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#01 (一)「どんなヤツ?」

 



     一




「なぁ、今日はどんなヤツだろうな?」


 一年B組の教室の窓際最後尾の机の上に座っている――椅子ではなく、机の上に我妻(あがつま)雅久(がく)が、隣の机に座っている――こちらは机でなく、椅子に――遠山(とおやま)湊輔(そうすけ)に尋ねる。


「どんなヤツだろうな。俺は別にどんなヤツでも構わないけど……」


 湊輔はそう言いながら、なんとなく時計に視線を向ける。


 時計の針は一〇時一五分より少し手前を指している。指して、止まっている。この状態になってから、湊輔の体感では三分ほど経過している。


 時計は電池が切れているわけでも、壊れているわけでもない。正常そのもの、だった。


 三分ほど前に――湊輔の体感でいえば――、世界が、世界の時間が止まった。時の流れから、この一秒にも満たない一瞬だけが切り離されたかのように。


 雅久が湊輔の顔を(のぞ)き込むように、机に座ったまま上半身をかがめる。


「へぇー、湊輔はどんなヤツでも余裕ってか?」


「そんなんじゃないよ。……どうせどんなヤツが来ても、つらくて大変なのは変わらないだろうってこと」


「あー、この前のヤツ、だいぶヤバかったんだっけ? なんつったっけ……」


「翼人型《ハーピー》」


「おぉ、そうそう! それそれ! えらくボッコボコにされたんだっけなぁ?」


「うん。メンバーの相性が悪かったのかなんだったのか、五人中三人も重症ってんだから、ホント酷かったな、あれ……」


 湊輔も雅久も、この静止した世界に来たのはこれが初めてではない。湊輔は過去三回、今回が四回目、雅久は過去四回、今回が五回目に当たる。


 湊輔は前回の惨状を思い返して、途端に鬱屈とした気分になった。


 なにせ、一人は右わき腹をえぐられ、一人は左肩から上腕にかけて潰され、一人は右足が逆方向へと折り曲げられる、という日常ではおよそお目にかかれない悲惨な光景を見せつけられたのだから。


「それでもよ、湊輔ともう一人とでどうにか仕留めたんだろ? 劣勢を覆したヒーローの片割れ・遠山湊輔! かぁーっくいい!」


 雅久は机から飛び降りると、湊輔の背中をバシバシ(たた)く。


 それを鬱陶しそうに湊輔が手を振って払うと、雅久は「当たらねーよ」という風に退いてかわす。


「ヒーローの片割れとか、全然恰好(かっこう)ついてなくないか? てか、よせよ。どうにかなったのも、大方あの誰かのおかげだし、俺はすごいことなんかなんにもしてないからな」


「またまた、ご謙遜なすって――お、おでましだぜ」


 それまで陽気に話していた雅久の表情が引き締まる。そして背後の壁に立てかけてある、身の丈以上もある長方形の鉄板もとい大盾を持ち上げる。


 つられて湊輔も机の右側に立てかけていた剣を手に取り、(さや)についているベルトを腰に巻いて帯剣する。


「どらへん?」


「……屋上だ」


 湊輔が尋ねると、雅久は視線を斜め上に向けて答える。


 この空間において、雅久には特殊な能力があった。


 標的が現れると、どこにいようとそのシルエットがぼんやりと視界に映るというものだ。


「どんなヤツ?」


「……さすがにそこまでハッキリしないんだよなぁ、これ。とにかく行ってみようぜ」


 雅久は先だって足早に教室を出ていく。追いかけるように湊輔も後に続いて教室を後にした。

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