃合いとなった。
「オッケー。けっこうたおしたね〜」
「うん!20体くらい追加で出現した時はどうなるかと思ってヒヤヒヤしたよ。ピエロ君の援護がなかったら危なかったよ」
「まぁいちおうセンパイだし〜」
「じゃあ次の場所で最後にしようよ」
「わかったよ……まって!いま、いっしゅんしせんをかんじた」
「え?僕は何も感じなかったけど。気のせいじゃない?」
「いいや、ピエロたちをだれかがみたよ。それもふくすう」
「え、でも……うわぁ!」
ジャックは情けない声を上げた。そして後ろから刃物が飛んできたのでその方向を向いて見てみるとそこには赤く染まった刃物を纏う存在と、金属で覆われた体を持つ人型の2種類が並んで立っていた。
「カイブツだ!ジャッくん、カリュウドとしてしまつするよ!」
「う、うん」
「ピエロが……ブレードでいいや。ブレードとたたかうからジャッくんはメタルとたたかって!たおしたらすぐにかせいするから!」
「わかった」
ピエロは人間の姿から狩人へと変化すると両手を取り外し、代わりに銃口を差し込みCN:ブレードに向かって連射した。
「なに!ナイフをぜんしんからだしてはじいただと!?でも、そのていどじゃピエロにはかてないよ!」
両手に取り付けられたアサルトライフルを外すと今度は、リッパーと因縁の装備であるモーニングスターを取り付けブレードに向かって投げつけた。
これでは敵わないと思ったのかブレードは退却をしたことにより、アドレナリンが放出されているピエロはメタルとジャックを置いていき追跡を始めた。
「ピエロ君に任されたんだ。僕がお前を倒す!」
「……」
「何処に行った!?グハァ!」
ジャックが狩人になり霧を放出している間にメタルは周囲の壁を利用して跳び上がり、ジャックの頭上へと到達するとそのまま重力に身を任せ位置エネルギーを最大限に利用した自由落下を行い奇襲を仕掛けた結果、ジャックはモロに喰らってしまった。ただの人間にぶつかられても少なくないダメージを負う高さから鋼鉄が落ちて来たのだからその威力は言うまでもない。
「クッ……まだ、まだ!」
しかし、それは無垢の場合の話だ。狩人であるジャックにとっては大ダメージではあるもののそれが死に直結するようなことはなかった。
「ハァァァァ!」
霧の力を最大限に利用し加速するとそのままメタルの体を打撃していった。ジャックも馬鹿ではない。鋼鉄を殴ったらどうなるかくらいはちゃんと頭で考えている。メタルの全身を覆う鋼鉄に一箇所でも他より柔らかいところがないか調べるための攻撃だ。だが、それを見つけるには至らずジャックの拳は両方とも砕けてしまった。
「痛い……でも、僕がやらなきゃいけないんだァァァァ!」
気合いで痛みを振り解き既に再生を始めた腕を使い、メタルへと渾身の一撃をくらわせた。その一撃は人間の急所でもなんでもなく、骨張った部分を殴った。だからこそメタルは肋のある部分には顔や心臓部、股間よりも数段劣る防御でしか守っていなかった。結果思いを乗せた普段のジャックでは出せない限界を超えた一撃によって決して軽くないダメージを与えることに成功した。そして、メタルは吹き飛び、ビルの壁へと激突することとなった。
「ゼェ……ゼェ……どうだ。やったか?」
明らかなフラグを建築した本作の主人公だったが期待を裏切り、土煙が晴れた先には先ほどまで曇りすらなかった金属の体はなく、人間の肢体を持つ変わり果てた姿で倒れていた。




