CASE:2 白石真白 3/4
それから幾年が経ち、陽8歳、真白6歳の頃に陽が導き出した予言は、三年後に予測された通りに的中した。
2001年の事件から10年丁度に起きた災害。
学校に行けば陽は非難を浴び続けた。
「お前のせいでじーちゃんは死んだんだ!お前が予言しなければ!」
殴られ蹴られの毎日。それでも彼は怒らなかった。
教師も一向に対応をしなかった。「自業自得」の一言で一蹴された。
お前が予言したからだ、と。全てを予言した人間に向けた罵声を、陽にぶつけていた。
後に彼は二年間の引き篭もり生活になる。真白はそれでも彼を献身的に支え続けた。
家の中で空虚を見つめる彼のために、彼女は料理を作って、食べさせた。
「美味い、美味いよ。真白、ありがとう」という言葉で、真白も救われた。
ーーだからこそ、許せなくなった。
いじめ続けた人を。いじめを黙認した教師を。
陽を休ませた後、彼女は、
「憎い……私のお兄ちゃんを殺そうとした奴らが……」
そう言って、憎悪を募らせていった。
2年後、日を開けながら学校にかようようになった陽を、未だ執拗にいじめ、暴行する少年たちに対して。無言で受け入れる陽。
それを日常として受け止めることで、心を無にしていた。
ーーリーダー格の少年が殴ろうとした刹那。
真白が塀を乗り越え、少年の顔面に足を当て、全体重をかけて倒した。
真白は小柄な部類だ。9歳の彼女の身長は130cmは無い。25kgあるかどうかだ。
しかし、それでも、頭部に25kgの物体を勢いよく押し付けられれば、鍛えていない限りバランスを崩してしまう。
倒れた少年に対し、起き上がる前に真白は馬乗りになり、顔を、鳩尾を殴り、脛を蹴った。
「……真白?」
陽は知らなかった。真白はスクールカーストで頂点に位置すると。
文武両道とは聞いていた。しかし、喧嘩も強いとは聞いていなかった。
だからこそ、中学生を小学4年の少女が一方的に殴る姿が、ただただ不思議でならなかった。
「あなた達が悪いのよ……あなた達みたいなのがいなければッ!お兄ちゃんは……苦しまなかったのにーー、死ね、死ね死ね死ね!苦しんで死ね!生きる価値のない無能共が!」
口の悪い彼女も、兄の前では出せなかった。
もしもバレてしまえば、嫌われるーー
それだけが、それだけが嫌だった。
少年は執拗な暴行にのびてしまい、それを見た他の少年らもそそくさと逃げ出した。
陽は、言葉を選んでいた。
怒るべきなのか、それともーー
「ありがとう、真白、強いんだね」
陽は陽で、真白に怒って嫌われるということを恐れてしまった。
「……あり、がとう……ありがとう、お兄ちゃん……」
その後同じように顔面と鳩尾、脛を執拗に暴行された教師が発見された。
その犯人も、真白であることに変わりはないだろう。
真白にとって、兄である白石陽は、血は繋がってなくとも、大切な家族だから。
絶対に害なすものを許さない。
真白は願うこともある。力を。
あの日以降、学校でも真白は「非力だ」と呟くようになった。
「そんなことないよ!」と励ます学友もいた。
それにたいして、
「ううん、私が欲しいのは……お兄ちゃんを守れる力なの」
そこから熱く語られる「お兄ちゃん自慢」と、いじめっ子フルボッコ伝説、そして夏休みの作文に書かれた「お兄ちゃん自慢」は真白を「ブラコン妹」という認識が広まるのを加速させるのには十分すぎるものだった。
ーーちなみに、その「お兄ちゃん自慢作文」は、陽が呼び出され「どういう教育をしているのか」と質問されるのにも、あまりにも容易だった。
陽の教育は基本的に甘やかし系で「やりたいことはやらせてみて、見聞を広めてほしい」ということである。