CASE:2 白石真白 2/4
それから数年が経つと、女児は健やかに少女へと成長した。
長い黒髪は母親と同じようで、白い服を好んで着るようになった。
少女に育つに連れて、彼女の周りで、とんでも無いことをが起きてることを二人とも知らなかった。
ある土曜日、少女ーー「白石真白」と名付けられたーーと陽の元に、二人の男がやってきた。
「あの……どちら様で……?」
「白石真白様でごさまいますね?私たちは真白様の祖父母のお世話役をしておりました」
「しておりました……っていうことは……」
ーーまさか、と陽は気づいた。
「ええ、先日、ご逝去なされました」
「ごせーきょ?」
「……真白……」
陽は言葉を紡ぐことが出来なかった。そこで男らが、
「真白様のおじい様とおばあ様は死んでしまわれたのですよ」
「ーーッ!」
その一言は、真白の心を抉った。
悲しそうな表情と、悲痛に歪む口を、陽は見ることしかできなかった。
玄関で会話するのも、ということで、男らには上がってもらった。
心に傷を負った真白をみて、二人の男のうちの一人は、一つの手帳らしきものを取り出した。
「これは……手帳……じゃない、通帳か」
「はい。中をご覧ください」
陽は手に取った手帳を開くと、小さい単位だか小刻みに大量の入金がされていた。
その金額はーー
「100……億……?」
眼を見張る、だとか、眼を疑う、だとか。
そんな言葉も出ない金額が。
通帳の中には入っていた。
男は事情を説明した。
ーー祖父母は超がつくほどの地主であり富豪であること。
それを隠していたのは、娘が負い目に感じないようにするためだったこと。
娘の自殺を知り、私たちも娘のところへ行くこと。
せめてもの償いに、孫を苦しませないために、土地もマンションも、何もかもを売り払い、真白のお金にしたこと。
そして、遺言書を残し自殺したこと。
「えっと、色々差し引いてこの金額ですか?」
「はい」
陽の質問に男らは端的に答える。
他にも疑問は残るが、お金があるということは、それを全て払拭させてしまうということ。
幸い、陽の金銭感覚は、昔から一人で仕送りで生活していたためかなりまともである。
「真白、真白」
とてとてと歩いてきた真白の頭を陽は優しく撫でる。
「真白、色々やれるようになるからなー……」
その言葉を聞いた真白は、
「真白、お兄ちゃんといっしょにいるだけで大丈夫だよ?」
「……真白、俺もまだ子供だけどさ、子供は、我儘を言っていいんだよ」
真白の言葉に、どう返答すれば良いのか、わからなかった。
男らは、「では、要件は言い伝えましたので」と帰っていった。
男が見えなくなったあと、真白は陽に抱きついた。
「お兄ちゃん、わたしは、お兄ちゃんといっしょにいたい。わたしのわがままは、それだけ」
その一言は、陽の心を優しく包んだ。
「……ありがとな、真白。いつまでも一緒に居たいって思えるような、兄ちゃんになるからな」
その言葉は自分に言い聞かせるもののはずだった。
だが、その言葉は、真白の心を癒すものでもあった。