12:50
それを聞いて少年がますますむきになったのは
言うまでもない。
「人と話すときは、まずベールを脱げよ」
ぶが悪いと思ったのか、
言いがかりのような角度から攻める少年。
おいおい、インドの女性にベールを脱げと
言うのは、衣服を脱げと言ってるような
ものじゃないのか!?
彼女は逡巡するようにしばし少年を見つめた後
ベールを手で上げるような素振りをすると、
その動作に合わせ口元に浮かんだベールが
ハンカチーフのように空中を漂っていった。
脱ぐのね。
最近はインドもグローバル化が進んでいるようだ。
流されるように浮かんだベールが徐々に
大気に飽和し溶けるように消えていった。
オーロラが消えていく瞬間はきっと、
こんな感じなんだろう。
アラジンの魔法がとけた先には、
飴細工のように繊細な美女が顕現していた。
黒糖で出来た飴細工。
その美しさにしばし言葉を失ったのは、
僕だけではなかったようだ。
床に座り込んだままの少年もしばし、
言葉を失っていた。
そんな魔法を冷ますように、
遠くから声がかけられた。
「ユソン、ダメだよ」
そう言ってこちらに駆けてくる小太りの少年がいた。
皮下脂肪が子豚のように可愛く揺れていた。
それを見た女性が小さく呟いた。
「西遊記・・・」
猪八戒と孫悟空!?
彼女の例えは、えてして言いえているが、
ただ僕が沙悟浄でないない事を祈った。
こちらに駆けて来る猪八戒もとい、
少年を見ていた孫悟空もとい、盗人が呟いた。
「ちっ!フーゴか・・・」
そう言っておもむろに立ち上がった少年に、
駆けて来た少年が話しかけた。
「ダメだよユソン。謝って」
「なんで俺が悪い前提なんだよ!」
「違うの?」
そう言って見つめる少年に、
盗人少年はぶが悪そうに言った。
「わかった、わかった。
謝ればいいんだろ!
悪かったよお姉さん。
それにそっちの兄ちゃんも」
そう言うと少年は、
小太りのフーゴと呼ばれた少年を引っ張って、
駆け去っていた。
「まって僕、息があがって・・・
ハーハーハーハー 」
引っ張られる子太り少年は息が上がって、
可哀想なくらいふらふらで引っ張られて行く。
いつの間にかそんな僕達の一連の騒ぎは、
周りの人の注目の的になっていた。
そんな様子を遠目に見ていた金髪の美少年が
呟いた。
「地球の重力に捕らわれた人間の
有り余るエネールギーは、
この宇宙では暴走するのか。
・・・・・・興味深い 」
そう呟いた少年の名はゼノライズと言う。
【ゼノライズ・シュタビナイザー】
●月面都市出身。
●15歳。
●趣味、人間観察。
『ゼノライズくん、1点減点』
そう呟いたのはこちらも金髪の美丈夫ならぬ、
金髪の美女フェミナルである。
【フェミナル・F ・イーシャン】
●フランス出身。
●15歳。
●趣味、読書。
そんなやり取りを見ていた細身の背広紳士が
、二人のやり取りに割り込んだ。
「山猿に宇宙は早すぎたみたいだね」
そうキザっぽく言ったのは、
こちらも金髪のマッシモである。
【マッシモ・ヴァレンティーノ】
●イタリア出身。
●15歳
●趣味、ナンパ。
『マッシモは減点3』
そう言われたマッシモは慌てて弁明する。
「えっ!?
3点って酷くないですかお嬢様。
こいつが1点で、なんで俺だけ3点」
『聞きたい?』
「教えて頂けますかお嬢様」
『顔かな』
にっこり笑顔で答えるお嬢様。
「顔で減点って、お嬢様はS級。
まあそこも魅力的なんだけどね、お嬢様は」
『マッシモ減点6』
「ノ─────────!?」
頭を抱え本気で落ち込むマッシモ。
そんなマッシモにお嬢様が救いの言葉をかける。
『10点たまったらお仕置き』
にっこり笑顔で優雅に美しく。
「お仕置きって・・・ 」
イタリアの血がそうさせるのか、
マッシモは目を輝かせ華麗に復活した。
「お嬢様のその愛、
かならずこのマッシモ受け止めてみせます」
ポジティブなのか変態なのか。
多分後者だろうが、このマッシモ黙っていれば美丈夫で通用するのだが、喋ると全てを大暴落させる残念な人である。
そんなマッシモの目の端に、ロービーを
駆けて行く二人の少年の姿が一瞬映ったが、
すぐに興味を無くしてしまった。
この好色少年の目に映るのは、
麗しき女性達の織り成す、
美しき世界だけだった。