表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙漂流記  作者: 夜神 颯冶
時は遡ること数時間まえ
10/17

 

 

外の男はふっと笑うと、(あわ)てるでもなくこう言った。


「おっぱいを見せてくれたら開けてやるよ」


冗談(じょうだん)とも本気ともとれない口調(くちょう)で。


そんな悠長(ゆうちょ)な会話をしている余裕(よゆう)がない(ほど)に、

シャワーの温度は上がっていた。


「ふざけないで!」


肌に針を()()したような痛みが、

これは夢でない現実リアルだと警告けいこくしていた。


夢を凌駕(りょうが)した現実的リアルな痛みに何も考えられず、

ただ本能だけがここから逃げなければと、

体を突き動かした。


扉に体当たりするが、一向いっこうにドアは開かなかった。


すでに前を隠す余裕(よゆう)などなく(わめ)いていた。


「開けて、お願い、開けて!」


この時よくよく考えれば、

おっぱいを見せているのだから、

男は約束を守り扉を開けるべきなのだが、

男はそんな約束を守る気など、

始めからなかったようだ。


この時のキャロンドに、

それを指摘(してき)するほど余裕(よゆう)はなく、

ただただ狂ったように扉を叩くだけだった。


そんな彼女を嘲笑(あざわら)うように、

無機質(むきしつ)機械(きかい)の音声が流れ出した。


【火災確認】


【火災確認】


【生体認証開始します】


【確認終了/無人】


【ただいまより真空消化を開始します】


その音声が終わると共に天井の一角が、

ブラインドのように開き、

(いきお)いよく空気を吸い込み始めた。


途端(とたん)浴室(カップセル)水滴(すいてき)一斉(いっせい)蒸発(じょうはつ)し、

白霧で彼女の裸体(らたい)をかき消した。


同時にそれまで響いていた雑音(ざつおん)や彼女の声も

薄れていく。


必死で扉を叩き叫ぶ彼女の声や音が、

扉の外の男の耳に聞こえることはなかった。


完全に無音(むおん)の世界になった浴室は、

やがてたちこめる白煙も吸い込まれてゆき、

浴室(よくしつ)の中は逆に、

雨上がりの朝のように透明(クリアー)になっていった。


蒸気(じょうき)が吸い込まれ透明になった扉の前に、

彼女の影は無くなっていた。


キャロンドは意識を(うしな)い、浴室で(くず)れおれていた。


無音(むおん)になってゆく浴室で数十秒、

彼女は灼熱(しゃくねつ)の真空に焼かれ、

(もだ)え苦しみながら意識(いしき)を失ったのだった。


それもキャロンドの体感時間であり、

実際(じっさい)には数秒で彼女は意識(いしき)消失(しょうしつ)し、

その場に(たお)れていたのだが。


浴室の中には(みにく)(ふく)れ上がった肉の(かたまり)と、

眼球の片方が飛び出した、原型(げんけい)をとどめない、

何かの遺体(いたい)が残されているだけだった。



室内の扉が静かに開き閉まる音が、

本当に無人になった室内に(ひび)いていた。


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ