婚約破棄中に思い出した三人。~恐らく私のお父様が最強~
ぱっと思いついて、勢いで書いたものです。
楽しんでもらえたら嬉しいです。
「リリア・ティモシー公爵令嬢!本日をもってキミとの婚約を破棄する!」
私のこれまでしてきたマリア男爵令嬢に対する嫌がらせを、私の婚約者であろう王太子殿下エドモンド様が告発され、そして高らかに婚約破棄を宣言されました。
エドモンド様の横にはマリア男爵令嬢が瞳いっぱいに涙をためてこちらを見ておりました。
そう。
先ほどまではエドモンド様は堂々と、マリア様は瞳いっぱいに涙をためて、そして私リリアは顔を青ざめさせておりました。
ですが、何故でしょうか。
会場内にまるで雷が落ちたかのような衝撃が、走ります。
まず最初に動いたのは、私の婚約者であった王太子殿下のエドモンド様です。
先ほどまでは大切そうに、それは大切そうに腰に手を回していたマリア男爵令嬢から、すっと手を放して距離を、そう、ごく自然な様子で、すっと取られました。
次に動いたのはマリア男爵令嬢です。
彼女は涙をひっこめると、青ざめた顔で王太子殿下のエドモンド様から、さらにすっと、そうすっと一歩後ずさると、視線を泳がせて会場を見ております。
私はハッとして、やっとのことで頭を回転させてどうにか体を動かすと、二人の前で頭を下げて申しました。
「わ・・・私は、してはならないことをしてしまったのですね。申し訳ござい」
「ちょっと待て!」
「ええ!ちょっとお待ちになって!」
私が最後まで言い切る前に、王太子殿下のエドモンド様とマリア男爵令嬢が慌てて口を開き、驚いた様子でお二人とも顔を見合わせております。
マリア男爵令嬢は、王太子殿下エドモンド様の言葉を遮るのが失礼にあたると気づいたようで黙ると、エドモンド様が、会場にいた皆に、青ざめた顔で言ったのです。
「な・・・なーんてね。ちょっとしたドッキリだよ。卒業パーティーの余興さ。皆、信じたかい?」
え?え?なんでそんな事を言い始めたのですか?
会場にいた皆の顔がドン引いています。
ですが、この会場にいるのは、卒業生である三年生達だけの、いわば身内だけの状態なのです。
先生方はまだ集まってはいませんし、卒業生である三年生達は、青ざめた顔ながらに、このままではいけないと察したのか、次々に声があがりました。
「な・・・なぁんだ。殿下もご冗談がすぎる。」
「は・・はは。驚きましたよ。」
絶対に信じてはいないが、とにかく場を収めるための言葉が次々に聞こえ、そしてエドモンド様が私の方へと近寄ってくると手を差し出して言いました。
「リリア嬢。と・・とにかく一度・・・向こうで話をしてもいいかい?」
青ざめた顔で殿下にそう促され、私も頷き返しました。
マリア男爵令嬢はその様子にプルプルと震えています。
「あの、マリア男爵令嬢は?」
私がそう尋ねると、エドモンド様はマリア様をすっと視線を向けて、マリア様がその視線をすっと避けました。
何が何だか分からない状況に、エドモンド様が口を開きます。
「マ・・・マリア男爵令嬢も、一緒に来てくれ。」
「ひゃ・・・ひゃい。」
「皆、私の今回の冗談は、あまりうまくなかったようだ。なので・・・他言無用で頼む。」
静かに、会場にいた皆が頷くのが見えました。
一体何がどうなっているのかは分からない状況のまま、私たち三人は別室へと向かい、そしてソファに腰掛けると沈黙が訪れた。
人払いがしてあり、数名の騎士が扉の前で待機している状態である。
私たち三人の視線が合ったり反らしたりを繰り返し、そして、エドモンド様が口をゆっくりと、それはもうゆっくりと開きました。
「私は・・・先ほど・・・白昼夢を見た。」
その言葉に、私は息を飲み、マリア男爵令嬢も目を丸くします。
「わ・・・私もです!」
「私もです!」
私とマリア男爵令嬢の声は重なり合い、三人して顔を見合わせてしまいます。
エドモンド様も、マリア男爵令嬢も、私も、その瞬間にまるで栓が抜けたかのように喉からどんどんと言葉が溢れてきます。
「私が見た白昼夢では、リリアと私が婚約破棄をした後に、国が亡びるという物だ。」
「あ、私は、国が亡びるとなって逃げようとしたら盗賊に捕まって・・・酷い・・事に。」
「わ・・私は、婚約破棄をされたショックで病に伏して・・・そのまま。」
「ちょっと待て、少し、記憶を整理しよう。」
「ええ。」
「一体どうして国が亡びる事態に?」
私たち三人は、事細かに覚えている事を話しあい、そして、夢を繋げ合わせ、そして一つの結論に至りました。
恐らく、国が亡びた原因はこの婚約破棄にあると。
国が亡びる原因となったのはそもそもこの婚約破棄によって私のお父様が激昂された事が背景にあるようです。そこから他の貴族らと父は共謀、その後に反乱となり、そして国が亡びる事態にまで発展してしまった。
私のお父様恐ろしすぎませんか。
エドモンド様もマリア様もそう思ったようで、私から一歩距離を取りました。
解せぬ。
「と・・・とにかく、これからの事について話をしよう。」
殿下の一言に、即座にマリア男爵令嬢がその場に頭を下げられました。
「ももももも申し訳ありません。そもそも男爵令嬢の私が不躾にも殿下に近づいたのが事の発端。私は領地へと引っ込みたく思います。」
内心、あ、逃げたなと思った。
だが、その言葉にエドモンド様は乗っかる事にした様子であった。
「あぁ。私もそなたに近づきすぎた。婚約者があるのにもかかわらず。」
「いいえ。私が悪いのです。一時の夢をありがとうございました。失礼いたします!」
恐らく、これ以上ここにいていらぬ罪などをかぶらないようにさっさと退室することにしたのだろうなと内心思いながらも、私は小さく息を吐いた。
マリア男爵令嬢はさっさと逃げるように部屋から出て行ってしまい、残されたのは私とエドモンド様のみ。
エドモンド様は顔を未だに真っ青にされており、大きく息を吐いて呼吸を整えると言った。
「リリア。すまなかった。」
突然頭を下げられ、私は動揺してしまいます。
「エドモンド様!?王太子ともあろうものが、頭を下げてはなりません!」
「いや、私は間違ったのだ。・・・お前の気持ちを・・・これまで知ろうともしていなかった。すまないが・・・白昼夢で・・お前の父に殺される前に言われたのだ。お前がいかに私を愛していたかと。」
「え?」
突然の言葉に頭が真っ白になります。
え。何?私、知らない間に、愛を、お父様から伝いでエドモンド様に伝えられたの?!
え、やめて!何それ!恥ずかしすぎるんですけど!
「今回の男爵令嬢への嫌がらせは・・・私への愛からきたものだと・・・思ってもいいだろうか?」
その言葉に、一気に顔が熱くなり、真っ赤になるのが分かります。
ですが、今、ここでちゃんとエドモンド様と向き合わなければならないことは分かります。
今まで意地ばかり張って、殿下に、自分の気持ちを何一つ伝えられていなかった。
今度は、間違えたくない。
「私は・・・エドモンド様の事をお慕いしております。ずっと・・・それ故に・・・醜い女となり・・・マリア男爵令嬢にも嫌な思いをさせました。」
「あ、その事であれば、特に気にしていないので大丈夫です!では、お幸せに!」
突然部屋の扉が開いたかと思えば、マリア男爵令嬢がそう言ってまた去って言った。
私とエドモンド様との間に、沈黙が訪れます。
ですが、エドモンド様が立ち上がる気配がしたかと思うと私の前に膝をつき、私の震える両手を優しく包み込んでおっしゃいました。
「私と、一からやり直してはくれないかい?」
真剣な瞳に、私は小さく頷きました。
その後、私とエドモンド様は少しずつ愛を育み、その一年後に結婚いたしました。
国は亡びず、私はエドモンド様との幸せな日々を過ごしております。
マリア男爵令嬢は、領地で知り合った騎士とすぐに結婚し、今ではお子さんもいるそうです。
ちなみにエドモンド様は未だに私の父と対面する時には、私の手をぎゅっと握って離しません。トラウマが残ってしまっているようです。
私の父はそんな様子を見るたびに、幸せになってくれてよかった。そうでなかったらこの国など亡ぼしていたと、恐ろしい事を口にします。
本当に出来るので、止めて下さいと心の中で思いました。
恐らく、私のお父様が最強な事は今も変わりません。
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