表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/46

#45 (終)「先輩、また、会えるんですよね?」

 



     六




「ねぇお兄ちゃん、ねぇってば!」


 どこか不安そうな色を(にじ)ませた、女の子の声が耳に入ってきた。


「ん、あ、あぁ、(わり)ぃな、理桜(りお)。少しボーっとしてた」


 聞きなれた、低いハスキー声が続く。


「お兄ちゃんだけじゃないよ。遠山(とおやま)さんも我妻(あがつま)さんも、いきなりボーっとしてさ」


 長い髪を頭の片方に結んだ少女――柴山(しばやま)理桜の不信そうな表情が、宙を漂う湊輔(そうすけ)の意識に映り込んできた。


「あ、うわ、うわー、あれだ。俺たち、キャトルミートゥレーションされてた! な、なぁ、湊輔? でスよね、先輩?」


「我妻……キャトルミューティレーション、だぞ」


「あ、そう、それッスそれッス!」


「理桜、お前もう一回投げてみろ? さっきとは違う結果が出るかもしれねぇ」


「えー、いいよー、もう。欲しかったのゲットしちゃったし、お兄ちゃんだってめっちゃ高価な金券もらったじゃん」


「あ、あぁ、そうだな。そうだった。なら、適当に屋台で飯買ってきてくれ。頼む」


 五千円札を理桜に押しつけるように渡すと、その小柄な体を回れ右させて、背中を押しては送り出す。


 理桜は納得いかない様子だったが、それでもどうにか歩き出した。


 やがて少女の背中が見えなくなると、泰樹(たいき)が険しい表情で湊輔を見つめた。


「遠山、今ちょっと抜けろ」


「えぇ、はい。――雅久(がく)、悪い、少しだけ頼んだ」


 雅久がなにか言いかけたが、それよりも早く二人はその場から離れていく。


 やがて体育館裏に着くと、泰樹が先に切り出した。


「遠山、お前、また異空間に行ったら、戦えるか?」


 突然の問いに、湊輔はどう答えるべきか分からず、(うつむ)いた。


「今後も、アイツらみてぇなのが出てくるかもしんねぇ。それでも、戦えるか?」


 湊輔は、つい先ほどまで見ていた白い騎士の姿を思い浮かべては、依然として黙ったまま。


「お前、知ってるか? お前自身、死ぬことがねぇって」


 それを問われて、湊輔は思わず顔を上げた。


「……はい、なんとなくですけど」


「お前、これからどうする? 戦えるか?」


「……戦えない、戦わない、戦いたくない、っていうわけにも、いかないんですよね」


「あぁ、そうだ、そうだな。お()ぇらの戦いはまだ続くだろうよ」


「……柴山先輩から見て、どうです? 俺、戦い続けられると、思いますか?」


 泰樹はすぐに答えることなく、生まれ持っての鋭い眼を細めてからつむると、ため息を吐いた。


「遠山、俺はその質問に答えることはできねぇ。お前ぇのことだろ。お前ぇのことはお前ぇでなんとかしろ。お前ぇの意志を他人に委ねるんじゃねぇ。他人に委ねて、うまく行かなかったら他人のせいにすんのか? 他人のせいにできるから他人に委ねんのか? やめとけ。いいか、お前ぇの意志はお前ぇがなんとかしろ」


 まったく反論の余地はなく、湊輔はただ力なく頭を一度縦に振るしかなかった。


「ったく、しょうがねぇやつだ。次の登校日に会う機会があったら、これからも戦えるかどうか、ハッキリ答えを聞かせろ、いいな?」


 湊輔は今の泰樹の言葉に、違和感を覚えた。


 それと一緒に、異空間でブロンド髪の少年が口走った言葉が(よみがえ)る。


 だから、こうは聞かずにいられなかった。


「先輩、また、会えるんですよね?」


 すると泰樹は、いつものしかめっ面から、普段多くの人には見せない、温かく柔らかな笑顔を見せた。


「あたりめぇだろ? なに言ってんだ?」




 学校祭は通常の休日に行われたため、休み明け直後の平日が振替休日となった。


 連休明けの登校日。


 湊輔はいつも通りに、雅久と一緒に電車に乗って登校の道を辿(たど)る。


 やがて正門をくぐった後、急に後ろから引っ張られ、B棟校舎の非常階段に連れて行かれた。


 湊輔と雅久を引っ張ったのは、颯希(さつき)だった。


「あれ、長岡(ながおか)先輩じゃないッス――」


 湊輔は無言のままに、雅久は言葉を切って、それぞれ息を()んだ。


 会えばいつも八重歯を光らせて、屈託のない笑顔を浮かべる颯希の目から、涙がこぼれている。


「なぁ……お前ら……」


 呼吸がままならないような、今にも泣き叫びそうになるのを我慢している声で切り出す颯希。


 湊輔と雅久は、黙ったまま颯希の二の句を待った。やがて、颯希が絞り出すように言い放った。


「シバ……死んじまったよ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ