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#26 (五)「違うんだ、違うんだよぉ!」

 



     五




 骨人型(スケルトン)屍人型(アンデッド)幽霊型(ゴースト)を生み出している見えざる黒幕を探すため、悠奈(ゆうな)颯希(さつき)は昇降口から外へと出た。


「さて……探すにしても、少しくらいは目星をつけねぇとな。悠奈、悪ぃけど、なんか思いつくか?」


 悠奈は(うつむ)いて、人差し指を下顎につけながら黙り込む。


「最初は、正門。骨人型が四〇。少しして、南門あたりから、また骨人型。二〇未満。それから図書館の入り口で美結(みゆ)さんと遭って、話していたら、また正門に骨人型が三〇。同時に、グラウンドに屍人型が一〇。それから、体育館の上から幽霊型が五――あ……」


 なにかに気づいたように、悠奈は顔を上げると、颯希と視線を交わす。その様子を見た颯希は、どこか期待を含んだような笑みを見せた。


「颯希さん、体育館と武道館の裏、テニスコートです。まだ、そこには行ってませんから」


「なるほどな。よし、じゃあさっそく向かおうぜ」


 颯希は(きびす)を返して校舎の中へと向かう。悠奈はその背を追いかけた。校舎の外を回るよりも中を通ることで、より最短距離で迎えるからだ。


 やがて二人はB棟校舎と武道館をつなぐ連絡通路に着き、外へ出るなり武道館の壁際に身を寄せて、テニスコートの様子を(うかが)う。するとそこに、幽霊型のような黒いローブを身にまとい、フードを被り、顔にはマスクをつけた、いかにも怪しげな人影があった。


「おいおい、割と呆気(あっけ)なく見つけちまったな。しかも堂々とコートのど真ん中に立ってやがる。あたしからすりゃ、どうぞ射ってくださいって言われてるようなもんだぜ」


「それじゃあ、どうしますか――って、えッ」


 颯希は矢筒を静かに足元に置き、そこから矢を四本抜き取る。そして、壁際から一歩離れながら矢をつがえ、射線を確保し、狙いを定める。


 怪しい人影の頭部を矢が貫通して突き刺さるのに、そう時間はかからなかった。さらに立て続いて、右足の太ももに一本、胸元に二本の矢が刺さる。


「す、すごい……」


 すべての矢を命中させたことはおろか、装填(そうてん)から射出までの速度と正確性に、悠奈は思わず目を見張った。


 これで決まったかと思いきや、颯希は足元の矢筒から、さらに矢を三本引き抜くと、一本をつがえて標的に向けている。


 黒いローブは体をよろめかせながら、颯希の姿を捉えた。膝から崩れ落ちると、左手に持っている麻袋に右手を入れ、白いなにかをばら()く。そして横倒れになると、そのまま全身から力が抜けていき、沈黙した。


「ふぅ……にしても、ありゃなんだ?」


 引き絞った弓の弦を緩ませて構えを解いた颯希が、矢筒を拾い上げてテニスコートへと歩み寄ろうとする。


「颯希さん、ダメ!」


 悠奈が壁際から飛び出して颯希の手を握ると同時に、テニスコートにばら撒かれた白いなにかが震え出し、一つに凝縮して縦長の球体を形作る。さらにそのあちこちから大小様々な突起が突き出してきたかと思えば、やがて二メートルを超える人型となった。


「おいおい……骨人型騎士種《スケルトン・ナイト》の出来上がり、ってか」


「骨人型、騎士種……」


 全身の至るところに、(よろい)のような白い外骨格をまとい、左手に全長一五〇センチほどのロングソード、右手にカイトシールドを携えている。


 白骨の騎士が二人の存在を認識すると、盾を前面に構え、腰を低く落として戦闘態勢に入った。


「悠奈、こいつは初めてか?」


「え、はい、初めて、です」


「そっか――じゃあ、(わり)ぃな、これ持って引っ込んでろ」


 颯希は矢筒から矢を五本引き抜き、まだ何本か矢が入っているそれを悠奈に手渡して、待ち構える敵に向き直った。


「颯希さん、いいんですか?」


「いいんだよ、これで。心配すんな、正直五本もいらねぇけど」


「で、でも……」


 悠奈が食い下がると、颯希は肩越しにほほ笑む。自信満々な、八重歯をぎらつかせた不敵な笑み。


「大丈夫だって。それより、コイツが初めてなら、どう動くかよーく見とけ。ついでによ――」


 言葉を切ると、颯希は両手をめいっぱいに広げる。


「この《弓聖・颯希》様の戦いぶりをなッ!」


 自らを弓聖と名乗った颯希は、矢をつがえ、白骨の騎士めがけて走り出す。


 骨人型騎士種は颯希が迫ると、盾を構えたまま、左手を斜め上に振り上げる。長剣の間合いに進入されるや否や、体を右に捻ると同時に斬りかかった。


 颯希は斬撃を悠々と右斜め前方に跳んで(かわ)すと、体が宙に浮いた刹那に矢を放つ。それは白骨の騎士の、盾を握る右手に襲いかかり、命中と同時に破砕した。


 右手が砕かれたことで、盾は落下して地面へと転がる。だが、盾を失った騎士はそれを気にすることなく、左側に踏み込み、振り下ろした剣を横に払う。


 襲いくる刃を、颯希は後ろに跳んで躱した。またしても、跳躍と同時につがえていた矢を射ち放つ。次の狙いは剣を握る左手。動作の終着点が見えていたかのように、振り払われた白骨の手に矢じりが直撃する。


 振り払った際に働いた慣性と、襲いかかった矢の勢いにより、ロングソードが吹き飛んだ。剣と盾を失ったというのに、白骨の騎士は動きを止めない。両腕を広げて、颯希へと肉薄する。


 地面と水平に、右の上腕と左の上腕が一直線になるほどに広げられた両腕の左脇を、颯希は転がるようにしてすり抜ける。背中が地面に着いた瞬間、颯希の三本目の矢が、白骨の胸当の脇の隙間から入り込む。肩甲骨と鎖骨を砕き、左腕が落下した。


 さらに四本目の矢を射ち、左足の大腿骨(だいたいこつ)脛骨(けいこつ)の継ぎ目に命中させる。


 左足の膝から下がなくなったことで、白骨の騎士は左半身から崩れ落ちた。


 それを見越して、颯希はすでに動き出している。突進の勢いでうつ伏せに倒れた騎士の背中に座るようにして押さえ込むと、弓の胴と弦の輪の中に通した左手で頭をつかみ、矢じりが小指側に向くように右手で最後の一本の矢を握り締めて振りかざした。


「うらうらうらうらうらうらうらうらうらあッ!」


 骨人型騎士種が頭につけている(かぶと)は、西洋のプレートアーマーに多く見られるような、頭から首回りまで覆うようなものではない。ヘルメットのように、あくまで頭を守ることを優先された簡易的なものだ。


 颯希はヘルメットの下部にできた隙間から、白骨の頸椎(けいつい)めがけてなんども矢を(たた)き込む。その姿は弓聖などとはほど遠く、もはや野蛮で勇猛な女戦士――アマゾネス。


 何度も削蹄(さくてい)音を鳴らし、やがて一際大きい音を立てて、兜をつけた白い頭蓋が横に転がった。


「うっしゃあッ!」


 骨人型騎士種の沈黙を認めた颯希は、立ち上がると両手を真上に伸ばしながら勝鬨(かちどき)を上げる。


「どーだぁ、悠奈、見たか! このあたしの雄姿……を……」


 悠奈の顔はまっすぐ颯希に向いているが、笑顔のまま呆然(ぼうぜん)とし、固まっている。


 悠奈と見つめ合い、やがて颯希はあることを思い出したらしく、矢を握って掲げている右手を見て、足元の白い骸を見て、再び悠奈を見た。そして、足早に悠奈に詰め寄ると、両肩をつかむ。


「ゆ、悠奈! 違うんだ! これは全然そんなんじゃねぇ! 違うんだ、違うんだよぉ! だからあのあだ名だけは忘れてくれぇ! 悠奈ぁッ!」


 肩を前に後ろにと揺さぶられて、悠奈は我に返った。


「あッ、えっと、颯希さん、お疲れ様です! かっこよかったです! すごく野性味(あふ)れる勇ましさでした!」


 颯希は途端に、「あああぁぁぁぁ……」と長い嘆きの声を漏らしながら、その場に膝からへたり込んだ。


「颯希さん、それより……」


「……あぁ、()あってるよ」


 颯希は立ち上がると、悠奈から矢筒を受け取る。


死霊術型(ネクロマンサー)は確かにいたし、あたしが倒した。でも、まだ終わらねぇってことは」


日下(くさか)先輩たちがまだ幽霊型と戦っているか、あるいは……」


「ん? あるいは? まだなんかあんのか?」


「まだ死霊術型が――」


「颯希さん!」


 悠奈が言いかけたところで、別の誰かの声によって遮られた。二人が声のした方向を見ると、美結を抱えた剣佑(けんすけ)と、その背後を警戒しているようにバスタードソードを構える陽向(ひなた)がいた。


「お前ぇら、なにしてんだ? 幽霊型は?」


「それどころではなくなりました!」


 剣佑は鬼気迫る表情で答えながら、二人に駆け寄る。


「敵の増援です! 骨人型、屍人型、合わせておよそ六〇!」


「日下さん! 来ますよ!」


 剣佑の報告と陽向の叫び声で、悠奈と颯希の全身に緊張が走った。まもなくして、剣佑たちが姿を見せた場所、体育館の陰から、幽霊型と骨人型、屍人型が続々と現れる。


「ちッ、マジかよ! 剣佑、もう少し美結を頼む! とにかく逃げるぞ!」


 颯希の一声で、四人――美結は剣佑に抱えられたまま――は迫りくる死霊たちを背にして、一目散にテニスコートから撤退した。


 すでに息も絶え絶えな剣佑と陽向を連れ添いながら、敵を振り切るにはそれなりの時間と距離を要した。


 骨人型と屍人型の速度はそれほどのものではない。だが、幽霊型がつかず離れずの距離で追いかけてくるため、まずは食堂近くで颯希と悠奈、陽向で五体の浮遊体の足止めをし、美結を抱える剣佑を先に逃がした。


 幸いにも幽霊型は逃げる剣佑を追うことはせず、三人に対して襲撃を行ったため、剣佑は無事に昇降口からA棟校舎に避難できた。


 その辺りで、緩慢な速度で移動する骨と(しかばね)の集団が見えてきたため、三人は再び走り出す。陽向が限界を示してきたため、昇降口を素通りしてA棟校舎の角を曲がり、B棟校舎の手前で颯希と悠奈が立ちはだかる。その間、陽向はまたB棟校舎の非常階段にある扉から校舎の中に避難した。


 スタミナがまだ残っている二人は、陽向の撤退を確認するや否や踵を返して駆け出す。B棟校舎に沿って走り、幽霊型との距離を離して、B棟校舎と体育館をつなぐ連絡通路から校内へと進入して事なきを得た。


「あー……颯希さん、に……悠奈、ちゃん……」


 すでに両手剣を持ち上げる気力がないらしく、剣先を廊下に引きずらせている陽向が二人と合流した。


「はぁ、ふぅ……よし、あとは剣佑と、美結だ。雑魚どもが中に、入ってくる可能性だって、あるからな。とっとと、見つけねぇと」


「あの、さっき使ってた鷹眼(スナイプ)で、二人を見つけられないんですか?」


「悪ぃな、鷹眼は敵しか見えねぇんだ。味方の位置まで視れれば、苦労ねぇんだけどよ……。ま、逃がすときに二階にいるように伝えてあるし、あたしらも二階に行こうぜ」


 食堂付近で剣佑を先に行かせる際、颯希は剣佑に二階で待機するように伝えてあった。美結を抱えたままなため、かなりの消耗を強いらせる。その指示を口にした直後、颯希は後悔したものの、剣佑は快諾していた。


 三人はB棟校舎の二階に上がり、北側連絡通路を通ってA棟校舎へと進む。剣佑と美結と合流したのは、北側にある非常階段のすぐ横にある三年A組の教室だった。


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