CASE:3 内藤蛍 1/3
内藤蛍、あまり出て来ません。
エリートの集まる世界。医学部医学科の中で、適性を持っていてなおかつ好成績じゃないと入れない領域。
2012年に発足して、それ以来医者と並んで活動する政府直属の組織。
それが「癒し屋」だった。
癒し屋は現場に立って医術を施す者、研究室にて医者を開発・改良する者の二パターンに分かれ、それぞれがオカルトによる怪我や病気に対抗する。
祓い屋とは違うオカルト対抗組織。
……そう聞いていた。ーーそのはずだった。
研究室は、雌と雄の匂いが充満していた。
研究と言える研究はーー
一人の女しかやっていなかった。
その女はストレスが溜まり続け、ついに……
「やめさせてもらいます!」
辞表を上司に突きつけ、全ての研究成果をシュレッダーにかけ、
二度と、研究室に入ることはなかった。
日本人には珍しい赤髪と、少しだけ彫りの深い顔。
それでも、何故か「白衣の似合う」雰囲気を持つ。
人が言うまでもなく、彼女は「医学の道へ進むもの」と自覚していた。
内藤蛍。「ケイ」と呼ばれることを好む彼女はクリミアの天使「フローレンス・ナイチンゲール」の生まれ変わりだと自覚していた。
だからこそ、彼女は許せなかった。
清潔なる医学の研究室が、ひどく淫猥な雰囲気を成していたことを。
飲み干した缶コーヒーの缶を投げつけると、綺麗にアタマに帰ってきた。
「っ!……痛ぅ…………はぁ」
一つため息を吐いて、空を見上げた。
幸い、医師免許ならある。
どこかの病院に勤めればいいか……
そう思っていた矢先のことだった。
「ここにいたのか、ケイ」
「……トーヤ」
柊冬也ーー蛍の友人で、現場側の人間ーーがそばにいた。
「聞いたぜ。辞表突きつけて、研究成果シュレッダーかけたんだって?未発表のやつも。発表済のやつはなんとかなるらしいけど、未発表のやつが何もわかんないって大騒ぎだ」
「……いいのよ。あいつらには何も分からなくて」
「仕事、ないんだろ?俺の知り合いが、癒し屋の技術を学びたいっていっているんだ。どうだ?家庭教師、やらないか?」
「ふーん、学歴は?」
「最終学歴中卒」
「……ーーは?」
私は、固まる他無かった。