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#08 (二)「また今度誘ってくれ」

 



     二




 本日最後の授業を終えると、湊輔(そうすけ)雅久(がく)は手早く帰り支度を整えて昇降口に向かう。


 昇降口に着くと、湊輔はいつもより生徒が多いと感じた。この時間だといつもは見かけない顔ぶれもある。


 昼休みに雅久が言っていた――実際は朝に担任の陽奈(ひな)が話したが湊輔は聞いていなかった――通り、放課後に体育館を使う部活動に所属する連中がこれから帰ろうとしているところだった。


「おい、湊輔、あれ!」


 不意に雅久が声を潜めながらある方向をあごで指す。


 その方向に視線を向けると、見覚えのある人物がいた。


 泰樹(たいき)だ。数人の男女に取り囲まれている。


「これからあたし達モール行くんだけど、泰樹も行かない?」


「この前スイパラ開店してさ、今学割キャンペーンやってるんだって」


「マジで? だったらついでにガチャガチャやろうぜ? 『モコネコ』ってシリーズの銀色のやつが全然出なくってよ。みんなで回そうぜ?」


 女子二人が話を持ちかけると、泰樹が答えるより早く、隣にいた男子が割り込む。


 今日体育館が使えなくなったことで休みとなった部活に入っている生徒たちだろう。


 湊輔が通う高校の近くにある駅から一つ先にある駅の近くにある大型ショッピングモールに行こうという話をしている。


「モコモコ? なにそれ?」


「違ぇよ、モ、コ、ネ、コ! 知ってる女子は知ってるし、集めてる女子は集めてる、そこそこ人気あるんだぜ」


「モコネコ……そういや、理桜(りお)がそんなの集めてたな。丸くてもこもこした感じがめっちゃ可愛いって」


「お、泰樹の妹もモコネコ集めてんの?」


「あぁ、理桜に頼まれて俺も何度か回したことはあるな。銀色のは――二回、だな」


「マジでッ? あれレアもんなのに――」


「出たー、泰樹のシスコン!」


「おい、このくらいでシスコンは心外だぞ……」


「てか意外だな、泰樹がモコネコ知ってるとか」


「そ、れ、よ、り! モール行く? 行かない?」


 モコネコというガチャガチャのシリーズで盛り上がる男子を押し退()けた女子が泰樹に詰め寄る。


「悪ぃな、今日は用事があるからすぐ帰らねぇと」


「えー、もしかしてデートぉ?」


「そんなんでもねぇよ。悪い、そろそろ行くわ。また今度誘ってくれ」


 強引に誘いを断ると、泰樹は足早に昇降口を出ていく。


 泰樹が一人で帰路に着く。


 これは思ってもみない機会と捉えた湊輔と雅久も、急いで後を追う。


 二人が泰樹を追って学校を出た後のこと。


「はぁー……最近泰樹付き合い悪いね」


「ねー。なんでだろ?」


 誘いを断られた女子二人が落胆しながらぼやく。


「なにしてんの、お前ら?」


 そこに、長身の男子生徒が声をかけた。


「聞いてよー。泰樹にモール行こって誘ったんだけど、ダメだって言われちゃった」


「あー、シバか……。お前ら、あいつん家が喫茶店やってんの、知らない? あいつの母さんが店主やってんだけど、ちょっと前に事故って、今入院してんだよ。事故っつっても、そんなたいしたことないってシバが言ってたけど、あいつの母さん、元々体弱いからな。ちょっとした事故だけど大怪我して入院しなきゃいけなくなって、今は店を閉めてるけど、いつも店ん中掃除したり、自分と理桜ちゃんの分の飯とか洗濯とか、家のことのほとんどをあいつがやってんだよ」


 長身の男子の話を聞いて、女子二人はバツの悪そうな顔をする。


「ま、シバって身内の話するとしたら理桜ちゃんのことばっかだから、仕方ねぇよ。だからそう気ぃ落とすなって。あいつの母さんの入院もそう長引かないって言ってたし、落ち着いたところでまた誘ってやんな? あ、俺も誘ってくれていいからな? てか、今日行くなら俺がシバの代わりに行ってやろっか?」


 そうして数人の男女は学校を後にすると、近くの駅に向かう道とは反対方向に歩いていく。


 登下校で使う駅から電車を使って向かうこともできるが、学校の近くからショッピングモール近くまで走るバスが通っており、電車で向かうよりも時短で割安ということから、学校帰りや学校近辺に住んでいるならこちらが断然お得ということで、よく利用されている。


 一人になった泰樹の後を追った湊輔と雅久だが、駐輪場に差しかかったところで距離を離されてしまった。


 学校の近くにある商店街に住んでいるなら、きっと徒歩で来ていると踏んだ二人だったが、今日は運悪く泰樹が自転車に乗って登校していた。


 赤いフレームが特徴的なロードバイクとともに駐輪場から出てきた泰樹は、そのまま颯爽(さっそう)と走り去る。


 さすがにロードバイク相手では走っても敵わないと、二人は追いかけることを諦めた。


「まぁ、店の場所は分かってるし……」


 そう(つぶや)きながら湊輔はポケットからスマートフォンを取り出すと、メモ帳アプリを開いて『喫茶イチゴ』に関するメモを確認すると、雅久とともにいつもの足取りで歩き出した。

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