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第五十一話 前編

俺は真っ直ぐにアダムを見据える。

魔力を消費させ続けたことが功を奏してか、呼吸の一つ一つが大きくなり、少しずつ疲れの色が見え始めている。

だが、それでもアダムから感じる魔力は俺の数倍、いや数十倍にも及ぶ。手数で勝負したところで、低い魔力では歯が立たない。

だったら、一撃に最大の魔力を乗せるしかない。

問題はその隙を作らせてくれるかどうか。

「アダムの気を引けばいいんだろ?」

来栖は弾丸を込め直しながら言う。

「俺とゾルでなんとかする。だから、お前はアダムのコアを破壊することだけを考えろ」

「仕切ってんじゃねェよ。だが、その案は乗ってやる」

俺の前に立つ来栖とゾル。

来栖はだいぶ息があがり、途切れかける意識を無理やり繋いでいるようにさえ見える。

切り落とされたゾルの左腕は出血が止まることはなく、ぽたぽたと血が滴っている。

もう限界だ。俺もこいつらも、もう長くは戦えない。

「これで最後だ。頼む」

「先にくたばんじゃねェぞテメェら」

「お互い様だろ」

ゾルは大きく踏み出し、アダムに接近する。

ゾルに向けて構えられたアダムの腕。しかし、来栖の弾丸がその腕を弾く。

「空波・裂空!」

ゾルが伸ばした手を横に振ると、風の斬撃が発生し、アダムの腕を切り裂く。

しかし、切り裂かれた腕はすぐにくっついて再生してしまう。魔力が本体なんだ。あの身体に傷をつけたところで意味などないのだろう。

それでも、回復に魔力を消費している。少しずつでも魔力を消費させ続ければ……。

「空波・打空!」

拳に纏った風の魔力をアダムに直接打ち込むゾル。しかし、黒い魔力の壁に阻まれる。

「やべェッ」

「近付きすぎんなよ」

来栖が放った弾丸はアダムの頭に直撃し、反撃を許さない。

「特注品をくれてやる」

来栖が構えた銃が青白く光る。

「銀の弾丸シルバー・バレット

電磁砲のような光を放ちながら加速する白い弾丸。それは、アダムが作り出した黒い魔力を貫通し、紙一重でアダムは弾丸を躱す。

アダムの表情が明らかに変化した。動揺と驚きを孕んだ顔だ。

「陽魔法を込めた弾丸だ。魔力の壁なんて意味ねえよ」

「おいテメェ!んなもん持ってんなら最初から使えや!」

「数が少ねえんだよ文句言うな」

来栖が魔法を使えるなんて話は聞いたことがない。一体どこで……いや、今はいい。あれがあれば突破口は切り開ける。

アダムが両手を構える。が、ゾルがすぐさま風の衝撃波でアダムの体勢を崩す。

「させるかよ」

ゾルの斬撃をアダムは跳躍して躱す。足元の床が崩れる。

土煙があがり、視界が悪くなる。

今だ。アダムから俺の姿が見えない今こそチャンスだ。

幸い、この廊下は直線だ。真っ直ぐに魔力を放つだけでいい。

火を灯していたタバコを思いっきり吸い込む。

俺の意図を察知した来栖は再度弾丸を込める。

「銀の弾丸シルバー・バレット

螺旋状に回転する弾丸は周囲の土煙を巻き込み、アダムに直撃する。少しだけ晴れた視界からアダムがバランスを崩したのが見えた。

コアからの魔力の流れを感じろ。必要な魔力だけを抽出しろ。魔力を研ぎ澄ませ。

ここで、決める。

「禁呪『神罰の煙』」


その煙は吐き出されることは無かった。

俺の正面に女の子が立っていた。

アダムを庇うように、視界の先でこちらをじっと見ている女の子。

ブロンドの髪を靡かせ、両手をいっぱいに広げている。

口内に溜めた魔力をぐっと飲み込む。

「うっぐっ……」

喉が焼ける。腹の奥が引き裂かれるような感覚だ。

飛ばされそうな意識を必死に繋ぎ、彼女を見る。

「アイ…シア……」

名前を呼んでも反応はしない。

ただ虚ろな目でこちらをじっと見ているだけだった。

「あいつ、やっぱり敵なんじゃねェか」

ゾルは吐き捨てるように言う。

息を切らして近付いてきたアリスは、俺のボロボロになった服の袖をぎゅっと握った。

「ごめん、なさい。ごめんなさい。説得、出来なかった」

涙をこぼすアリス。彼女の腹部からはおぞましいほどの量の血が溢れ出していた。

「アリス!何があった」

「あの身体の中に、アイシアはもう居ない。あの子の中に、あの子の魔力はもう、残っていなかった」

そう言われて気付く。

アイシアから感じられる魔力はアダムから感じるそれと同じものだった。

神の魔力。アイシアが愛理に傷を負わせた時と同じ、禍々しく黒い魔力。

「ふ、ふははは!今更気付いたのか?このエルフはもう儂の手駒。儂の命令にのみ動く神の遣いじゃ!」

この事態を想定していなかったわけじゃない。アイシアの身体にアダムと同じ魔力が、血液が流れていると知ってから、不安はあった。

だが、それは最悪の形で実現してしまった。

「アイシア!」

そう名前を呼んでも答える声はない。それが、俺たちの知っているアイシアはもう居ないという現実を俺たちに突きつけた。

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